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 盗賊討伐依頼/先代        リルトサイド


「このオレが……負け、た…?」

氷が落ちた轟音の後、ガチャン、と鉄と地面の擦れる音がして、一人の人物が横たわった。真っ赤に広がるに広がる色の中に、黄色が混じる。
剣を手放した人物が、赤の広がった床に手と膝をつけて倒れ込んでいた。

油断していたとはいえ、単なる魔術師如きに?そうぼそりと倒れこんだ人物は呟く。地面に広がる赤に目を向けた状態で。

「残念だったね。確かに君は最高に強かったよ..でも、ただ、それだけだった」

手数で言えばかなりの数を要していたが、時間としては、それは、一瞬の出来事だった。
元からすでに返り血などで真っ赤に染まっていた金髪の人物はともかく、一方的にも見えたユウの体もところどころに傷がある状態だ。
戦いはいっとき…一瞬は、は互いに互いを譲らない攻防戦になっていたが、ぶつかり合う剣と杖の戦いの末、勝利したのは最後に隙をついて術を放ったユウだった。
膝をついた人物は一人嘆きの声を漏らす。
それを聞きながら、ユウは見下ろしていた瞳をスッと細めた。

「うそ、だろ...オレが........?この、オレが…?嘘だ、ありえない……なぜ、どうして……だって、オレは……そんなの、ありえない!!オレには戦うことしかない、ずっとずっと戦うことだけをしてきた、それ以外わからなかった、だから…血を見ることだけが、それが、生きてるってそう、思えて..なのに、なのになぜこんなやつに?なぜ、自分の血なんかに染まらなきゃならない?無理やり色づけられた真っ赤な血なんかに、いったいなんの価値がある!そんなのオレは望んでない…!」
「そう.....君はもう少しマシなヤツだって思っていたんだけれど、どうやら、それは僕の思い過ごし、だったみたい」

急に騒ぎ出した人物に、ユウは息を吐き出し、細めた目を下に向ける。ほんの少しでも、疑問をもって、きちんと目を向けた自分が急にアホらしく思えて、
楽しそうに笑っていたあの姿は、なんだったんだろう?笑っていたのは、それをすることに意味があったから?
僕に負けて、ありえないだとか生きがいだとか…望んでない?望みなんて、叶うわけない。叶わないのが望み、思い通りにならないのが世界。この世に自由がないように、うまく行くことなんて何一つとしてない。変わることも出来やしない。生まれてきたばかりなのに、なぜかそんな思考が頭を巡ってきて、すごく、気持ちの悪い気分になった。
下らない、馬鹿馬鹿しい。ほんと、あほらしいや。

「どういう意味だ?!」
「せいぜい、君が僕に勝てないのは、もちろん思考の差っていうのもあるけれど、それ以上に..きっと意志の違いによるもの、なんだと思うよ。戦っていなければ、自分を保っていられないような、そんなやつなんかには、僕は負けない。君がそんなに弱いヤツだとは思わなかったよ。そんなことに頑張って、バカみたいだね」

なっ、と言い返せもせずただ目の前の人物は声を漏らす。
さっき、なんで自分がこの人物に興味をもったのか、話せば話すほど分からなくなっていく一方で、そんなつまらないと感じていく人物に未だに感心をもった気持ちは拭えなくて、ただただ疑問だけが僕の中に募っていく。
''懐かしい''そんな感情を知らないユウにとって、胸の中に生まれた感情がなんなのか、わかるはずもなかった。

「戦って、殺して、きっとさぞや君は気持ちがいいんだろうね。でも、何かに集中していないと生きていけない、何かに染まっていないと気持ちが落ち着かない...なんて、そんなの虚しくならない?自分のために誰かを傷つけて、縋って…そんなの、気づかないうちに、自身を傷つけて行くだけだよ」
「…………………」
「もうさ、この際、人に迷惑をかけるくらいなら、いっそ、もっと楽になっちゃったらどう?はっぴーになれるかもよ」
「そんなの、できたらとっくに..!」
「出来ないんだ...弱虫だね。そんな覚悟も、生きる覚悟もないくせに、死を弄ばないほうがいいよ。いずれ、きっと君は痛い目を見る」
「アンタに、オレのなにが……!」
「わからないよ。だって、僕は君のことなんて知らないから」

床に頭をつけ、拳を握りしめている目の前の人物に、ユウは落ち着いた声で言葉をかける。声を荒げた人物は上を向きユウを睨みつけるように見つめる。
知らないし、と冷たくあしらったように感じる言葉に、ユウは、でも、と続けた。

「でも、知らないからこそ思うことはある。もっと、楽に生きなよ。キミがしたいように、キミがしたいことをして…自由にさ」

その続いた言葉に、言葉を失った。
見つめ返してきた瞳に、赤い色が写り込んでいて、澄んだ青に赤が混じったその色に、金髪の人物は、ああ、そうか、と一人納得の声を漏らす。

どうりで、勝てないわけだ…そうか、アンタは……キミがこの世界の……

「最初から、勝ち目、なかったってことか……」

そう呟いた言葉は、誰かの耳に入ったかわからない。
聞こえていたのかもしれないけれど、目の前のキミは特に表情も変えることはなく、オレから視線を逸らし、歩き出していた。

「.........す、すごいやユウ!こんなヤツ、軽々と倒しちゃうなんて!!」
「僕だし」
「すごい自身の程!?ま、まあ、確かに今回は、そうだとも言える、けど…」
「そうだとも?何も出来ずに震えていたハエを助けてあげたりしたんだから、流石だねと崇めながら僕に感謝してよね」
「ああああそうだね、キミのおかげだったよ!!さすがだね!?ありがとう!!?」

足音とともに遠くなっていく、話すキミの声をぼんやりと聞きながら、
気づいたら、ハハ、と、オレは笑みをこぼしていた。
なんだか胸の中にあったしこりが消えたような、そんな感覚に、
先ほどまでの自分はなんだったんだろうと、そう思ったら、自然と口から息が漏れていた。

―ねぇ、なんでキミはそんなに笑っているの

さっき、問われたその言葉。
まるで何もかもをかき消しているかのようなひどく冷めきったあの瞳…最初は見下した、というよりは受け入れないといった拒絶が感じられる冷ややかな瞳だったと感じた。だけど、今は。
海の中を漂い、まるで水の中に包まれているような柔らかな感覚。淡く揺らめき、揺れるたびに太陽に照らされた海のようにキラキラと輝きを放つ、輝きを含んだ青く澄んだ瞳。

あの時、問われた言葉に、
ただ、驚いた。
なんで、という問いに、確信を突かれた気がして。
今、楽しい?ってそう、問われたように聞こえて。
問いとともに向けられた、青く澄んだ瞳。その時オレはその青に引き込まれそうになった。
全てを遮断していると、そう見えたあの瞳は光をかき消していたわけじゃない。ただ、もう必要としていなかった、元からすでに持っているんだ。オレにはもうない、失ってしまった、無垢な輝きを。



「ま、待って!ここであったのは運命だと思うんだ!!!!」


今、手放したくない、絶対に。もっと一緒にいたい。また、''君''と。
なぜ、そう思ったのかはよくわからない。
オレを打ち負かしたから、オレに気づかせてくれたから…いや、それも確かにあるけど…この気持ちは、きっとその程度で芽生えたものじゃない。
もっと昔からあった、そんな、懐かしささえ覚える…そんな''感情''……
オレは、心を奪われた。意思を持った、強くて純粋な無垢なその輝きに。
なぜという理由はわからないが、この気持ちが何かもわからないが、
でも、一緒に居たいと、それを自覚してからのオレの行動はものすごく早かった。
離れていく君に向かって、バッという効果音が聞こえる速さで動き、オレは叫んだ。
少し離れた位置で倒れていた姿勢から、急に飛びかかる勢いで動いて近づいてきたオレにも動じることなく、未だに見下ろす体制でオレを見つめる君。

「…僕にとっては、偶然だけど」

振り返り、口を開いた君から返ってきたのは、表情そのままに好意的なものではなかった。

「そ、そんなこと言わずに少し、話をぉ…!!」
「モルモ、もう帰るよ」
「あああ!まっ、待って!!!な..なあ、アンタ、名前...名前を教えてくれないか!?キミの…君の名前が知りたいんだ!!」
「......さ、依頼終了。モルモ、帰るよ」
「え、あ..うん!」
「帰らないでェエ!!お願いだからァアア!名前を!名前だけでも教えてくれよ!オレ..君ともっと仲良くなりたいって思ってるんだ…!!」

冷たくあしらわれたことに君の足元で泣きついてオレは叫ぶ。

「ちょ、ちょっと!キミ何言ってんの!!?さっきオイラたちのコト殺そうとしてたくせに!!」
「あ、あれは..その、不可抗力ってヤツで!だから、謝るからさ、その..!」
「......あのさ、そもそも僕たちは仲良くないわけで、0は何をかけてもゼロだとおもうんだけど。それに、僕はキミの名前、知らない」
「そんなこと言わないで教……えっ?」
「そういうの、よくは知らないけど、まず自分から名乗るものなんじゃないの?」
「え、あ......ああ!オ、オレは、リルトっていうんだ!!」
「............そう」
「なんでェエエ!!?待って!?ねぇ何で帰ろうとするの!!?待って!!??」
「別に、教えるなんて一言も言ってないよ。いつまでそこに居るつもり?しつこい男は嫌われるものだって聞いたよ」
「え、あっ、しつこい…あああそんなコト言わないでくれよ!なあ!?」
(うわ、ストーカーみたいになってる)
「やだ。だって今のキミ、気持ち悪いもの」
「き、気持ち悪い..!?」
「うん、気持ち悪い。こんなにも気持ち悪い人っているんだって思えるほどには本当に気持ち悪い」

ガーン、という漫画のような効果音が目に見えるほどに肩を落とし落ち込んだリルトと名乗った人物。
そんなリルトを見て、ユウはふふ、と笑いをこぼした。そんなユウに、首を傾げながらモルモが顔を向ける。

「でもまあ...キミも暇つぶし程度にはなってくれたし..……名前、教えてあげてもいいよ」
「ほんっ─」
「ユウ」
「.........えっ?」
「...なに?わざわざディセンダー様が名前を教えてあげたっていうのに、嬉しくないのかい?」
「ああああ、い、いや!!!そ、そうか...ユウ、かあ...」
「あ。でも、タダとは言わないないからね。せっかく教えてあげたんだし......そうだね、一つ..僕の言うコトを聞いてもらおうかな」
「言う、コト..?」
「そ、絶対に消せない命令。いいよね?」
「あ、ああ!ユウの願いなら何でも受けるぜ!死ねって言われたら死ねる!」
「何でも、って言ったね?そういう言葉は嫌いじゃないよ。でも命は大事にしてね、じゃないと命令の意味がなくなっちゃうから」

ユウはリルトに微笑んだあと、間を置き、一瞬の静寂がながれる。
ごくり、と唾を飲み込む音が、静かな神殿の中で響く。
それをみていた蚊帳の外にいたモルモは呆然とその様子に目をやっていた。

「そうだね、じゃあ......僕の救世の旅に付き合ってよ」
「へ?救世?」

どんなに凄い言葉がくるのかと待ちかまえていたリルトだったが、ユウからの発言は、おもっていたものよりも容易なもので、リルトはぽかんと口をあけた間抜けな顔をする。
でも、それは、ユウにとっては、なによりも大切な事。一生、という意味を含んだ一番重みのある言葉でもあった。

「そう、ディセンダーである僕の救世の旅。今まで、ずっと、たいくつだったんだよね。だからさ、僕がこの世界に飽きないように、ずっと一緒に..キミにはずっと側に居てほしいんだ」
「え...そ、そんなコト..で良いのか?」

もっと何か、物理的な、そういった類の願いだと思っていたリルトは、ユウの言葉に唖然とし、目を丸くしていた。
その、願いの内容もだが、ずっと一緒という言葉に。それってなんだか─そう思ったリルトの思考を遮るように、ユウは言葉を続ける。

「ただの、暇つぶしの材料としてね。もちろん、聞く以上はもし暇になんかさせたら、それそうとうの罰は受けてもらうつもりだけれど....なに?嫌なの?」
「いいや!?ただ、ちょっとびっくりしたっていうか……オレは、罰があろうとなんだろうと、むしろ喜んでついていかせてもらうつもりだぜ!そりゃあ、もう邪魔だって言われるほどにどこまでも!」
「うん、まあ……しつこすぎると嫌になるかな」

そんな、心から嬉しそうに笑うリルトに、どんな顔をしていいのか若干戸惑うユウであったが、心の中ではリルト以上に嬉しそうに気持ちを綻ばせていた。
つまらなかった人生が、やっと変わる。生まれて間もないユウにとっては、その変化は、なによりも心高ぶる出来事であった。
その高ぶりが、なんの感情なのかを本人は知らない。
ただただその気持ちを胸に、馬鹿みたい、リルトを見て、ユウは楽しそうに小さくそう呟いた。


「これからよろしくね、リルト」
「あ、あ、ああ!よろしくな、ユウ!」

「...もしかして、オイラ邪魔者?」


これが、僕とキミの、オレと君の、最初の出会いだった。
今思えば、これは必然だったのかもしれない。
あんな、結末を迎えるための、コマとの出会いだったのだとしたら。
でもまあ、これはまだ、先の話しだ。
これから続く、キミとの長い長い、旅路のお話。






僕の知らないことをたくさん教えて、
僕の知らない世界を見せて、
どうか、導いてあげてね。

救世の、その先にある未来へと。




狂った盗伐依頼(クリア!)



───おまけ
モルモ「あれ?そういえな、なんでキミ、テレジアの人間なのにディセンダーを知ってるの?」
リルト「は?そんな同じ存在だからに決まってんだろ。いや、元……?てか、一応アンタもそうなんだろ、興味はないけど」
モルモ「えっっ!!?うそ!?キミどっからどうみても救世どころか破滅させる側でしょ!!!?」
リルト「ああ゙?なに言ってんだ。救世も……やり方は様々だろ…」
モルモ「様々ってなに!?なんか発想が怖い!神妙なのも怖い!絶対キミが救世主なんて嘘だー!」
ユウ「まあ、僕みたいな救世主もいるんだから、わかろうともせずに否定するのは良くないよ。たとえどんな思想の持ち主であっても」
リルト「え〜?そんなこといったら、ユウは世界一かわいい救世主だよなぁ〜!」
モルモ「じ、自覚はあるんだ…っていうかうわ気持ち悪っ!誰も褒めてはないよ…?」
ユウ「ん?気持ち悪いのは同意だけど、自覚…?それはなんのことかな?」
モルモ(あー!ダメだこれツッコミやらなにやら追いつかないー!!!)




―――――あとがき(長いです)
先代(RM1)で初めてのリルユウの出会い的な感じ。
狂った盗賊討伐、みたいな依頼を受けて殺s..倒しに行ったら戦闘狂なリルトが居たみたいな。場所は結界の神殿。
そして途中懐かしくなってたのは初代の記憶がささやかながらあるから互いに惹かれたという先祖ネタ。

最後のずっと一緒って言葉がリルトの枷になるとはきっと本人も思ってないのではないかと(暗い
ちなみに、ユウに性別はつけてないのでリルトの男性恐怖症もなにもないのです。そもそも人間限定なやつなのでまあ…
それにしても...サイコパスって好きだけど書くのは難しいね..試行錯誤。

ちなみに、ユウのキミ呼び、リルトの君呼びが確定した瞬間が気を許した瞬間だよという裏話。ユウは案外最初から言っているけど……ユウのキミ、リルトの君呼びは二人限定互いだけの呼び方となってて、三人称は一人称と同じユウ→漢字、リルト→カタカナなのですが互いを呼び合う、憧れを含めてリルト→漢字、ユウ→カタカナと交換させてますって感じです。

書きたくて書いたですがリルトの設定が曖昧すぎて…一応リルトはディセンダーとして生きていた間に記憶を消しても使命からは解放されず積み重ねていくうちにだんだんと自分が世界が嫌になり生きた心地がしなくなり生を求めて狂人化、逃げた先でユウに出会い改正するという…(リルトも他世界のディセンダーであり自分で世界を破滅させた後ギルガリムに世界樹を捧げてテレジアに来た)
ディセンダーの闇が書きたい。






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