世界救世


「ディセンダー..だっけ?それが、世界を救うために生み出された存在だっていうのは分かったけど、結局のところ僕は何をすればいいの?」
「うーん、そうだねぇ〜..とりあえずはこの世界の今の状況を......」

知ることから始めよう。そう発したモルモと名乗った生物の言葉は辺りに響いた悲鳴によって掻き消された。
仏頂面で立っていたユウの眉根のシワが元に戻り、悲鳴がした方向へとその顔が向けられる。
あわわ、と焦ったモルモが羽ばたいていた羽をさらにバタバタとさせながら「悲鳴だ!」と驚きの声を上げた。

「説明は後だ、後!ユウ!とりあえず声のした方へと行ってみよう!!」
「仕方がないね......気は乗らないけど」
「こんな時にまで、君って素直だよね?!!」

どうも、と気だるそうに言葉を返しながら、ユウは声がした方へとこれまた気だるそうに歩みを進めた。
早く早くと急かす鬱陶しい生物を叩きつけ、眉を寄せながら。




「アレだよ、ユウ。女の子が襲われてる!助けなくちゃ!!」

声の元へとたどり着いたユウ達の目に入り込んで来たのは、兵士らしき鎧を来た人物がピンク色の髪の可愛らしい女の子を今まさに、襲おうとしているといった瞬間だった。
助けよう!と急かしてくるモルモに、ユウは冷静な顔つきで顎に手を当てて悩み出す。
こんな時に何してるの!?というごもっともなツッコミに、いや......とユウは口ごもり、



「この僕に、どうしろと..?」


頭にはてなを浮かべた状態で首を傾げてそう言った。
彼はまだ生まれたばかりのディセンダーで、何も知らない純粋無垢?な子供なのだからその発言は至極当然のものなのかもしれないが..
モルモはあんまりの発言に、気づいたら煩いくらいの大声で叫んでいた。

「今更何言ってんのーー!!?」

そこにいた全員の身体が飛び跳ねたり反応をするほどの大声だった。
敵味方関係なく、全員の視線がモルモへと向く。ピンク髪の少女も兵士もこちらを見ていた。
あ、やばい。モルモは顔を青ざめさせてユウの後ろからこちらを見ていた兵士と少女、特に兵士から逃げたい思いでいっぱいになっていった。
いや、しかしそれでは助けに来たのに意味がない!いやでも、怖い!とモルモは一人葛藤を始める。
ユウはというとそんな百面相とも言えるほどに葛藤しつつコロコロと表情を変えているモルモに疑問から怪訝へと表情が不快を表すものに変わっていた。そして、後ろを振り返ってさらにその不快感をユウはあらわにする。眉根へと自然と皺が寄っていく。

「なんだ、お前たち、街で見かけない顔だな!まさかスパイか?」
「スパイ?な、なんのことだよ!」
「まあいい......お前らまとめて片付けてやる!」
「えええ!?ユ、ユウ!どどどうしよう!!?」
「むしろこっちが聞きたいんだけど。僕今から何すればいいの?戦闘..?とかさっぱり分かんないんだけど」
「えっ?えーっと...と、とりあえず!さっき!さっきオイラをぶっ叩いた時みたいにあの兵士を攻撃してっ!思いっきりその杖で叩き潰してくれればいいからー!!」
「思いっきり?そう......分かったよ」
「あ、待って!でも君魔術師だから十分に気をつけ............」

気をつけて、とモルモが良い終わる前に「ぎゃああああああ!!」と辺りに悲鳴が響き渡った。
声の主は先ほどの兵士で、兵士にはユウの叩きつけた杖が見事に命中し、一撃で悲鳴を上げてその場に倒れていた。
立ち尽くしながら「ええええ」と内心で声を上げるモルモ。
失神している兵士を見て、言葉を失ったのはモルモだけではない。ピンク髪の少女もポカンと口を開けてユウのことを見つめていた。
突っ伏した兵士を見下ろしていたユウが顔を上げれば、自然と見つめていた少女と目が合い、二人は顔を見合わせる。相変わらず無表情なユウとほんのちょっと困ったように俯く少女。
ユウは兵士を踏みつけながらそんな少女の元へと近づいていき、声をかける。

「君、怪我はない?」
「あ、う...うん」
「そう..」

少女に声をかけたユウの態度に、モルモがポカンと口を開けたまま俯く少女と微笑むユウの姿を見つめる。
てっきりきつい一言をぶつけるのかと思ったが、目の前のユウは、ぶっきらぼうなのは変わらないが、先ほどまで口調や態度よりもとげとげしさはなく優しげな声色で、そしてほんの少しだが冷たかった表情もなんとなくふんわりとした優しさを含んでいたように感じた。


そこでモルモは思う。

さっきと全然態度違うじゃん!!!!
じゃあおいらと出会った時のあの態度はなんだったの!!
とあの攻撃力とか突っ込みたいところは山ほどあったけどとりあえず、モルモは今、内心だけにとどまらずそう口に出して叫びたい気持ちでいっぱいになっていた。というか口からすでに「さ」まではでかかっていたのだが、幸いなことにこちらへと猛スピードで駆け寄ってした人物の一声によってそのツッコミは喉の奥へと引っ込んで行って事なきを得た。ツッコんでいたら今頃お話が終わっていたかもしれない。

「カノンノ!!無事だったか!?」

という一声とともに駆け寄ってきたのは青い髪の男だった。
ユウと少女の間に割り込んで、青い髪の男は少女の安否を確認するように少女の顔を覗き込む。
その瞬間、先ほどまでの優しげに微笑まれていたユウの顔から表情が消えていた。その瞬間を丁度見てしまったモルモは怖っ!と思わず声が漏れてしまい、ユウにギロリと睨まれ身体を震わせるはめになる。

「チェスター...うん、大丈夫よ。この人達が助けてくれたから..」
「あ?こいつらが?...見かけない顔だな......お前たち難民か?」

下から上へとチェスターはユウの姿を見つめ、こいつが?と疑いを帯びた目を向けた。
見た目だけでは、少女とあまり変わらないような華奢でか弱い体格なのだから無理もない。性別もどちらとも取れる、顔だけは美人な子だ。
まあ、そんな眼差しをユウが良いように思うわけもなく、眉根へと段々と皺が寄って行く。仏頂面どころか睨みつけているようにも見える程に不機嫌を表した顔。
もしナンパ好きな男などがいたらきっとこういっていたであろう。せっかくな綺麗な顔が台無しだと。


「スパイ......とか、ナンミン......とか、よく分からないけど......とりあえず、いきなり出てきたけど君は誰なの?」
「は?え、あ、ああ...そういや名乗ってなかったか。俺はチェスター。順番が狂っちまったが...さっきはカノンノを..仲間を助けて?くれたみたいで、その、ありがとうな。助かったぜ」
「......当然のことをしたまでだよ、どうやらそれが僕の使命みたいだし」
「え??」
「あ、あー!!オイラたちも自己紹介がまだだったよね!オイラはモルモ!そして、こっちがユウ!!オイラ達まだここに来たばかりで詳しいことはよく分からないんだけど...よろしくね!!!」
「えっ、お..おう、よろしく....って、来たばかりってことはやっぱり難民なんだな、お前らどっから来たんだ?」
「どこって......世界樹からだけど」
「は??」

嘘を知らないユウは黙るということももちろん知らない。聞かれたら素直に答えてしまうユウに青い髪の男、チェスターと名乗った男は間抜けな声を出した。
世界樹から、などと真顔で言われればそんな顔にもなるだろう。

「あ、あー......とにかく、お前らも難民なんだ..よな?無事に街に入れて、運が良かったな」

少し呆れた様子で言うチェスターに、モルモは「やっぱ信じてない..」と落胆して呟く。
ディセンダーというものが実在していると知らない者ならば、何を言っているんだと呆れるのも仕方ないことだと言えばそうなのだが、モルモは少しだけ自分たちの存在する理由を考えると虚しい気持ちになった。
ヤウンでは、そんなことはなかったんだけどなあとモルモは考える。
当のユウは、なにもチェスターの態度に若干腹を立たせはしているみたいだったが、そのことに関してはあまり気にしてはいないようであった。

「もしかして...記憶が、ないの?」

そんなモルモの思考を遮ったのは、少女のそんな一声であった。
「え?」と今度はモルモが間抜けな声を出す。
どうやら、少女もまた素直な性格らしく、
素直に世界樹からという言葉を飲み込み、ユウは何も知らないから嘘をついたんだ。と思い込んでしまったようだ。

「あなたも、記憶がないのね。この街に来るまでの記憶が..」
「あ、うん..」

この街にもなにも、ないのは当たり前だ。ユウはまだ生まれたばかりのディセンダーなのだから。とは口が裂けても言えるはずもなく、記憶がないことを肯定していたユウにモルモもそうなんだと頷くことしか出来ずにいた。苦笑うモルモに、困った顔をしていたのだと勘違いしたチェスターがそうなのかと、同情の声を漏らす。

「お前らも大変そうだけど、頑張れよ。さて、いつまでもこんなとこうろついてっとまた兵士に目をつけられちまうな。さあ、そろそろ戻るぞ、カノンノ」
「う、うん......あ、あの、私..カノンノ。さっきは助けてくれて......ありがとう!」
「あ、そうだ。もし、行く当てがないならこの先の街でクラトスって男を訪ねてみろよ。アドリビトムって言えば街の奴らなら場所が分かると思うからよ」

帰るぞ、と促して来たチェスターに名残惜しそうな顔をする少女。
アドリビトムを訪ねろというチェスターの言葉にモルモがそうしてみる、と手を振って返す。
活発な少女......というには少し気弱な少女、カノンノにユウはまた笑みを向けた。
じゃあ、と手を振ってチェスターと帰って行ったカノンノの後ろ姿を、見つめる。
ユウは見えなくなるまで、彼女のまるで簡単に消えてしまいそうなほどにか細い身体から目が離せなくて、ずっと目で追っていた。
なんだろう、この感覚は。
モヤモヤとした感じ、よく分からない。

ただ、なんだろうな。
なんだか、似ているような気がした。
彼女の存在に、似たなにを感じた気がした。

僕たちディセンダーと、同じ、何かを。


その時は、まだ知らなかったはずなのに、おかしな話だね。



「そろそろ、オイラたちも行こうか?」
「そうだね、戦いとやらはあまり好きじゃないし」
「え?」
「その驚きに満ちた顔はなにかな?」
「そ、そうだよね!ユウには戦いは向いてないもんね!じゃあ、さっさと街にいこっかー!!」

街まではそう遠くないからすぐに見えて来るはずだ。
不自然なテンションで羽を羽ばたかせるモルモにユウが睨みつけていたのは言うまでもないことでありモルモも後ろからの視線に冷や汗を垂らしていた。


- 2 -


[*前] | [次#]
ページ:

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -