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「牙連双破刃!...ちっ、キリがねぇな..いったい何体いやがるんだよ!」

一、十...ざっと数えて二十はいる魔物の群れを相手にしながら、橙色の髪をなびかせ男は舌打ちをする。
戦っている男のすぐそばにはなぜか大きな穴が空いていて、その近くには大きな鳥の巣のような魔物の住処があって、
最悪の光景、というのは一目瞭然である。
二本の剣を振り回し、なぎ払い、確実に敵を撃破していっているが、減る気配のない魔物の数に橙色の髪をした男は苦笑いを浮かべつつ冷や汗を流していた。


あー!もう!と、
疲労してきた身体で、悲痛な叫びを上げている男。

彼こそがこの異質な物語の主人公であり、遠い昔、これまた遠い場所で、幾度なく救世主として様々な世界を守ってきたディセンダーと呼ばれる伝説の救世主である。が、今はまだそれは分からない話し。
魔物をバッサバッサとなぎ倒しているのは、そんなディセンダーであり、気づけばこの森の中、魔物の巣めがけて空から落ちていたリルトだった。

遡れば、
確か、
ここより前にとある天才科学者様のせいで飛ばされた先、ルミナシアでリルト、ことオレは食材調達のために小さな森を一人で訪れていたはずだった。
それが、なぜか、気づけば空高くに死んでもいないのにリスポーン...いや、飛ばされていて、
さらに気づけば見知らぬ土地に不時着していた。物凄い着地音と共に。
オレの人型が残った地面がその衝撃の凄まじさを物語っている。
ディセンダーにとっては空から降ってくるなどというのは良くあることだから驚きもしないが、まだ現役である状況でいきなりというのは...どういうことなのか。とある天才科学者もといハロルドの機械によって、というのならまだ理解は出来るが、ここは...多分オレの居た世界とは根本からかけ離れている完全に初めて訪れた地、だと思う。
なぜ分かるかって、マナの性質が知っているものからかけ離れているからだ。先ほどから身体に合わず自分の生成しているマナと拒絶しあっているのか肌がピリピリとしている。
マナがあるということはそれを生み出す世界樹が存在しているということだろうし、魔物は見たことのあるものを何体か見かけたから、関わりが一切ない世界といったら嘘になるかもしれないが、オレが居たことのあるどの世界の因子も受け継いでいないような知らない世界、であるのは確かだ。

魔物の血を浴びて、白かった服が赤く染まって来たあたりで、リルトは深く考えた。

この世界は、マナが極端に、薄い。
というより、空気中に微量のマナが漂っているだけのような感じだ。
世界樹から、マナが作られているというのが感じられないというか...いや、そもそも世界樹の気配が僅かにしか感じ取れなかった。
多分、オレはこの世界の樹にディセンダーとなるべくして呼び込まれたのだろう。唐突だったのも、現役なのに空から現れたのも、それなら分かる。
この世界のディセンダーとして呼ばれた。だからだろう。世界樹の状況が来てすぐにでも感じ取れたのは。
この世界の樹は、奥深くにほんの少しだけ根を残し、ほぼ枯れてしまっている。
今までディセンダーとして世界に産み落とされて来たが、ここまで酷い状況の世界樹は数えるくらいにしか見たことがない。
人間によって...そうなってしまったのか。そう簡単に、世界樹が枯れるわけもないのに。どこまで、人間は愚かなのか。
この有様では、ディセンダーを生み出すどころか、もう元に戻すことすら不可能だろう。新たに種子を目覚めさせるいがいに、きっと救う方法はないだろうな。
マナの薄さも、それが原因だ。
新たなマナが作られていいないのだから、少ないのも仕方のないことだ。だが、それにしてはマナの減りが早い気もするが。たかが一つの世界に漂うだけでこんなに減るものだっただろうか。人が魔術を使う程度ではここまで減らないはずなのだが、と、今までの経験上、オレは感じた。
二つくらい世界があるのなら、分からなくもないが。
まあ、今考えてもそれは仕方のないこと。
とりあえず、オレはこの世界に召喚(呼び出)されたのだ。ということさえ分かれば、分かっていれば、それだけで十分だ。

そんなことよりも...

「今は、この状況をいかにして抜け出すかを考えないとな..」

そんなことより、
目の前の敵をどうにかしなければ。

胸の苦しさなんて、今は、とりあえず忘れよう。



***********




「双破刃!翔牙裂臥!!」

二つの衝撃波を飛ばし、そしてすぐに追い打ちをかける。
魔物の悲鳴と、叫び声。
森の中から、見知らぬ声が、歩く''二人''の耳に入ってきた。
この森は魔物が多く、牧場もあって危険なため、滅多に人なんてみないのに。
そこを、丁度通りかかったロイドとジーニアスは、聞こえてきたリルトの声に顔を見合わせる。

「ロイド、今...何か聞こえなかった?」
「ああ、聞こえたよな?怪物と戦ってる..みたいな」
「ディザイアン...かな?」
「どうだろうな..とりあえず、行ってみようぜ。どうせ、通らねぇと行けねえんだし」
「そ、そうだね..」

森の奥へと足を進めて行ったロイドとジーニアスの二人が見たのは、血まみれになりながら戦っているリルトの姿であった。血まみれ、といっても全て返り血だが、ひどい光景であるのはどちらにせよ変わらない。むせ返るような血の匂いにロイド達は一瞬顔をゆがませる。
複数の魔物に囲まれていたリルトは疲れきった顔をしていた。
顔をゆがませていたロイドだったが、その光景を見つけると、助けないとという相変わらずの性格を披露して、ジーニアスの制止も聞かずに魔物の群れへと飛び込んで行く。
ジーニアスの驚きと呆れを含んだ怒鳴り声が、ロイドの剣術と重なって森の中で響き渡った。

「ああ!もううんざりだ!なんだってオレがこんな目に..!」
「ジーニアス、あそこ...!」
「怪物に囲まれてる...!?」
「やべぇ!...助けねぇと!」
「ええっ、ちょ、ロイド!危ないよ!!」
「くらえ!魔神剣!!」
「えっ」
「助太刀するぜ!」
「あ、アンタは..」
「危ないロイド!...アイシクル!!」
「!!ジーニアス!...サンキュー!」
「もう!サンキュー、じゃないよ!周りも見ずに飛び込んで..ボクが居なかったらどうしてたのさ!」
「まあまあ、いいじゃねえか、助かったんだしさ」
「まったく..気をつけてよね!」
「あのー...取り込み中のとこ悪いんだけど......囲まれてること忘れてないよな?」
「うわっ、いつのまにこんな!?」
「だからボク、待てって言ったのに!」
「えっと、助けに来てくれたことには感謝するけど、今は慌ててる場合じゃない!来るぞ..!」
「お、おう!!ジーニアス!援護頼むぜ!」
「ああもう!しょうがないなあ!!分かったよ!!二人とも、詠唱中はちゃんと守ってよね!」
「オーケー!」
「お、オーケー...?」

即興のパーティーで戦闘が再開された。
ロイドとリルトの二人が前線で剣を奮い、ジーニアスが後衛で魔術をぶつける。
十程居た魔物は、三人の頑張りでどんどんと消え、塵とかしていった。
ラスト一体を倒し、ハアと息をついたリルトに、ロイドが近づいて来て声を上げる。

「お前強いな..!俺たちが居なくても、大丈夫だったかもな」
「いや、もう十体くらい相手にしてて...疲れきってたから......助かったよ」
「えっ、あれより最初は多かったの!?」
「魔物の巣に入っちゃったらしくて...ほんっと、苦労したよ..」


頭をかきつつ、リルトは平然と笑いながらそう答える。

「そういえば...お前、村じゃ見ない顔だよな?」
「それに、村の人たちじゃ絶対に近づかないこんな森の中にいるなんて...もしかして、旅の人とか?」
「まあ............そんな、ところ..かな」
「へえー、旅人なのか!どうりで強いわけだ...あ、そういや自己紹介がまだだったよな。俺はロイド!で、こっちはジーニアス」
「ロイドにジーニアス..か」
「ああ!で、お前の名前は?」
「えっ、あ、ああ..リルト、だよ」

リルトっていうのか、良い名前だな。なんてお約束とも言える会話をしつつ、リルトはロイドと握手を交わす。
知っている顔、同じ名前。でも、相手はオレを知らない。繰り返していて、いつも思うが..おかしな感覚だ。
眉根を若干寄せてぎこちなく笑ったリルトに違和感を感じ取ったのか、ジーニアスは少しだけ怪訝そうにして、リルトとロイドの会話を聞いていた。







「俺と同じ二刀流なのにさ、全然動きが違うし、すげーよな!えーっと、素早いっていうか、俊敏っていうか?逆手で持ってんのもカッケーよな!」
「え、ああ、実はさこれ、持ってみると分かるけど、すごく剣が軽いんだよ。だから、あれだけの動きが出来るんだ。殺傷力は低いけど、その分斬る回数を増やせばカバー出来るから」
「うわっ、本当だすげー軽い!紙みたいだぜこれ!」
「はあ?何言ってんのロイド、そんな軽い武器あるわけ...って、なにこれすごい軽い!いったいどんな物質で出来てるの..?」
「......まあ、詳しくは知らないけど、特殊なコーセキ?で出来てるのらしいぜ。天才科学者様曰く」

あれから、なんやかんやで仲良くなったリルトとロイドは一緒に森を抜けようという話しになったらしく、あはは、と世間話を交えながら外を目指して歩いていた。
すごいすごいと先ほどからロイドはリルトに感心の目を向けまくっている。
最初こそは怪訝そうにしていたジーニアスも剣をロイドから渡されて持つととても興味も持ったのか目を輝かせながら子供のようにリルトの剣を触っていた。

「そういや、アンタらは、なんでこの森にいるんだ?この森、危険なんだろ?」
「ん?ああ、この森の向こうに、俺の住んでる家があるんだよ」
「この森を通らないとロイドは学校にも行けないんだ。ボクはそのお迎え。ロイドってばいっつも寝坊するから」
「学校..?」
「そう、学......校って、あー!!」
「ど、どうした!?」
「どうしたもこうしたもないよ!やばいよ、ロイド!今からボクたち学校に行く途中だったんじゃん!!これじゃ遅刻だー!」
「げっ!そうだった!やっべえ、先生に殺される!!」
「しかも、今日は神託の日だよ!だから早く家から出たつもりだったのに..」
「あ、えっと......なんか、ごめん。オレが、事情説明して、やろうか..?」
「いいよ!大丈夫!!なんとかするから!と、とりあえず、ボクたち早くしないとだから、先に行くね!ロイドも早く!!姉さんに怒られるだけじゃ済まなくなっちゃうよ!!」
「あ、ああ!!ごめんな!リルト!」
「ごめんね!リルト!この森、後はまっすぐ行けば出れるからー!じゃあね!!」
「ああ......き、気をつけてな?」
「おう!お前もな!」


森を出てすぐの、この先の村にいるから、良かったら来てくれよ!俺、もっと話したいこともあるし!
なんて、いいながら、ロイドはジーニアスに急かされながら走って森から出て行った。出会いも別れも、なにもかも唐突だなあとリルトはしみじみ思う。本当、唐突なことばかりだ。
この先の村か..どうせ行く当てもないし、いってみようかな。
先ほどジーニアスがいっていた『シンタク』という言葉も気になる。
今日は、何かが、起こる気がする。オレが来た以外にも、何か。きっと。

「さて、行くか..」

世界を救うには、まずは、世界把握から、ってね。



踏み出した足は、とても軽かった。



生み落とされたディセンダー
(物語は、いつも唐突に)




ジ「...というか、リルト、その血って..」
主「ん?ああ、これか?全部返り血だよ」
ジ「返り血......そっか..もともと赤い服、とかじゃないんだ..」
主「いやあ、ついくせで」
ジ「えっ、癖!?ってなに!」
主「後で洗い流さないとな。どうせ戦えばまた血まみれにやるだろうけど」
ジ「いや、そうだけど...ってそんなことより癖ってなに!ねぇ!」
主「たまに、血が見たくなるんだよ。赤いの好きだから」
ジ「冗談でも怖いよ!!」
主「はは、まあほぼ本音だけどな」
ジ「!!!?」

ロ(ツッコミが忙しそうだな、ジーニアス)




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