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 「ようこそ、ここは私のお気に入りの場所」


レストランを越え、クリス達は文西醫學研究所という看板が掲げられている建物の前にたどり着いた。
ここでC-ウイルスを研究していたのか?とピアーズは呟く。さあな、と言葉が返ってきた気がしたがクリスがいくぞと無言で合図を送ってきたので、上を見上げていたグレーツが不快そうに眉を寄せていることには誰も気づかなかった。

先ほどの合図と共に入り口の扉を開け、クリスとピアーズは研究所の中へと突入する。

「「エイダ!!」」

扉の中に入った瞬間、クリスが走り去るエイダを発見して声を上げた。
アサルトライフルを連射するが、軽々と身を翻し宙を舞うエイダには当たらずそのまま逃げられてしまう。
エイダに逃げられ、逃がすか!とさらに声を上げたクリスをピアーズは複雑そうな顔で見つめながら、必死になって彼女を追いかけていったクリスの後をついていく。
先ほど、クリスの声と重なって誰かの声がしたような、と一人嫌な予感を感じていたグレーツは少し遅れてそんな彼らを追いかけていった。
クリスを追いながら「現在エイダ・ウォンを追跡中」とピアーズはHQへと無線を入れる。
目先の存在に執着しているクリスは全力で走りながら長い通路を通り抜け、翻弄されているとも気づかず、エイダの元へと早くしろと後ろを急かしながら向かっていった。


「誰かいる......敵か?」
「あの女のペットだろう。無視してターゲットに集中しろ」

進んだ先で、ピアーズは通路の反対側に人の気配を感じて銃を握る手に力を込める。
クリスはペットだと決めつけてさほど気にしていない様子だが、グレーツは僅かに聞こえてくる声に「ペットなんかではない。むしろ、もっと面倒な奴だ」と頭の中で先ほど感じた嫌な予感を、感ではなく確固たるものへと変えていた。

「ようこそ、ここは私のお気に入りの場所。せっかくだから楽しんでいってちょうだい」

そこに、エイダが姿を見せ、頭上からこちらを嘲笑うような声を降らす。
エイダの言い終えた瞬間、通路にレーザートラップが出現し、こちらに迫ってくる。
ピアーズとグレーツは冷静に対処をしてなんなく突破出来たが、感情的になっていたクリスは手間取ってしまい、通路を渡りきった時にはすでにエレベーターの扉が閉まっていた。一足違いで反対側にいた''彼ら''が乗っていってしまったようだ。
くそ!と怒りを壁にぶつけながら、クリスは仕方なく階段を駆け上がって行き、それに二人も続く。

登りきった先にあったのは扉に0と書かれたいかにもと言った感じの怪しさ満点の部屋だった。
クリスもピアーズも警戒しながら中へと足を踏み入れる。三人が中に入った瞬間、ガシャンと音を立てて入り口のドアが閉まり、施錠されて「室内はロックされました。これより試作品テストを開始します」というアナウンスが突如二つの部屋に流れた。
アナウンスが聞こえてきた方に目を向ければ、頭上の少し離れた先にある部屋では、エイダがPCを操作しているのが見え、クリスが声を上げる。

「ここでは色々な兵器の実験をしているの。丁度いい試作品があるわ。遊んでみる?」

怒鳴るクリスをからかうように笑い、エイダがそう言った矢先に、けたたましい警報の音が響き渡り、どこかの世界の掃除機かといった感じのロボットが床下から大量に部屋へと流れ込んできた。
確か、これは..

「爆弾かよ..まったく趣味が悪い女だ」

N-8という名の移動式爆弾だったはず。と思い出した情報にグレーツがあんまりな状況だと嘆きの声を漏らす。爆弾と聞いたピアーズも冗談だろと呟き、クリスも苛立ちを露わにしながら迫り来る爆弾を撃ち抜いていた。

「マジかよ......くそ!どっかに解除する装置が..!」
「多分これだろ、解除装置」

爆弾を気にしながら壁についている四角い箱のようなもののところに歩いて行き、必死になって爆弾を処理しながら機械を探していたピアーズに、場所を示すグレーツ。上手くピアーズ達が囮になっていたためその場所に行くのに苦労はしなかった。
グレーツの言葉に振り返り、これと言われた場所にピアーズが目を向け、聞いていたクリスも爆弾を気にしながら目を向ける。
しかし、こちらに目を向けるということは爆弾から目を離すことになり、すぐに警報音が鳴り響きはじめ、ピアーズ達は一瞬目をこちらに向けただけで向き直ってしまった。
くそ!ともどかしさからか苛立ちの声がピアーズから漏れる。このまま爆弾処理をしているだけではらちがあかない。早く解除しなければ、と焦りを募らせていたピアーズの気持ちを汲み取ったかのように、
ガコン、ガタン、と後ろから大きな音が響いたと思えば、おい、とグレーツから声がかけられた。

「ロックは俺が何とかしといてやる。だから、お前らは爆弾の方頼むぜ」
「お前...操作出来んのかよ!?」
「ああ、職業柄こういうのは得意なんでね。アンタらは戦いの方が向いてんだろ、そっちは任せたからな」

グレーツは制御盤の蓋を軽々と引っぺがし、任せたぜ。と二人に言い放つと、タッチパネルを慣れた手つきで操作し始めた。
クリス達は爆弾を処理しつつ、目を見合わせると頷き、今はそうするしかないといった様子でグレーツに任せ、黙々と爆弾を撃ち抜いていった。

「0号室、セキュリティエラー」
「1号室、セキュリティエラー」

爆発音の中、アナウンスが流れる。

「0号室、セキュリティエラー」
「0号室、セキュリティエラー」
「1号室、セキュリティエラー」

壊れてるんじゃないかと思うくらいに同じアナウンスが何度も繰り返され、
ピアーズは爆弾処理に没頭しつつ、いつまで続くんだ。と次第に不安と焦りを募らせていく。
まだか、と後ろのグレーツを一瞬振り返った瞬間「これで..」という呟きが聞こえたかと思えば、

「0号室、ロックが解除されました」

やっとロックが解除され、扉が開いたことを告げるアナウンスが流れてきた。
グレーツの操作が手早かったおがげか、1号室よりも僅かに早く開いたらしく、隣からはまだ爆発音が響いている。


「急ぐぞ!!」

開いた瞬間クリスが声をあげ、すぐに扉の方へと駆けていった。
反対側から開かない扉に叫ぶ二人の声が聞こえてきたが、クリスとピアーズの二人は気にも、足も止めることはなく部屋をでた先で二階へと飛び降り、エイダの背中を追いかけていく。
一人、聞こえてきた声に足を止めていたグレーツだったが、一瞬目を細めただけで、すぐに二人の後を追って走りだした。

「止まれ!エイダ!」
「エイダ!ここで終わりだ!」
「あら怖いわね、大きな兵隊さん」

エイダを追いかけながらやりとりをするクリスとピアーズの声に混じって、

「待ちなさい!エイダ!」
「待てエイダ!聞きたいことがある!」
「悪いわね、そんな気分じゃないの」

エイダ以外の女の声と、少し低くなったであろう聞き覚えのある声が耳に届いて、グレーツは走る足を若干遅めた。

二階から追うクリスと、三階から追いかける彼。






遠目に見えた懐かしい顔に、

グレーツは目を瞑り、小さく息をはいた。


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