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 エピローグ(レオン編)




俺は、研究機関に関わってから、色々と調べられる日々を送っていた。
本当に今までのツケが回った感じだ。
最後にレオンには連絡は取っているが、しばらくまた会っていない。

「グレーツさん、今日もよろしくお願いします」

白衣姿の研究員が、医療用ベッドに横たわる俺にそう告げる。
白衣にはいい思い出がないから苦手だ。

「なあ、いつまで続けるんだ?」

痺れを切らしたおれが研究員にそう問いかける。
とはいえこれももう何度目か。
毎回、ご協力をの一言でうまく誤魔化されて、嫌気がさしていた。

「……グレーツさん、ずっと、聞きたいことがあったのですが」
「聞きたいことはむしろこっちなんだが…なんだ?」
「あなたは、人間になりたいと思ったことはありますか」


は……?
いきなりなうえ、訳がわかず、俺から間抜けな声が漏れる。

ニンゲンって、人間?
なぜ今になってそれを聞く?

俺は確かに見た目こそは人間だが、実際はアルバートウェスカーの遺伝子から作り出された生命体だ。
この体にはあらゆる抗体とともに、ウイルスも存在している。

噛み付いたら、ゾンビ化したりしてな。






………冗談だよ。
まあ、でも、実際に俺の体には危険が孕んでいるのも事実だった。

食事を食べなくても生きられる。
眠らなくとも倒れない。

それが人間ではないことを証明している。
だがそれを嫌だと思ったことはなかった。

だからこそ、不思議だった。
人間になりたい、なんて聞かれることが。


「考えたことなかった」
「そう、ですか」
「まあでも、興味がない訳じゃない。だが、そんな人間になるなんて馬鹿げた話があるとも思ってないが」

今更考えたこともないのだから、人間になるなんて、考えられるわけがない。
だけど、レオンと同じ立場になれると考えたら、少しだけ興味をもったのも事実だった。

俺はだって、本来人を滅ぼす兵器みたいなものだったから。
その上、アルバートウェスカーの代替え品だった。
人間を辞め神になろうとした存在の代わり。それが、今更人間になるなんて。
実に馬鹿げた話だ。
それに俺の体は何年もの間に散々弄られた。
それが、人間になるなんて─

「なれますよ、今のあなたなら」


……寝耳に水。









「レオン、少し話がある」
『グレーツからは珍しいな、話?なんだ?』

レオンと、通話。
いつもはレオンから通話をかけてくるため、少しびっくりした様子だったが、話があるといえば、それでも優しい声色でレオンはなんだと聞いてきた。

話は、人間になることについてだった。

『人間になる…?それは、また、急だな』
「今まで考えたことはなかったが、なれると言われた。そこで、話を聞いて、もし俺が人間になったら、いや、その…レオンと対等に、なれるんじゃないかと思って、な」
『既に俺は対等だと思っていたんだが?』
「俺は力も強ければ、ウイルスが体内にある。対等だと思われていたのは嬉しいが、実際…俺はいつか、また誰かを殺すかもしれない」
「グレーツ…」
「だから、人間になれば、安心できると思うんだ。お互いな」

そう言いながら、俺は軽く笑った。
少し、ぎこちない笑みだったかもしれない。
俺らしくないが、心のどこかできっと、俺がこのままだったらレオンと一緒にいた場合、レオンを傷つけてしまうかもしれないと言う気持ちが、俺の中にはあったのだろう。

レオンはそれを察したのか、
『そうか』
とつぶやくと、


『お前がそれを決めたのなら、俺から何か言うことはないさ。グレーツのしたいようにするといい』
「ああ、レオンならそう言ってくれると思ったぜ」


レオンの優しさに、俺は静かに安堵の息を吐いた。


『ところで、この前の約束を覚えているか?』

とレオンに言われて、再度息を詰まらせたが。

「な、なんだったかな」
『…まあ、いいさ。また、言えばいいことだ。それで、人間になるには時間がかかるのか?』
「よくわからないが、一度眠りにつくことにはなると思う」
『そうか……なら、しばらくは会えない訳だな』
「そうなるな…」
『寂しくなるな』

そう寂しげにレオンが言う。
それは仕方ないことだが、少し胸が痛くなった。
だけど、このまま関わっても、きっとまた逃げる生活になるかもしれない。このままだったら、ずっと一緒にはいられないのだから。また逃げる日々になるくらいなら、きちんと…

「ちゃんと、戻ってくるから、心配すんな。もう、逃がさないんでくれるんだろ?」
『…そうだな。逃さないさ、もう、絶対に』
「俺も、もう逃げるつもりはない。そのためにも、人間になりたい。お前とほんとの意味で対等になりたいんだ」
『グレーツ……わかった』

レオンは、寂しそうにしながらも、対等になりたいというその言葉に、感動した様子で、頑張れよ、と俺を励ます。

「レオン、またな」
『グレーツ…もう一度言う。次会った時─』
「待った。俺にも言わせてくれ」
「グレーツ?」
「次、人間として会ったら、あんたに気持ち、伝えるよ」
「グレーツ…!」
「まあ、それがどんな気持ちかはお楽しみって事で」
「まったく最後までお前は…泣けるぜ」


はは、と俺は笑う。レオンも、泣けると言いながら笑っていた。

一旦、お別れだ。

その日、俺は人間になる選択をした。




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