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 「仲間の仇、取らせてもらうぜ」



「ヤツを追うぞ..絶対に逃がすな!」

無事合流を果たしたクリス、ピアーズ、マルコ、グレーツの四人は、イルジヤの後を追って店の中へと入って行く。
途中、隊員の亡骸を見つけ、クリス達は悔しがったが、とどまっている暇ないんて今はない。
鉄格子の扉を蹴り飛ばし、中に入ると、そこには大きくとぐろを巻き、こちらを威嚇していたヤツの姿があった。
肉屋のつらされている豚を押しのけながら、見えないソレはジリジリとこちらににじみよる。
グレーツは、クリス達の後ろで頭をかきながら、イルジヤの姿を気だるそうに目で追っていた。
ヤツは獲物に標的をつけると、スルスルと透明な巨大な身体を巧みに操り、標的の頭上へと移動すると、今か今かと捕食の時を狙を定める。
グレーツの目が一点を捉え、意味深に笑う。
ピアーズが大きく頭上でとぐろを巻いていたそれに気づいたのと、ヤツ..イルジヤが獲物に食らいつこうと飛びかかったのはほぼ同時の出来事だった。

「しまった..!上だ!」
イルジヤの存在は、マルコの頭上。気づいた時には、すでに敵は大口をあけてマルコへと狙いを定め行動に移したあとだった。

「マルコ!!」
クリスはNO!と叫びながら、狙われていたマルコの元へと必死に走りこみ、その勢いのまま彼を弾き飛ばした。
標的を失ったイルジヤの牙は、マルコをかすめ、マルコが立っていた床を深く抉る。

捕食を邪魔されたイルジヤは、消していた姿を現し、こちらを威嚇するように歯をギラつかせ、鋭く睨みつけてきた。
クリス達は、そんなイルジヤに応えるように、鋭い銃口を向ける。

「ようやく、お出ましか」
「よくも仲間を..!」
「仲間の仇、取らせてもらうぜ」

次々に売り文句を言うクリス、マルコ、ピアーズの三人。
グレーツは、そんな彼らを無言で見つめ、つまらないとでも言いたげな顔で、眉を寄せていた。







「ここを通った見たいだぜ、隊長」
「場所を変えたな..追うぞ!」
「.........こんなところを通るのか?」

必死に追いかけるこちらを翻弄するかのように、イルジヤはダクトの中を通って隣の部屋へと逃げて行ってしまった。
マルコがそのダクトを指差し言えば、クリスは躊躇することなく、ダクトの中へと入っていく。グレーツは分かりやすいくらいに嫌そうな顔をしていたが、誰も気にしてはくれず、ピアーズも躊躇なくクリスに続いて入って行ってしまったため、マルコに後ろから早く行けとほぼ無理やり押されるな形で愚痴を零しながらも仕方なくクリス達の後を追って中へと入っていった。
クリス、ピアーズ、グレーツ、マルコの順番でダクトの中を進んで行く四人。
途中、イルジヤが機会を伺うように何度か顔を出してきたが、先頭を進んでいたクリスがショットガンで威嚇をすれば、ヤツは尻尾を巻いてさらに奥へと逃げ込んでいった。
警戒しながら、ダクトから出て行くクリスに続いて、ピアーズ、グレーツもその後を追う。
マルコも、確認をしながら同じくダクトから出ようと顔を出した..その瞬間、目の前を何かが横切った気配を感じ、慌てて外に飛び出せば、目の前にいたはずのグレーツがイルジヤによって壁に叩きつけられ、小さくうめき声をあげていた。

「おま..ッ、なんでまたピンポイントで俺が..!」
「しまった..!」
「おいおい、どんなタイミングだよ..!」
「っ..なんとか、持ちこたえろ!」
「無茶!いうんじゃ、ねえ..!」

クリス、ピアーズをスルーし、なぜか、三番目に出てきたグレーツにイルジヤは狙いを定め、突然襲いかかってきた。
予想外の出来事に、皆が皆声をあげて驚いたが、当の本人であるグレーツもこればっかりは参ったというように、珍しく焦りを見せる。

体に巻きつかれ、もがけばもがくほどに締め付けられ、押しつぶされるという苦痛は半端じゃない。
骨が軋み、グレーツの身体が悲鳴をあげる。
いつも喋れば皮肉ばっかりの彼の口から、苦しそうな声が上げられて、ピアーズはどうしたらいいのか分からず、焦りに顔を歪めた。

「う、ぐ..ァアア!!」
「!...くそ、離しやがれ!」
「どけ..!ピアーズ!!」
「え?...! な、何をする気ですか!?ダメです、隊長!そんなことしたら、こいつまで..!」
「手段を選んでいる暇があるのか!無理やり引き剥がす..!」
「隊長...ッ!!!」

なんとかしようと、何発か発砲するが、マシンピストル程度の弾ではイルジヤはびくともしない。
見兼ねたのが、考えすらも放棄したのか、クリスはそんな状況の中、ピアーズの制止も聞かずに自身のショットガンの引き金に手をかけた。
顔を青ざめながら、ピアーズはクリスとグレーツの二人に交互に顔を向ける。
敵のすぐ近くにグレーツがいるのだ、散弾銃なんかをぶっ放したらどうなるか..グレーツに弾が当たる可能性の方が限りなく高い。
危険です!と訴えかけるが、クリスは聞く耳を持とうとはしなかった。
苦しそうな顔で痛みから逃れようともがいているグレーツからは、流石に何時ものような余裕げな雰囲気は微塵も感じられない。偽りのない顔で、彼は痛みに耐えて悲鳴を上げていた。
このまま何もしなくても危ない。でも、だからと言ってショットガンなんかで攻撃するなんてそんな馬鹿げたこと..
引き金に当てられた指に、徐々に力が込められる。
クリスが引き金を引いたのと、ピアーズが叫んだのは、ほぼ同時だった。
誰のものかも分からないような痛々しい苦痛に満ちた声が、辺りに響く。
咄嗟的にピアーズは硬く閉じていた瞼をあけて目の前の状況を確認して...息を漏らした。

ホッとしたような、安堵の息を。


放たれた弾は、グレーツの右腕をかすめたが、見事にイルジヤの口内に命中していた。





「......久々に、すげえキタぜ..」
「大丈夫..そうだな」
「まあ、頑丈が、取り柄なんでね。むしろ、アンタの銃の方が効いたくらいだよ..」
「.....................」
「別に、責める気はないがね。助かったのは事実だし、一応感謝はしてる。さすがは..いや、だてにバケモン退治はしてないってコトか」
「............無駄口を叩く暇があるならさっさと立て。まだヤツを仕留めたわけじゃない..同じ目にあいたくなければ、大人しくしていろ」


当たらなかったから良かったものの、もし少しでも当たりがずれていたら一大事だったわけなのだから、それなりに焦るんじゃないかと思うが、当の本人も、撃った本人も、なぜか驚くほどに冷静だった。
むしろそれを端から見ていたピアーズやマルコの方が冷や汗をかいていたくらいで、二人は安堵したのと同時に、こんなにも焦ってた俺たちはいったいなんだったんだと釈然としない気持ちでいっぱいになっていた。
危機を脱してすぐだというのに、いつもと変わらぬ笑みを零しながら、皮肉混じりの言葉を発するグレーツに、クリスは静かに安否を確認するように声をかける。
見ての通り、おかげさまで。と、言葉を返されれば、クリスはグレーツを睨んだまま沈黙した。


さすがは、といいかけて、グレーツは一旦口を次ぐんで、言葉を言い換えた。
流石、と褒めているというよりは、やっぱり、と何かに感心しているような感じで。それを感じ取ったのか、クリスは憎たらしい笑みを浮かべているグレーツの顔を見ながら、あからさまに眉をひそめ、苦々しい顔をした。
その何かとは、いったいなんのことについてなのか..なにもかもを見透かされたようなその視線。
苦々しい顔をしたまま、差し出されたというには優しくない勢いで、クリスは彼の肩に手をかけ、グレーツの身体を引き起こす。
ピアーズはそんな二人の睨み合いを複雑そうな顔で見つめていた。
グレーツが、やたらに自分の左腕を触っていたことを、頭の何処かで気にしながら。







まさかの主人公腕ぶっぱ。クリスさんショットガンはあかん..右と左が間違ってるのは両腕負傷してるからであってミスではないです。ちなみに主人公は左利き。

ヘビ相手の台詞は言うキャラが違ってたりしますがそれもわざとです。

2に続きます。



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