箱庭の街

また会えると信じてるぜと言葉を残して二人は去って行った。

「アドリビトムってのはよく分からないけど、オイラも街のことは知りたいし、とりあえずオイラたちも行ってみようよ」
「そうだね、外...僕もちょっとは気になるし」

カノンノたちと別れる時に、アドリビトムというギルドでクラトスという男に会うといい。ってチェスターに教えてもらい、ユウ達は近くの街を訪れることにした。



「テレジアの世界樹って大きいねぇ..!それにマナが豊か!良い世界だよね!」

街の近くまで来て、モルモは先ほどまでいた場所にそびえ立っていた世界樹を見て、わあ!と声を上げた。それにつられてユウも世界樹に目をやり、少しだけその大きさに感心の気持ちを抱きつつ、聞こえてきた知らない単語に首を傾げる。

「マナ...?まあ、よく分かんないけど、悪くはないんじゃないかな、さすが僕の世界だ」
「いや、そんな世界掌握してるみたいな言い方されても......えっと、ちなみにマナっていうのは世界樹が生み出す..いわば大地、物の力の源のことね。僕たちディセンダーの身体も、大半はマナで構成されてるんだよ」
「へー......じゃあそのマナってのがなくなったら皆困っちゃうんだね」
「困るというか......そうだね、うん...困っちゃう。だから、そうならないために、僕たちが生まれたんだよ。君はこれから、世界と、世界の恵みである世界樹を守らなければいけない」

頑張ろうね、となにをと言った意思表示を促して来たモルモにユウは眉を潜めながら、そうだねと選択肢のない言葉を返した。
分からないけど、やるべきことは最初から決まっているのだから、別にどうでもいいや。

「そういえば、君もディセンダーなんだっけ。なんて世界を守りきれなくてここに逃げて来たの?」
「藪から棒に酷いこと言うね君!?...そもそも逃げて来たわけじゃないし...えっとね、オイラの生まれた世界はヤウンっていう世界なんだ。さっきも話したけど、オイラはその異世界のディセンダーで、この世界に大地を多い尽くす狂悪な魔物の脅威...それがこの世界に向かっているのが分かったからオイラはここに来たんだ」
「狂悪な魔物の脅威?」
「うん、オイラの世界は...大地も生物も、その魔物に......全て食べられてしまったんだ。オイラの宿る世界樹を、ホンの僅か残して、ね」
「その魔物は、今度は...この世界を標的にした。で、それを見た君は仇を打つために僕を生み出すよう頼み、今ここにいる、と」
「うん..そう簡単な話しじゃないかもしれないけどさ.........魔物を倒せば、ひょっとしたら、世界を取り戻せるかもしれない。ひょっとしたらってだけで、確信もないけど......どうしても、そんな希望を捨てられなくて..」

悲しげな顔をして話すモルモのことが、僕にはやはり理解出来なかった。
何かがなくなったら、悲しいモノなのだろうか。そもそも悲しいってどんなモノなんだろうか。
僕には何もわからない。かける言葉も分からないから、僕はただ自分が知っていることを、悪態を付くような形でしか言えない。
「それに、この世界が食べられちゃうかもしれないのも、オイラ放っておけないし!」
悲しげな顔を笑った顔へと変えて、モルモは言った。笑ったってことは、もう悲しい気持ちはなくなったのかな。なんて思いながら、ユウは「そう」とそっけない言葉を返す。

「とにかく!何はともあれ世界のために働かなきゃ!ほら、行こうユウ!」
「そうだね、なんにせよ僕のやることは変わらなし。で、まずはどこに行く?」
「そうだねー、まずはさっき話しに聞いたアドリビトムってところに......あれ?なんか、あそこで騒ぎが起こってる...何だろう」

街に一歩足を踏み入れ、広場らしき場所にでた辺りで異様な雰囲気を感じ取り、モルモたちは足を止めた。
何だろうとモルモは疑問を口にする。
広場の中央には兵士達が数人集まっていた。

「ガ、ガンゼル様...お許し下さい..」
「お前は街をでてはいけないという、この街の掟を破った。決まりを破るお前は世界樹を狙う他国のスパイだな?」
「そ、そんなめっそうもない!!私はただ...娘のための薬草を取りに......スパイなどでは..!」
「疑わしきは罰せよ...こいつを街から追放しろ!」
「はっ!!」
「そ、そんな無茶苦茶だ..!!」
「私はこの街の平和を守っているのだよ?世界樹を我が物にしようとする他国からな!...行くぞ!」

なんて身勝手で、有無も言わせぬ言葉だろうか。
ゲッゲッ、と気色の悪い笑い声を上げながら、ガンゼルと呼ばれた男が一人の民間人らしき人物を兵とともに連れて行く。
その光景に、ユウは顔を顰めた。
無茶苦茶だ、と男が叫んでいたがまさにその通りである。疑わしきは罰せず、ではなく罰せよとは。

「まいったなあ...街から出ちゃダメなんて決まりがあるなんて..それにしても、他国が世界樹を狙ってるって...?」
「まるで僕の世界樹がモノみたいな言い方だったよね、世界樹は僕のモノなのにムカつく限りだね」
「君が一番モノ扱いしてるけどね!?そもそも世界樹は誰のもでもないから!!」
「僕に世界の命運がかかってるんだから、同じようなものでしょ」
「完全に悪役の台詞なんだけど!君は紛いなりにも救世主なんだからね!?」
「紛いなりなんて......良い度胸だね」

笑いかけてきたユウに、怖いと声を漏らしてモルモは羽をばたつかせる。
しかし、ガンゼルの言っていた街から出れないというのは厄介な決まりだ。
まあ、今考えていても仕方が無い。僕たちはディセンダーなのだからそんな決まりに左右されていてはいけないのだから、そんなことは考えるだけ無駄だ。
とりあえずは、アドリビトムの場所を街の人に聞きにいこう。

「とりあえず街の人にアドリビトムについて聞いてみようよ!行く当てもないんだしっ、ね!」
「話しをそらされた気がするけど、まあ、それもそうだね」
「あ、はは.....」

すみません、と近くの男の人にアドリビトムという名前を聞いてみれば、すぐ近くにある赤い建物がそうだよと教えてもらえた。

「君たち見かけない顔だけど、ギルドに用があってきたのかい?」
「ギルド?あ、えっとー、外であった人にアドリビトムってとこを尋ねるといいって言われて..」
「そうなのか、でも気をつけた方がいいぞ。あまり大きな声では言えないが..この街はガンゼルっていう奴が収めているんだが......」
「さっき、見てたから、だいたいは分かってるよ。あまり、良い人ではないんでしょ?」
「ああ、あんたらみたいな街の人間じゃない奴が兵士に見つかったら多分捕まるかもしれない。さっきのやつだけじゃないよ、もう何人もやられてるんだ」
「そうなんだ..」
「だから...お嬢ちゃんたちも気をつけなよ」
「え、嬢ちゃん..?」
「うん、そうだね、ありがとう」
「え、否定しないの?」

街の人から得た情報は、あまり良いものとは言えなかった。気をつけてと言われてユウは素直にありがとうと返す。
お嬢ちゃんと言われていたが否定しないんだとモルモは自分の概念が分からなくなり、頭を違うところで悩ませていた。
ディセンダーは確かに性別というものは、大まかにしか決まっていないのだが......ユウは一応女ということでいいのだろうか。いや、でも一人称は「僕」だし..?

「さっきからなに気持ち悪い顔してんの?場所分かったんだしさっさと行こうよ」
「あ、う、うん.........ね、ねえ!ユウ!」
「......なに?」
「ユウって.........性別はどっちにしてあるの?」
「性別?ああ、身体の構造のこと?」
「ま、まあ...そういう..」
「性別とかよく分からないから、ちょっと待って」
「へ?待つってなに....って、わー!!?ちょっとちょっと!なにこんなところで脱ごうとしてるの!!!?ま、まったまった!待って!!ごめん!分かったよ分かった!あとでいいから!だから服着てー!!君はもう少しデリカシーを覚えてね!!?」
「?......あ、うん、そう」
「抜けてる部分が極端だよね、君....」
「それは貶されてる..?まあ、とりあえず、君が思ってるのとは逆のだと思うよ、とだけ言っておくよ」
「え?」

なにそれ、という顔をしながらユウは曖昧な返事をする。首が傾いていたからきっと意味を理解してないんだろうけど、とりあえず...まあ、性別はよく分からなかったけど、羞恥心があまりないという事実が分かっただけで今はよしとしよう。
あまりそういうアレは気にしないということが分かっただけでもう頭がいっぱいいっぱいだったモルモであった。






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「君が思っていない方だよ」という言葉をさらっと言わせたかっただけ。ギャップをつけたかったので綺麗な顔して恥じらいがないということをメインにしました。


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