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 「よろしく、強気なお嬢さん」


「シモンズはクンルンビルに居るんだったな、急ごう」
「待って、レオン!聞くだけ野暮だとは思っていたけれど......あの、彼は..」
「あの場には残してはおけないだろう」
「そうだけれど......まさか、一緒に行く気なの?」
「大丈夫、彼に関しては.....心配はいらないさ」
「知り合い......なのね、そう......分かったわ。これ以上は、何も聞かないわ」


彼の瞳は先ほどの時と同様、とてもまっすぐな力強い目をしていた。でもその奥でほんの少しだけ、瞳が揺れていたのにヘレナは気づいたが、彼の言葉に嘘はないのだろうと彼を信じて、見ないふりをする。
複雑な事情があることは最初の時点で気づいていた。今更、掘り返してもきっと答えは返ってこないだろう。
聞かない、というヘレナの言葉に、レオンは小さくありがとうと呟いた。


「..私は、ヘレナ。名前くらいは聞いてもいいわよね?」
「ああ、俺はグレーツだ。よろしく、強気なお嬢さん」
「...あまり、いい性格ではなさそうね」
「よく言われるよ」

レオンの方からグレーツの方へと振り返り、簡単な自己紹介を済ませておく。一応、今から共に行くのだから、これくらいはしておいた方がいいだろう。

眉根を寄せたヘレナに対してはクツクツと笑うグレーツ。

いつも通りの皮肉屋なグレーツの態度だ。
だけど、その笑い方は何かぎこちなく感じられ、会話する二人の姿を見つめる視線も、どこか変だと思った。
レオンの視線に気づくとバツが悪そうにグレーツは視線を逸らし、笑うのをやめる。
レオンもグレーツも聞かないとは言ったが、先ほどから二人はそわそわとしており、
二人が互いに存在を気にし、意識し合ってているのは部外者であるヘレナにも見て分かる程度だった。
関係はよくわからないが、二人の態度にもどかしい!とさえ思えるほどだ。
聞く勇気はないが、とても複雑な関係なのだろう。
最初の会話で、生きていたのか、とレオンは言っていたから、きっと死に別れた友人?......といった感じなのだろう。いや、それにしては、友人というにはあまりにもぎこちない気もする。ならば仕事仲間..だろうか?

グレーツの方を見つめていれば、不意に視線がぶつかり、何か?といったように首を傾げられ、
.........考えていてもきりがないな、とそこまで考えてヘレナは一旦思考を止め、グレーツからも視線を外した。
今は目の前のことより...シモンズのことに集中しなくては。





「二人とも、シェリーの情報が正しいなら…シモンズはその先にいるわ」

通信が入り、流れてきた女性の声がシモンズの詳しい居場所を伝えてくる。
ヘレナはレオンと目で合図し、頷くと、グレーツの方にも一瞬目をやってから目的地を目指して駆け出した。
気を引き締めて、シモンズの元へと向かう二人の後ろを追うグレーツ。そんな中に不意に「ねぇ」とヘレナがレオンに向けて声をかける。

「レオン、本当に良かったの?」
「俺たちのターゲットはあくまでシモンズだ」

ヘレナの問いかけに、歩みを止めないままレオンは答える。
一度は納得したことだったが、それでも気になっていたことを、ヘレナは尋ねたのだった。しかし、レオンの主張は変わらず、

「後悔しない?彼女を追わなくて」
「彼女の心配なら、あとでするさ」

さらに問いを投げかければ、レオンは固い意志で「今はシモンズに集中しよう」とやはり変わらない答えを返す。
それに続いて、補足をするように後ろから声がかかった。

「クリスなら大丈夫さ。それに、エイダはそう簡単に死ぬタマじゃない。なあ、レオン?」

「ああ」と、すぐにレオンから返事が来る。
二人は、エイダをよく知っている。そして、分かってるんだ、なら、私が今更、野暮なことを聞く必要なんてないわ。
強く発されたレオンの言葉に、グレーツの信頼を表す言葉に、ヘレナもそれ以上は何も聞きはせず、かわりにレオンの覚悟に応えるように、同じく覚悟を示す言葉を返した。

「ええ、ケリをつけましょう…全て、終わらせてやるわ」

ヘレナの覚悟に、二人は反応こそは示さなかった。それは聞こえなかったからでも無視をしたわけでもない。あえて、それこそ野暮だと感じたからだ。
レオンとヘレナの意志は決まった。いや、決まっていた。だから、まずは全てを終わらせに行こう。
気になることは、それから、聞けばいい。


クンルンビルへと続く扉を開き、レオンたちは目的地へと到着した。


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