最凶誕生


「ねえ!」
「お願い、この世界を救うために目を覚まして!」

あまりに煩い呼びかけに目を覚まして、最初に目に入ったのは草木の緑と淡い日の光だった。
いきなり目に差し込んできた光に、僕は目を細める。
初めて目を開けた僕には、眩しいという感覚すら知らず......そのあまりの不快感に僕は眉をひそめ、

「あ!やっと目が覚めたんだね!!あんまり目を覚まさないから心配しちゃったよ」

光のごとく、いきなり飛び込んできた大きな声に、僕は驚きに身体を震わせ、不快感を露わにしながらそっと瞳を開けた。
バタバタと羽をバタつかせ、嬉しそうな顔をしている謎の小さい生物が目に入り、
ここはどこ?君は誰?なんていう疑問よりも、

「煩いから、コレ、はたいてもいいのかな?」
腹立った僕は、
ついには、そんな悪態をついていた。
え?と間抜けな顔をする間抜けな生物。
それが、生まれて初めて、僕が言葉にした言葉だった。

「やめてよ!口開いで第一声がそれ!?良い訳ないでしょ!!!?」
「不審物を見たら、まずは普通叩いて確認するじゃん」
「しないよ!爆発するよ!?したらどうすのさ!!?」
「え?君、爆発するの..?」
「しないよ!!!!?不審物の話し!そもそもおいら不審物じゃないから!!何その引き切った顔!ねえ、その嫌そうな顔やめて!仮にも君は世界を救うべく生まれた救世主様なんだからさあ!!」
「......でぃせんだー..?僕が?.........なにそれ..」
「はっ!?ほ、ほら、君がおかしなこと言いだしたから説明してなかったじゃん!!そう!君はこの世界を救うために生み出された救世主(ディセンダー)なんだよ!!」

僕が悪いみたいじゃん。と言う僕を無視して、話しを進めていく謎生物もといアホ生物。

「......じゃあ..さっき、煩く呼んでたのも、もしかして君?」
「うん!そうだよ、この世界に危機を知らせたくて......世界樹にお願いしてたんだ。君を、生んでくれって」
「ふーん.........で、僕が生まれたんだ。救世主として」
「そ!ディセンダーとして君が生まれたんだ。この世界を救うために、ね!」
「何度も言われたから話しはわかったけど.........勝手だね」

生まれたばかりでいきなり、世界を救うために君は生まれたんだ、なんて......何も知らない僕に、いったいどうしろというのか。



「実はオイラも、違う世界のディセンダーなんだ」
「へえ、違う世界の君がなんでわざわざ僕のところに?」
「............オイラは、救うことが出来なかったんだ。オイラの世界は、いきなりやってきたあいつに...抵抗する間もなく、全部、飲み込まれちゃったんだ」
「...............」
「オイラ、どうすることも出来なかった。泣くことしか出来なかった。でも、オイラの世界を飲み込んだ奴がこの世界に向かってるのが見えて......オイラ、居ても立っても居られなくて、君を呼んだんだ。もう、同じ目には、合わせたくないって、思ったから」

真剣に、自分の世界のことを話す彼に、僕は何も言えなかった。
それで?と聞くことも、そう、と納得することも。
何も言わずとも、謎の生物は勝手に話していく。
救えなかったと話す目の前の存在は歯をぐっと食いしばっていて、瞳に水を貯めている。
でも、何も知らない僕には、その''悲しい''という感覚も理解出来なくて、その水がなんなのかも、何を返したらいいのか分からず、ただ聞いてることしか出来なかった。

黙り込んだ僕に、謎の生物は暗くなっちゃったね、ごめんね、と謝って瞳から出てきていた水滴を拭う。
暗い気持ちってのも分からないし、水が目から出る意味も分からなくて、

「とりあえず、世界...救えばいいんでしょ」

君がしようとしたみたいに。
分かんないことだらけだけど、
ようはそういうことでしょ。
ディセンダー(救世主)って、名前の通りにさ。

「う、うん!そう、それがディセンダーの使命だからね!!」

そのために、オイラ達は生まれてきたんだから。
オイラは成し遂げられなかったけど、きっと君なら出来るよ!

「オイラも手伝うからさ、頑張ろうね!えっと......そういえば、君、名前は?」

「名前?」

名前。名前ってなんだっけ。

「うん、名前!オイラはモルモって言うんだけど......名前、分からないかな?生まれたばかりで何もしらないだろうけど、なんかこう..ひとつだけ覚えてるっていうか、知っているもの....分からない?」
「ひとつだけ?」

ディセンダーは生まれたばかりだから何も知らない。
その中で、ひとつだけ頭に浮かんでる言葉、ないかな?
それが、君に唯一この世界に落ちるにいたって、世界樹に与えられた、名前だよ。

モルモと名乗った生物の言葉に、
あ。
と僕は声をあげる。


「ユウ」

必要最低限の知識と、今覚えたディセンダーという言葉だけが入っていた、何もなかった真っ白な頭の中に、ふと、浮かんできた二つの文字。

「僕の名前は.....ユウ」

「ユウ?...いい名前だね!」
「うん、君と違ってね」
「それどういう意味!!?」

降り立った世界は、分からないことだらけだ。
これから何が待ち受けているのかも、何も分からない。

ただ、
僕が救うべき世界だってことしか。




「なんだっけ、世界救世?征服だっけ?まあいいや、じゃあそれしに行こうか」
「後者おかしい!待って征服しちゃダメだから!ねえ、待って!!」


世界を救うために生まれてきたんだから、
君はそれだけを、知っていればいい。

どうせ、
救世主として使命を果たすためだけに生まれ、どっちにしろ消えていくだけの人生なのだから。

他には何も、知る必要もないよ。
この世界が、''こんな''世界だったってことも、何も。





''キミ''は知らなければ、良かったのに。









- 1 -


[*前] | [次#]
ページ:

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -