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 「少しは冷静になれよ!!」



「このまま進むのは危険です。隊長、ここは一旦態勢を立て直しましょう」

むやみに探し回っても、体力が無駄になるだけだ、とピアーズはエイダを探すことに必死になり、周りのことも気にせずどんどんと足を進めていたクリスにそう進言した。
しかし、クリスはそんなピアーズの言葉に聞く耳を持つことはなく、見つからない焦りに対する苛立ちからかだんだんと足は早くなっていき、同じようにグリップを握る力も自然と強くなる。
怒りに身を任せ、焦って誰かが突っ走っていたせいで、いったい今までに何人が死んだ?
また、こうやってアンタが冷静をかいていれば、同じことが繰り返されるだけだ。あれだけ居た隊員達も、一般人ぶった男を抜けば今はもう三人だけになってしまった。また、仲間が...家族の命が奪われてしまった。もう、これ以上こんな状況を繰り返したくない。これ以上仲間を失うのはうんざりだ。今、彼を止められるのはきっと俺しかいない。
そう、勝手に決意して、
「隊長!!」と、痺れを切らしたピアーズが躍起になっているクリスを強く引きとめようと叫んだ時、
マルコの呻き声が聞こえてきてクリスとピアーズは同時に振り、そして目を見開いた。

首筋に注射器が刺さっているマルコの姿と、頬から血を垂らした状態で立っているグレーツの姿、そして、それと...


「私を探しているのかしら?...フフ、ようこそ、中国へ」

聞こえてきた声に、全員がそちらを向く。
ガラスが割れて開けっぴろげになっていた窓のふちに、聞こえてきた声の主、エイダ・ウォンが座っていた。
注射器を刺されたマルコは苦しそうなこえをあげ、
探し求めていたエイダ・ウォンの姿を見てクリスが黙っていられるはずもなく、クリスは、彼女の名を叫び、銃口を青色の服を着たエイダに向ける。
エイダ・ウォンは何が可笑しいのはケラケラと笑いながら、そんなクリスの怒号を無視してまるで窓から落ちるかのように赤いマフラーを揺らして姿を消した。
待て!と追いかけようとしたクリスを、マルコの悲鳴が引き止める。
背中を丸め、もがきながら手を伸ばして、クリスたちに助けを求めようと足掻くマルコの身体は徐々に動きが鈍くなっていく。苦しみ方は尋常じゃなくて、マルコの身体はピキピキと音をたてて硬くなっていった。
これは、前にも経験したことがある..半年前の戦いで。Cウイルスによる..変異だ。
ピアーズはすぐさま蛹へと変わっていくマルコに銃口を向けた。

「やめろ!!」
「こうなったらもう殺すしかない!!俺たちが仲間として出来ることは、こいつを..!」

銃口を向けたまま蛹と化したマルコに近づいたピアーズを制止したのは、クリスだった。クリスはやめろと言って、撃とうとしていたピアーズのマシンピストルの銃口を寸前のところで無理やり下に向けさせる。
弾丸は床を抉り、ピアーズはなにするんですかというようにクリスを睨みつけて「殺すしかない」と声をあげた。
薄情だとかそんなこと、いってる場合じゃない。今はこうするしかないんだ。
こうなったら、もう、マルコは助からない。だったら、いっそ、

「そうだな、今こいつにしてやれることは、一思いに殺してやることくらいだ」

ピアーズの言葉に、だが、と戸惑いを見せるクリス。素直に認めようとはしなかったが、銃を押さえつけるクリスの力は抜けていく。
優柔不断なのは、良くないな。
分かってはいても、認めたくない。なにせ、こうなった責任は...
こいつを、とそれ以上言い切れずに身体を震わせ、唇を噛み締めたピアーズの言葉を続けたのは、二人よりもマルコの近くに立っていたグレーツだった。
いつもぶざけた笑いが貼り付けられた顔には珍しく表情がなく、無表情でそう言ったグレーツの手には銀色の銃が握られており、変異を続けているマルコに銃口を突きつけている状態だ。
ピキリ、と割るような音がなって、蛹が羽化を始めだし、蛹の隙間からは小さな蜂に似た生物が数匹漏れ出してきた。

「待て..!!」
「隊長!諦めて下さい!!もう、マルコは助からない、今更手遅れなんですよ!!」
「だが..!」
「隊長!!現実を...!!」

見て下さい。というピアーズの言葉は、ファースの撃った銃声でかき消された。
言い争っていた二人の視線は、銃を構えたまま立っていたグレーツの方へと向けられる。
蛹は、羽化しようと割れた箇所とは別の銃によって空けられた穴から、バラバラと崩れていき、人の形だった蛹は、形をなくして崩れると、外に飛び出していた蜂は床にボトリと落ち、自然発火して生まれようとしていた中にいた蜂のような化け物ごと消失した。
無言のまま、表情もないまま、グレーツは銀色の銃を下ろし、蛹の残骸を見つめる。
燃え尽きなかった蛹のかけらだけが残り、その中に四角い箱、マルコの持っていたc4爆弾が落ちていた。他の持ち物は燃えてしまったようだが、どうやら唯一、これだけは燃えずに残ったらしい。
それを見つけたグレーツは、こいつは使えそうだ、とマルコの遺品を拾いあげようとした。

「なぜだ...なぜ撃った!?」
「隊長!?」

それを手に取った瞬間、クリスの怒号とともに身体に衝撃が走った。
クリスに肩を掴まれ、グレーツは金色の眉を寄せる。
ピアーズは怒りに任せてグレーツに掴みかかるクリスを止めようとクリスの両肩を掴み、落ち着いて下さいと冷静に訴えた。

「お前は何も思わないのか!?」
「あの場はああするしかなった!アンタはエイダへの怒りをこいつにぶつけているだけだ!!」
「黙れ..」
「ただの恨みだろ...そもそも、アンタが怒りにとらわれて動かなければ、少なくともここでの犠牲は防げた!少しは冷静になれよ!!」
「黙れ!!」

落ち着いていられるかと今度は止めに入ったピアーズに怒りをぶつけ出す。
冷静なピアーズにクリスの怒りはさらに増していき、ピアーズの言葉にクリスは身体を震わせてグレーツの肩を掴んでいた手に力を込める。先ほどみたいな怪訝によるものではなく、グレーツの顔が痛みによって歪んでいく。
アンタのせいでマルコは死んだ、という我慢しきれなかったピアーズの言葉にクリスは肩を震わせ言葉を失っていたが、冷静になれとまくしたてられ、黙れと声を絞り出し叫び散らした。
掴んでいたグレーツを突き飛ばし、すごい剣幕でピアーズを睨みつける。

「もうBSAAの使命なんかもうどうでもよくなってんじゃないのか!?アンタがこんなんじゃ、信じて死んでいった仲間達が哀れでしょうがないよ..!!」

負けじと睨みつけ、言い放ったピアーズに掴みかかり、クリスはピアーズを壁へと押し付ける。

「俺たちの希望だったクリス・レッドフィールドは...そんなやつじゃなかったはずだ」

押さえつけてきたクリスを今度はピアーズが壁へと押し返す。

「今のその姿...フィン達に、見せられねえよ」

怒りに囚われているクリスに、ピアーズは懸命で訴えかけた。フィンの名前を出され、動揺しながらクリスは掴まれていた腕を強引に引き剥がし、ピアーズから手を離す。
「俺は、エイダを追う」
ピアーズの訴えも虚しく、クリスはそう告げる。ピアーズ達に背を向けて扉の方へと歩き出したクリスに、ピアーズは少し悩んでから
「俺も行きますよ」
と、そう宣言した。
その声に振り返り、クリスはピアーズを見る。
「今のアンタは、危なっかしすぎる。何をやらかすか分かったもんじゃない」
苛立ちか、虚しさかも分からない表情でピアーズはクリスを見つめ、沈黙が続く。
嫌な雰囲気が流れる中、そんな沈黙を破ったのはグレーツの一言だった。

「ちょっと待てよ。これ、使え。あいつが残したもんだ」
「これは、マルコの爆弾..」
「それと、俺も付いていくつもりだが、構わないよな?」

グレーツの声に振り向いたのはピアーズだけだった。
使え、と投げられた四角い物体を、ピアーズは受け取る。
マルコの遺品であるC4爆弾を受け取ったピアーズは、すぐにそれを扉に設置し、爆発とともに扉が音をたてて開く。
グレーツの問いかけにクリスは答えず、拒否もしなかった。グレーツは呆れたように息を吐き、首を竦め、ピアーズと顔を合わせる。
ピアーズと目が合い、グレーツはフ、と笑う。頬にあった傷はいつのまにかなくなっていて、ピアーズは目を逸らすと同時に無言で歩いていったクリス後を追って歩き出した。
二人に置いていかれたグレーツはやれやれと再度肩を竦める。



―こちらHQ、ロケーションを確認。エイダ・ウォンスラムを抜け、港湾方面に向け南下中。
―HQより展開中の各隊へ。ターゲットは南下中。繰り返す、ターゲットは港湾方面に向け南下中。ただちに確保せよ。

右耳からノイズと共に聞こえてきた音を聞きながら、グレーツは携帯を取り出し、
そして、ピアーズ達の背中が見えなくなった頃、ゆっくりと彼らの後を追いかけた。




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