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 プロローグ(クリス編)





あまり鳴ることのないプライベート用の携帯電話から、質素な着信音が唐突に鳴り響く。
ピピ、と耳障りな音で、目が覚める。
起きたばかりで重い眼を無理やりこじ開け、頭をかきむしりながら、近くに置いてあった携帯を手に取り、
怠い腰を起き上がらせ、携帯を開いてみれば、ディスプレイには、エイダの三文字が。
通話ボタンを押すと、聞き慣れた妖艶な女性の声が機械ごしに流れてきた。

「..アンタから電話が来るなんて、一体なんの風の吹き回しだ?意味もなくかけてきたってんなら、今すぐにでも切るが..」
「久しぶりだっていうのに、ずいぶんな物言いね。でもまあ、相変わらずなようで何よりだわ」

寝起き独特の掠れたような声で、気怠そうにぶっきらぼうな態度で話すと、通話相手はフフ、と楽しそうに笑った。
はあ。
そんな彼女の態度に、こちらはため息にも似た声が出る。

「あーはいはい、アンタも相変わらずなようで安心したよ。で?アンタは、こんな無駄話をするために、わざわざ電話を寄越したのか?違うってんなら、要件だけを簡潔に述べろよ」
「つれないわね。でも、まあ..それもそうね。こちらとしても無駄話をしている暇はないし、そう言ってもらえるとこっちも助かるわ。じゃあ、率直に言わせて貰うけれど..」

段々と覚醒してきて態度は相変わらずだが気だるそうな口調は直り、しっかりとした受け答えに変わり、スッキリとした頭でエイダの話しを聞く。
要件をなかなか話さないエイダに、仕事柄せっかちなグレーツは、戯れ言はいい、と電話ごしに眉を寄せた。
すると、ふう、と気分を変えるように、エイダは一息をついてから話し始める。


「ちょっと、あなたにやって欲しい事があるのよ」
「率直っつうか、唐突だな。それは、仕事の依頼って解釈で良いのか?」
「..そう受け取ってもらっても構わないけれど、どちらかというと頼み事かしらね」
「アンタが俺に頼み事?いったいなにを企んでいるのやら」
「あら、いけない?別に、あなたが同業者のよしみではなく仕事として望みたいというのなら、ちゃんとお金だって払ってあげてもいいのよ。で、どう?引き受けてくれないかしら?」
「悪かねえけど、今までが今までだしな。ま、女性の..しかもアンタからの直々のお誘いを断るのもアレだし、流石にいきなり過ぎて直ぐにって訳にはいかねえと思うが......その話し、受けてやってもいいぜ」

肯定を態度で示すように、電話越しにグレーツはハッと鼻で笑う。

「急だったことは私としも悪かったと思うわ。でも、あなた、専属の主人が死んでから、ずっと暇してたんでしょう?なら別に良いじゃない。こっちも色々あって切羽詰まってたのよ」
「人聞きが悪いこというな。確かに時間は有り余ってはいたが、ちゃんと満喫してたし、自由はあっても暇はなかったよ。人をニートかなんかみたいに言うんじゃねえ」

主人..という言葉に、グレーツはあからさまに機嫌を悪くする。
確かに、以前よりは仕事もなくなり、暇にはなったが、だからといって暇を持て余していたわけじゃないし、自分なりに行動はしていた。時間は有り余ってはいたが..別にずっと無駄にしていたわけじゃない。
人聞きが悪い、とグレーツは不貞腐れたように言い、電話越しにムッとした表情を浮かべた。

「あら、そう?なら、こんな時間まで寝ていたのにも、何か重要な意味があったのかしらね」
「......今日はたまたまオフだっただけだ、悪いかよ。ってか、んな話はいいだろ。それより、その頼みたい事っていうは一体なんだ。さっさと本題を始めろ」
「そうね、ごめんなさい。あなたがあまりにもからかいがいがあったものだから..じゃあ、あなたが怒り出す前に、依頼について説明させてもらうわ。時間がないから、手短に話すけど、詳しいコトは後からデータを送っておくから、ちゃんと見ておきなさい」

クスクスと笑うエイダに、グレーツは呆れながらも、エイダの言葉に、りょーかい、とグレーツは軽い返事を返す。

「今から、あなたには中国に向かって、あるコトについて調べてきてもらいたいの」
「中国?こりゃまた、行くだけでちょっとした旅行になりそうな」
「そう?貴方が住んでいる場所からなら、そんなに遠くもないと思うけれど?まあ..確かにこんな状況じゃなければ、買い物の一つくらいしたいものよね。そんな時間があれば、の話しだけれど」
「相変わらず手厳しいな..しかし、そりゃあ残念だ。俺も欲しいもんが丁度あったんだがな...で、その調査対象とやらはいったい何なんだ?」
「最近起こった細菌テロ..C-ウイルスというモノについて、よ」

ウイルステロ。
イドニア共和国内であったあの時のウイルス感染テロのことか。
Cウイルスという言葉は覚えがある。
確か、最近ではアメリカの大学で、大統領を狙ったテロがあり、それに使われたのがそのウイルスだったはずだ。
それ以前にも、何処かの孤島にあった隔離されていた学園でも、似たようなテロがあった記憶もある。
個人的に興味があって、調べていたからよく知っている。
彼女は前者のことをいっているのだろう。

「.....そのウイルスについてならそれなりに知ってるよ。詳しくまでは知らないが」
「そう、なら話しが早いわね。貴方ならもしかしてとは思っていたけれど」
「ウイルスあるところに俺ありとでも言いたいのか?」
「そうね、何か縁でもあるのかしらね?」
「あるとしたら腐れ縁だろ。そういう言葉は嫌いだ」
「そう?腐れ縁って響き、私は結構好きよ?」

フフ、とエイダは軽く笑う。
そんな彼女に、グレーツは何度目か分からない、呆れたようにため息をはいた。
腐れ縁?よしてくれ、切っても切れない縁なんてむしろ脅迫だ。






「とりあえず、今言えるのはこれだけよ。後は現地につくまでにデータを送っておくから、好きに見なさい。まあ、今の貴方にとって目新しい情報があるかは分からないけれどね」
「ああ、そうかい、分かった。一応確認しとく、ありがとよ。んじゃ、ついたらこっちからまた連絡する。なんか持ってっとくもんとかあったら先に言っといてくれよ、忘れ物なんてしたらたまったもんじゃねえからな」

あらかたの説明をされて、グレーツはヒラヒラと電話越しに手を振り、大雑把に言葉を返す。

「んじゃ、もう切るぜ。明日も早いだろうしな」
「ええ、そうね..じゃあ、」

また後で、と言う言葉を最後に、通話はプツリと切れた。
グレーツも、ツーという音がしてから、すぐにディスプレイを閉じ、ようとしたのだが、その前に携帯からまた質素な音が鳴った。先ほどよりは短い、メールが届いたコトを知らせる音だ。
差出人は、ついさっきまで話していた相手。



必要なものをまとめて書いておいたわ。
なるべく早く用意して、さっさと中国に向かいなさい。

急かしたてるような文が書かれており、スクロールしていくと、ただ一言、
ハンドガン二丁。
と書いてあった。


「ハンドガンって、メールを送るほどのもんじゃねえだろ...当たり前だっての」

意味ねえ、なんて呟きながら、グレーツはディスプレイを閉じた。

顔を綻ばせながら、
「ありがと」と先ほどのメールに返信をしてから。












腐れ縁を求めて
(久しい友人との再会)
(追伸:昔を引きずるよりも、今は前を見なさい。意味なんてないでしょう?あなたらしくないわよ)



「引きずってる、か..アレからもう、5年も経ってんだよな.........あー、アホらし」







昔→ウェスカーと一緒に居た時代
エイダさんはクーデレですよねわかります^ω^



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