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「ここが、あいつらの言ってた村...かな」

森を出て、少し歩いたところに見つけた、どこにでもあるような小さな村。
村に足を踏み入れ、リルトは辺りを見渡した。
狭い村だから、少し見回すだけで全体を大体見渡せる。
入り口のすぐそばには、古臭いが他とは違った風貌の大きな家が立っていた。
確か、ロイド達は学校がどうとか言っていたっけ。学校......学ぶ建物って意味だったよな、とリルトは考える。
通ったことどころか行ったことすらないから、どう言ったものなのかは知識的にしかないけど、多分...この目の前にある建物がガッコウというものなのではないだろうか。他にめぼしいものはないし..きっとそうだ。
校舎らしきモノを眺めながら、
「なら、ロイド達はこの中にいるのか」と、一人リルトは納得したような声を出して頷いた。

そんな時。
空を覆うような光が、辺りを照らし出し、
不意に辺りがその光に包まれ、リルトは咄嗟に空を見上げた。
気持ち悪くなるくらいに、眩い、暖かい光。
その光に、何故かオレは懐かしさを感じていた。
あの光、なんだか.....ディセンダーが産み落とされる際に発される光に、少し似ている、ような気がする。
世界を包み込むような、暖かい光。
ディセンダーを生み出すと一緒に発される...世界に、危機が迫っているということを知らせる、世界樹からの危険信号。母である世界樹が落ちていく我が子を守るべく、発する光。

次第に、辺りを包み込んでいた光が、だんだんと俺へと集まって来た。そして、それと一緒に胸が熱くなっていき、同時に、だんだんと心臓の辺りが苦しくなっていく。
胸が苦しいのは、世界樹が枯れているからか、世界樹がそれを知らせるべくオレに苦しみを与えているからなのか。

その光は、一瞬にして辺りを照らしたが、空高くまで上がると、だんだんと輝きを鈍らせていき、自然と消えていった。

無言で、リルトは空を見上げたまま、眉を寄せる。
胸の痛みは、光が消えたと同時になくなっていた。
でも、ざわついた心は、落ち着くことはない。

何かが起こる気がする。なんて、ディセンダーがいる時点で...分かりきったことだというのに。

その時、オレは、ひどい胸騒ぎを感じていた。


「この世界がどうなろうと、オレにはどうでも良いことなんだがなぁ......どいつもこいつも、世界樹ってやつはなんでこうも自分勝手なんだか..」

自分勝手な人を生み出した世界樹も、また...ということか。
やるしかない。そうしなければ帰れないというのなら、
仕方ない。
そういうことなら、全力で守ってやろうじゃないか。

この...''世界''を救う、''救世主''として。


空を睨みつけながら、リルトは拳をきつく握りしめた。


「やってやろうじゃねぇか..」



揺らぎのない瞳で、世界(ソラ)を見つめて。

自分に与えられた、使命を果たすために。



**********





光が消え、ざわつきも収まってきた頃、複数の砂を蹴る足音が聞こえて来ると、また村の中がざわめき出した。

ディザイアンだ..
なんでディザイアンが村の中に..
信託の日に..

聞こえてきた小さな声に、リルトは首を傾げて足音のした方を向く。
「ディザイアン..?」
どっかで聞いたような、と思いつつ目を向けたリルトの瞳には、鎧を着込んだいかにも兵士といった風貌の人間達が列をなして村の中を堂々と歩いている姿が写り込んできた。
村人達はその兵達から逃げるように怯えた顔を浮かべながらそそくさと家の中へと入っていく。
兵士達は村に何かをするわけでもなく、素通りして入ってきた方とは反対の門から村を出て行った。
兵も居なくなり、村人も避難したため、人の居なくなった村が、一瞬だけシンと静まり返る。

「リルト!来てくれてたのか!」

その静けさを破ったのは、ロイドの嬉々とした声だった。

「熱血くん......じゃなかった、ロイド..それに天才くんも、さっきぶりだな。ああ、行く当てもなかったから来ちゃったよ。というか、さっきのすごかったな、あの光ってさ..」

─キシャアアア!!

「リルト!ロイド!後ろ!!」
「えっ?」
「うわっ、怪物!?」

外へ出ようとやって来たロイドが出入り口の門の近くにいたリルトを見つけ、名前を呼びながら嬉しそうに駆け寄って来た。満面の笑みを浮かべるロイドに、ついいつものようにあだ名で呼びそうになったが直前で言い直し、リルトもロイド達に笑顔を向けた。ジーニアスについては、名前を忘れているというまさかのおかげであだ名呼びのままだが。
二人の後ろをついて来ていたジーニアスとコレットの二人は、ロイドが親しげにしているリルトに誰?と疑問を浮かべてたり、天才くんと呼ばれて首を傾げていたりもしたが、
リルトが先ほどの光について聞こうと問いをかけた瞬間、背後から人ならざる者の声と共に魔物が襲いかかって来たせいで、
ジーニアスとコレットの疑問もその声にかき消されてしまった。
もちろん、リルトの問いかけも。

「聖堂のある北側は聖域なんじゃなかったの!?」
「そ、そんなの俺に言われてもしらねぇよ!」
「たぶん、試練のための怪物じゃないかな?マーテル様の試練は、異形のものと戦うって習ったから..」
「へえ、そう!でも、悪いが今はそれを分析している場合じゃないだろう!とりあえず、倒すぞ!!村の中に入られたら厄介だ!」
「そ、そうだよね!」
「ああ、そうだな!」
「う、うん、そだね!」

三人がリルトに返事をする。
戦闘が開始した途端、飛びかかって来た魔物に、リルトが技を決めて跳ね返す。
そこへロイドが遠距離技で追い打ちをかけて、さらにジーニアスが術を発動する。
コレットがもう片方の敵にピコハンを放ち動きを止め、そこにリルトが最後に奥義を発動してとどめをさした。
リルトが一息をつくと、ロイドがやったな!と声をあげる。そして、コレットもそれに続いて嬉しそうに返事を返し、ジーニアスが呆れた声を出す。
魔物の数は少なかったため、さほど時間をかけずに終わらすことができた。

「チョロかったな!」
「二人とも、すご〜い!ロイド、すっごくかっこよかったよ〜」
「リルトはともかく、俺なんてまだまだだよ、ほとんどこいつのおかげだけだし」
「あ、そっか、エクスフィア..」
「そう、こいつが俺の力を限界まで引き出してくれてるんだ。こいつがなかったら俺なんて..」
「そんなことないよ〜、それでも、ロイドは強いと思うよ!」
「ああ、オレが言うのもあれだけど、もっと自信を持ってもイイと思うぞ?」
「本当か?あ、ありがとうな、二人とも..」

へへ、なんてちょっぴり恥ずかしげに、それでいて自慢げにロイドは笑う。
「剣の腕だけは確かだもんね」とジーニアスに言われて怒ってたりもしたが...なんとも微笑ましい光景だ。
ねえ、とそんな微笑ましい光景の中で、首を傾かせた状態でコレットがリルトに話しかけて来た。

「もしかして......えっと、リルトさん、でしたよね?私はコレットって言います。あの...貴方も、エクスフィアをつけていたりするんですか?」
「え?あ、ああ............って、エクス..フィア?」
「あ、それボクも気になってたんだ」
「あ!そうそう、それ俺も気になってた」
「えっ、あ、えっと.........良く、分からない..っていうか......エクスフィア..って何?」
「え?知らないの?エクスフィアっていうのは、装着すると力を最大限まで引き出すことが出来る..石みたいなもののことだよ!常識だよ?」
「ぐっ、悪かったな...バカで..!」
「別に悪くはないって、むしろ、知らないってことは、生身であれだけ強いってことだろ?すげぇよ!」
「うん!リルトさん、すご〜い!」
「え、あ、いや、そんなことは..」
「二人ともー、彼が凄いのを語るのもイイけど、目的を忘れてないよね..?」

褒める二人に、照れたように頬を染めて、リルトは目を逸らす。
エクスフィア、について聞かれたはずだったけど、なんか話しがうまい具合に逸れてくれたようで、今はリルトの強さについての話しに切り替わっている。エクス...とか、よく分からないし、下手に詮索されずに済んだのなら丁度いい。
凄い!かっこいい!なんて言葉をかけられ、なんだか調子が狂うなあ。と、褒められ慣れていないからか、そんな複雑な感情を抱きながら、ぎこちない照れ笑いを通り越してリルトは苦笑いを浮かべていた。

そこに、ジーニアスが呆れたように息をはきながら、あのさ、なんて口を挟む。
そんなジーニアスの発した言葉に、ロイドとコレットの二人は同時にハッとして「あ」なんて間抜けな声を上げた。

「目的?そういえば、村の人たちは皆家の中に入って行ったのに、なんでアンタらはここに..?」
「さっき神託がくだったから、コレットを連れて聖堂に行く途中だったんだよ」
「そうしたら、門の近くでお前を見かけたからさ!怪物まで現れて、すっかり忘れてたぜ」
「ロイド...しっかりしてよね。そもそも行こうって言い出したのは君なんだから」

悪い悪い、とロイドが笑い、コレットも笑って、ジーニアスはため息をはく。
リルトは一人首を傾げて、そんな三人を見つめていた。

「シンタク..?それって、もしかしてさっきの光と何か関係があるのか?」
「うん。あれが、神託のくだる合図...みたいなものなの」
「へえ..でもなんで、そのシンタク?がくだったからって、アンタらが聖堂に行くんだ?」
「それは、コレットが神子に選ばれてるからだよ」
「再生の神子になるために、今から聖堂に行くんだよな」
「うん。予言の日に...今日、神託を受けるのが、神子に選ばれた私の役目だから」
「選ばれた者の役目、ねぇ..」

君って強いけど、結構何も知らないんだねなんてジーニアスに途中馬鹿にされ「悪かったな」とリルトは苦笑う。来たばかりなんだから当たり前だ。ロイドよりも馬鹿かもね、ととばっちりを食らったロイドも悪かったなと怒鳴っていた。
はは、とそんな光景を見ながら、リルトは、コレットの言葉に、そっと目を細め、笑みが消えるのと同時に下を向く。
選ばれた、か。それは、きっと良い意味での言葉ではないだろう。
役目、使命、と言葉だけを並べれば凄いと感じるかもしれない。
でも、実際は...それはただの、誰かの身勝手な押し付けだ。自由を奪う、最低な言葉でしかない。それを、オレは良く知っている。身を、もって。

「リルト、どしたの..?」
と、オレの表情を読み取ったのか、コレットが心配そうに顔を覗かせてきた。
抜けているようで、案外鋭い子だ。流石は神子ってことか。厄介なやつだ、という情報を頭の片隅に添えながら、
なんでもない、と、そんなコレットにオレは笑いかけて、自分の感情をはぐらかした。
コレットはそんなリルトに、未だ心配したような、納得がいかないといった顔を向ける。
本当に?と訴えているその目に、リルトが再度笑いかけ、
「気にしすぎだ」と言おうと口を開いた瞬間、唐突にまた光が空で弾け、全員が光の発した方へと目を向けた。
光を見つめながら、リルトは、再度感じた痛みに、グッと胸をおさえる。
先ほど、コレットの瞳に映ったリルトの目は、表情とは違って全く笑っていなかった。


「あ!また光が..!」
「あの光、聖堂の方から出てるみたいだね」
「なんだかすごーく眩しいね〜」
「お前なあ...神託が下ったら世界を救う神子になるんだぜ?もうちょっとこう、神子としての自覚みたいなのをさ..」
「うん。だいじょぶだいじょぶ」
「本当に大丈夫なのか..?」
「ねえ、二人とも今はそんな話しはいいから、まずは聖堂に向かおうよ!行きながらでも考えられるでしょ、遅くなっちゃうよ」
「あの光、聖堂から出てるのか...」

他人事のように光を見つめていたコレットにロイドまでもが呆れたように苦笑う。
大丈夫、といってはいるが、呑気なんだか...無理に笑っているのか。
怖くないはずがない。言い聞かせているのかもしれない。とコレットの言動を見てリルトは思っていた。
そんなコレットとロイドのゆるい掛け合いに、ジーニアスがしびれを切らしたのか早く早くと二人を急かしたてる。

「リルトも、ありがとう!来てくれたのに悪いんだけど、ボクたち、行かないとだから。ほら、二人とも、行くよ!」
「あ、おい!ジーニアス急かすなって!」
「ジーニアス、そんな急がなくてもだいじょぶだよ〜」
「あ......な、なあ!ちょっと待って!それ...!オレも、付いて行っていいかな?」

「「え?」」
いきなりの申し出に、すでに歩き出していた足を止めて、ジーニアスとロイドが顔を見合わせた。
コレットもリルトの方へと向き直っており、
リルトは、少し距離の空いた三人の元へと歩み寄る。

「気になる事があるんだ。それにもし、あの光が.........いや、ディザイアンってのも、そこに向かったんだろ?だったら戦力は多い方がイイだろうし...えっと、ダメか?」
「...どうする?二人とも」
「どうするって、そんなの、もちろん!良いに決まってんだろ」
「うん。リルトが居てくれれば心強いし、私も構わないよ」
「..だよね。戦力があるに越したことはないし、ボクも賛成」

「アリガトウな..じゃあ、また少しの間、よろしく頼むぜ」

「おう!」
「うん」
「よろしくね!」


目的は同じ。下手に一人で動くより、神子と呼ばれるコレットがいた方が動きやすいだろう。そんなリルトの考えなど梅雨知らず、
リルトを再びパーティーに加え、四人は笑いながら聖堂へと向かっていった。





神子救世主
(世界を救う使命を背負って)


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