生み落とされた世界樹は大地を作り、大地からは精霊が生まれ、それから、動物や人々が生み出され、やがて生み落とされた世界樹が生み出したものが世界となり、また一つの世界が作られました。

世界には、初めは世界樹しかありませんでした。
生命が生命を生み出し、そこから、様々な命が溢れ、世界樹の生み出すマナの恵みを受けて、世界は動きだしていきました。

しかし、平穏はそう長くは続きません。
生命が増えるたびに違いが生まれ、違いが争いを生む。
喜び、笑い、そのほかにも怒りや哀しみなど生命には様々な''感情''がある。それゆえに、自由を求め、私利私欲を押し付け合い、ぶつかり、世界に生命がある限り争いは絶えませんでした。

特に、人間という存在はかなりたくさんの、繊細な感情を時間が経つにつれて覚えていき、それは種族すらも超えた争いを起こす原因にもなりました。
古くから世界を支える柱として存在していた精霊は人々を見限り、姿を消した。人々の争いは次の争いを呼び、世界は瞬く間に滅びの一途をたどっていった。

世界樹はこのままではいけないと、また新たな生命を生み出しました。

争いのタネとなる感情を持たない、世界を守るべく生まれた存在。
世界樹が、世界の意志が生みだした…勇者『ディセンダー』です。

生まれたばかりのディセンダーは世界のことも、自分のことでさえも何も知りません。そして、不可能や恐れも、喜びも悲しみも知りませんでした。
それは、世界を救うための存在として世界樹が願い、作り出したからです。
感情が争いを生み、争いが新たな争いを生む。
ならば、そう考えた結果でした。

ディセンダーには、身体と名前、使命だけが与えられた。

そんなディセンダーは争いの中に生み落とされたのでなく、小さな小さな村の外れに世界樹の輝きとともに誕生しました。

使命を持ったディセンダー。しかし、何も持たないディセンダーがいきなり世界を救えるわけがありません。
そのため、ディセンダーはまずは自分を受け入れてくれた小さな村のお手伝いから始めました。
ディセンダーは生まれ持った才能から、時には剣士として、時には人々を癒す僧侶として、様々な姿を持つようになって行き、村の人々から街の外へ、だんだんとお手伝いの範囲を広げていき、争いを生む人々とともに世界を少しずつ救っていきました。

何も知らないディセンダーは、人々と関わるにつれて、だんだんと喜びという''感情''を覚えていきました。


人々はディセンダーに感謝の気持ちを伝えます。

しかし、そんな日々は長くは続きませんでした。

元から猶予のない世界でした。
やがて、世界の危機が広がっていき、世界はさらに荒れ果てていきます。

なんの根拠もない噂が流れ始めるのに、そう、時間はかかりませんでした。

人間は誰かに縋らなければ生きていけないとても弱い生命なのです。

人々はディセンダーに助けを求めてきました。
災厄に染まった町では浄化を、病気の広まった街では解呪を、争いを起こす国では仲裁を。
力のあるディセンダーに、人々はやがて全てを押しつけるようになりました。

「世界を救う勇者」

自分たちでは何もせず、
そう、崇めながら。


しかし、ディセンダーの力も無限ではありません。
時間が経つにつれてディセンダーは疲れ果ててしまいます。

そんなディセンダーに対し、人々は汚い言葉をなげつけてきました。
散々助けを求めてきた人々が、今度はディセンダーがいるせいだと怒り散らしてきたのです。
なんの根拠もない、むしろ何を言っているのかわからない言葉を人々はディセンダーになげつけます。
根も葉もない噂は広がり、ディセンダーは人々と争うことになりました。

なぜ、自分が。ディセンダーはそう思うようになりました。
考えても理由などわかるはずもありません。

わからないディセンダーは争う人々を、それども、救うべく力を使ってきました。なんども、なんども。
しかし、それも限界でした。
人々が変わらない限り、何度助けても同じこと、くりかえされるだけです。


このままでは世界が危ない。

その時、
ディセンダーは、気づいてしまいました。



人々を助けても、何も変わっていないことに。



世界はまだ、苦しんでいることに。



救うべきは世界であり、人間ではない。


世界を救うために行動してきた、でも世界を壊していたのは人間で、いままでのは全て…
そう考えた時、ふと頭のあたりが熱くなる感覚がありました。

ディセンダーは思いました。

これが、

これが、人間たちがよくぶつけてきていた感情なんだと。

それを知ったディセンダーに、躊躇いなどありませんでした。














世界から人々が消え、一時の、平穏が戻りました。



しかし、
それは、本当に一時のものでした。
人々の消えた世界は、滅びの道を辿るだけ、平穏と共に、破滅の時間が刻まれていました。


しかし、ディセンダーは後悔をしてはいませんでした。
すでに知ってしまった''感情''は、忘れることなどできない。

もう、何も知らない無垢な存在ではいられなくなってしまったからです。




それでも、使命だけは、ディセンダーの中に唯一変わらずに残っていました。

救う、その意味はきっと変わってしまっていたのでしょうけれど。


世界を救い、世界と共に消えたディセンダー。
その選択に、未練などありませんでした。


生命との出会いで喜びが生まれ、
人間との関わりで楽しさが生まれ、
人々との争いで怒りが生まれた。


―感情は争いを生み、争いがまた争いを生む


自ら破滅へと向かおうとした身勝手な生物のせいで、世界は、滅びの道を歩み始めた。

そんな身勝手な奴らのせいで、

許せなかった、その為だけに、生み出されたことが。
腹立たしかった、こんな理不尽な生み出し方をした世界を。

何も知らなければ大丈夫だと、使い捨てられたことが憎くてたまらなかった。



―それは、ディセンダーにも言えることでした。







世界を救ったディセンダー。
これは、その中の一つのお話。

何もわからぬまま、知らぬまま、世界を救い、何もかもを忘れ、自由になった、勇者の、

世界を救う勇者の、ほんとうの物語。

二人が、世界を救うあらましを書いたおはなしです。





前置き長いですが闇落ちディセンダーが書きたくてRM2のおとぎ話から少し文章拝借して改変しました。
本編は次からです。でも語りですでにかなり楽しかった。






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