便利屋業


「あら、いらっしゃい」

街の人から聞き込みをして見つけたアドリビトムというギルドのある場所を早速ユウとモルモは尋ねた。
中に入れば、落ち着きのある女性の声が聞こえてきて、ユウたちはその声の主へと視線を向ける。
白髪の女性が受付らしき机を隔てて立っていた。

「女の人…?クラトスって人じゃなさそうだね」
「私は、リフィル・セイジ。見かけない顔ね。あなたは…難民かしら?」
「えっと、そういうわけじゃないんだけど…」
「僕たちはクラトスって人に用があってきたんだ」
「クラトスに?」
「うん!オイラ達、チェスターって人に、行き場がないならクラトスって人を訪ねてみるといいって言われたんだ。アドリビトムって言えば話しが通じるって」
「それは、アドリビトムへ入りたいって事かしら?クラトス…新参希望者が来たわよ」

話しかける前に女性の方から声をかけられ、用件を伝えると女性、リフィルは慣れた様子で奥の方へと声をかける。
リフィルにクラトスと呼ばれ、奥から一人の男が現れてきて、相変わらず無表情のままユウは出て来た男に視線を向けた。
そんなユウをじっと見つめ返し、男は怪訝そうにしながら口を開く。

「……腕が立つようには見えないが…仕事を任せる気にはなれないな」

出てきて早々の開口に散々なことを言われ、モルモがムッした様子でリフィルに問いかける。
ユウは特に表情を変えることなく、クラトスから視線を逸らし、今度は話しを始めたリフィルの方へと目を向けた。言い返さないのは気怠さからなのか、若干動きもスローリーだ。

「クラトスって、この人?」
「そうよ。彼がクラトス・アウリオン。この街、アイリリーのアドリビトムリーダーなのよ」
「アドリビトムリーダー……ねえっ、仕事って何?アドリビトムって何をやっているの?」
「アドリビトムは表面上ギルドの形をとっているけれど、皆を脅かす存在から人々を守るために作られた自治組織なの。まあ、その活動自体表立って出来るものではないけれど」
「表立ったものじゃないって…どうしてさ?」
「この街の統治者''ガンゼル''が、ギルドを廃止したからだ」
「ガンゼル…」
「さっき街で見た、あの独裁者のことかな」
「独裁者…そうね。今は現状、ガンゼルが街の全てを取り仕切っているわ……交易すら自由がきかず、街の住人はガンゼルの手下が調達してきた物を僅かに手にするだけしか出来ないでいるの。私たちは、そんな街の人たちのために、必要な物を調達したりしているのよ」

アドリビトムのこと、街のこと、そのほかにも色々と質問をしたが、モルモの質問に二人は淡々と答えてくれた。
ユウは相変わらず気だるそうにしていたが、たまに頷いたり言葉を挟んだりとその程度の動きはしており、全く関心がないというわけではないらしい。
その中で、必要なものを調達している、というリフィルの言葉を聞いて、モルモが大きく反応をした。

「ってことは....街の外に出る方法があるの?ねえ、どうすればいいのっ?」
「それは教えられない。街の人々のために働く者にだけ我々は協力する」
「えぇ!?なんで!」
「申し訳ないけれど今、ガンゼルに街と外を行き来している事を迂闊に知られるわけにはいかないの」
「まあ、そういうもっともな理由があるなら仕方がないね。他の手を探そうか」
「うー…そうだね、いこっか....って、いや!待って待って待って!危ない危ない!ダメでしょまだギルドに入るって名目を達成してないどころかまだ足すら踏み入れてないから!」
「....………僕にはやるべき使命があるから、こんなところで油を売っているわけにはいかないよ」
「急に使命感持ち出してきたね!?いや、だったらなおさら遊んでる暇なんてないでしょ!!まずは外に出れるようにしようよ!?」
「....................ソウダネ」

ユウはチッ、と小さく舌打ちをしていそうなほどの嫌そうに苦めた顔をした後、もっともなような事を言ってモルモを見つめる。
モルモが鋭いツッコミを返すとユウは面倒臭そうにしながらも頷いてみせた。
こんなにも怠惰を顔に表している人物がこの世界の救世主だというのだから世も末だ…。

(この子が本当に救世主(ディセンダー)なのか段々心配になってくる..)

不服そうにしているユウの態度に、今後の不安を感じずにはいられないモルモであった。

はあ、と諦めたのか息を吐いてからユウはクラトスたちに向き直る。
一応補完しておくが、上のモルモとの会話は、一応、ひそひそと話していた内容である。

「......アドリビトムに入りたい場合はいったいどうしたらいいの?」
「..生半可な気持ちで務まるものではない。やる気がないのであればやめておけ」
「......やる気は確かにないよ」
「えっ、ちょ、ユウ..!!?」

渋々発せられた質問に、クラトスが答える。
しかし、答えというよりそれは忠告で、ユウはクラトスを見つめたまま、まさかの肯定の言葉を返した。
此の期に及んで何をいうのかとまさかの行動にモルモが焦った声をあげる。
それを、騒ぐモルモの言葉を遮るように、ユウはでもね、と言葉を続けた。

「でもね、覚悟はある。自分の使命を成し遂げるためなら、僕はなんでもするつもりだ。やる気だとか気持ちなんて、そんなの....必要ないよ。明確な理由があれば、それでいい。違う?」
「..................いいだろう。ならば、それを成し遂げるだけの技量がお前にあるのか、その覚悟、試させてもらおう。組織に入れるかどうかは、その後だ」
「試すって....何を..?」
「とある依頼を遂行してもらう。その内容を確実に成すことが出来れば、その時はお前たちを受け入れよう」
「む、むむむ....依頼っていったいどんな..」
「内容はまた後で話す。カノンノ、いるか?」
「はい!」
「細かな話の説明は、彼女に説明を任せる。分からぬことがあれば彼女に聞くといい。あとは任せたぞ」

はい!と可愛らしい女の子の声が聞こえてきて奥からピンク色の見覚えのある少女が顔を出した。
再度、カノンノと呼ばれた少女はクラトスの言葉に元気な返事をする。

「えっ....あれ、君は..」

あの森であった!とモルモが口にする。
すると、少女の方もユウたちに気づいたのか嬉しそうな声を上げた。

「あなたたちは....来てくれたのね!さっきは助けてくれて本当にありがとう。改めて紹介するね、私はカノンノ。私も一応、アドリビトムのメンバーなのよ。まだ入ったばっかりだからそんなにうまくは説明できないかもしれないけれど..よろしくね!」

よろしくね!と明るい笑顔を向けてきたカノンノに、モルモはビックリマークのつきそうなほどに元気に、ユウも素直に「うん」と返事をした。


「へぇぇ、なるほど..」

クラトスに言われた通りに、カノンノはユウたちにこの街の大まかことやギルドについてを教えてくれた。

街の人から依頼を受けたり、物資を運んだりと街のために活動している場であることや、
他の町にはいくつか支部があり、アイリリーのギルドもその中の一つであるということ、
モルモが話していた大地を食い尽くす魔物が、街の外で暴れていて人々は怯えており、この世界ではその存在が「蝕むモノ」と呼ばれていること。
蝕むモノから逃げてきた所謂「難民」と呼ばれる存在もガンゼルによってこの街から出ることを禁じられているという状況。あと、ガンゼルがそんなことをしている理由....最初に見かけた時に言っていた通りのことだが、世界樹を守るという身勝手な考えであのような言動をしているのだということ。

それと依頼のやり方や細かなことの説明など、丁寧な説明でなるほどと二人は頷いて聞いている。

「他にも、私たちアドリビトムは街の人をガンゼルの制圧から解放するためにも行動しているの」
「じゃあ、頑張らないとね。世界樹は誰のモノでもない..それを勝手に自分のモノのように扱うようなふざけたやつのいいなりになんてなりたくないし、あんな奴の思い通りになんてさせないよ」
「うん!世界樹のマナの恵みはみんなのもの。だから蝕むモノを何としても撃退しないと、私たちの未来はないわ....アドリビトムの一員として正式に認められるように頑張ってね、私も応援してるわ!」
「ありがとう、カノンノ!オイラ頑張るよ!これ以上やつの好き勝手になんか絶対にさせない!この世界は、オイラたちが守るんだ!!」
「主に守るのは僕だけどね....うん、ありがとう、カノンノ」

世界を救うと決意した、なんてそこまで熱い状況にはなっていなかったが、ユウにもそれなりに使命を全うする気持ちはあるようだ、カノンノと話すユウを見てモルモは自分も頑張らないとと意思を固くした。

「説明は大方終わったみたいね。なら、この街には他にもアドリビトムのメンバーが居るの。まずは依頼を聞く前に顔を合わせてきたらどうかしら?」

カノンノから説明を聞き終えた頃、リフィルから声をかけられた。

「メンバーには私の弟もいるのよ。名前はジーニアスというの、何かあったら力になってくれると思うわ」
「リフィルの弟かぁ...どんな子なんだろ?」
「さあ。会ってみればわかるんじゃない」
「そりゃそうだけど....相変わらず君冷たいね..」
「ジーニアスなら多分街の広場にいるはずよ。他にも今なら宿屋に誰かいるんじゃないかしら。とりあえず、いってらっしゃい。依頼はあとでも構わないでしょう?」
「そうだね、アドリビトムの人達の力を借りれば蝕むモノにも勝てるかもしれないしね!よ〜しっ、頑張るぞぉ!!」
「張り切りすぎて爆発しないようね。あ、もし、僕がさせちゃったらごめんね」
「遠回しにうざいって言ってるの!?それ!!?君が言うとシャレにならないからやめて..!!」

真顔で、冗談?だよね?な事を言ってきたユウにモルモは怯えつつ、モルモとユウ、カノンノの三人はギルドを一旦後にした。
広場に行く途中、口の悪い赤い髪の男とクールな女性が兵士に追われている姿を目撃したが、ちょっと挨拶を交わした程度で特に深く関わることもなかったのでまあ、今は気にせずともいいだろう。もしかしたら、今度また会うかもしれないけれど。今はとりあえず、面倒だしメンバーとやらの顔合わせをさっさと済ませてしまおう。
一人、ユウは面倒臭そうにそう思いながらカノンノの隣を歩いていた。


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