<1/5>

 ようこそ、バンエルティア号へ



「あ、パニール。洗濯物、取り込んでおいたよ」

「ありがとう、カノンノ。こっちも、やっと台所が片付いて、一息つけるところよ。
さ、私はこれから、日向ぼっこしながら恋愛小説を読む、幸せタイムよ〜」


嬉しそうな顔でそう言うパニールを見て、あはは、とカノンノは微笑ましく笑う。


「...!!」


と、その時、世界樹がぱーっと光を発し、何かと、カノンノは驚いたように目を大きくした。


「今の光..世界樹が、何かを出してたみたい」

「まあ、何かしらね」

「見失っちゃった..」


なんだったんだろう..?と呟くカノンノの近くで、いきなり、バン!と大きな音が甲板で響く。


「な、何..!?」

「ひ、人がっ!?はわわわわわわ..。
人が空から降って来たわあああ〜!!」


音のした方を振り返ると、そこには、俯せになって倒れている、茶色の髪をした少年がいた。




* * * *





甲板に倒れていた、降ってきた彼を、とりあえず近くの部屋のソファーの上へと運んだ。
部屋を一旦離れていたカノンノが、戻ってきて、少年が目を覚ました事に気づくと、安心したようにひとつ息をはいて「良かった」と呟いた。
そんなカノンノの事を見つめながら、少年は起き上がり、目覚めたばかりの虚ろな目で、「ここは..?」と言い、小さく首を傾げる。


「ここはね、バンエルティア号という船の中よ。あなたは..」


続けて言葉を言おうとしたところで、部屋の扉が、ウィーン、と開いた。


「カノンノ、どう?お目覚めになったの?...あら、あれ、んまー。りりしいお坊ちゃまだこと!」


起きていた少年を見るなり、パニールは目を輝かせて、可愛らしいわねーと声を荒げた。
少年は「..?」とまた、首を横に傾ける。そんな光景を見て、カノンノはふふ、とにこやかな笑顔を見せた。


「私、カノンノ。あなたは..?」

「ユウ......だ」

ユウ(と名乗った彼)は、状況の飲み込めないなか、自分の名前だけはしっかりと答えた。


「ユウ.....いい名前ね」

「ユウさん、ね。それにしても、無事で何よりだわ〜。あなた、空から降ってきたのよ?ここの甲板に」

「そうそう!いきなり大きな音で落ちてきたから、びっくりしたんだよ」


パニールとカノンノの言葉に「降ってきた..?」と疑問を覚えたユウだが、部屋の扉が開き、少年?が入ってきたために、すぐにそんなものは吹っ飛んだ。
開いた扉を、皆で見ると..少年?は「お目覚めのようですね」と第一声を発した。


「ようこそ、バンエルティア号へ。ボクはこの船の船長、チャットです。くつろいでくださって結構ですよ。我々は海賊ですが、漂着者から奪ったりなどはいたしませんから。」


海賊?と、カノンノに問いかけると、彼女は「大丈夫だよ。私達は、良い海賊だから」と答えてくれた。


「それにしても、空から降ってきたとか...海上で、竜巻にでも遭われたんですかね?」

「.......」

「ねえ、チャット。これから、最寄の港へ送ってあげたいのだけど..」

「そうですね。そうしてあげた方が、いいでしょう。..で、あなたの国はどこですか?」

「........?」

「住んでるお家があるのは、どこなの?連れてってあげるから」

「えっと、..........わからない。」

「わからない..?....それは、本気で言ってるんですか?」


「ごめん」というように、ユウは俯く。


「まさか....どうやら、本当に自分の名前以外、記憶が無いみたいですが。..落下した時のショックでしょうか?」

「記憶が、無い?」

「......」

「それじゃ、この方、ここにいてもいいんじゃないでしょうか。ねェ、船長さん?」

「別に、構いませんよ。ただし!働かざるもの食うべからず、です。ボクの子分として、立派に働いて頂く事が条件ですけどね。」

「......ここに..?」

「そうだよ。嫌..かな?」


カノンノの問いに、ユウはにこっと、肯定の意味で笑った。


「それは、OKって事ですよね?...じゃあ、..っと。これより、バンエルティア号の一員として、あなたを迎えます!カノンノさん、この船について、簡単に説明お願いしますね。」


良かった。と言って、カノンノはにこやかに「はい」と返事をした。











▽.おまけ

「それよりユウ、体の方は大丈夫?」

「身体?...別に、何ともないが」

「本当に?痛いところはない?」

「ああ、大丈夫だ」

「そう..(あんなに音をたてて落ちたし..それに、確か甲板は陥没して......うーん、やっぱり怪我してたっておかしくないはずなんだけどなあ )」

「ん…?」

「ユウって、丈夫...なのね」

「うん…?」



―――――
疑問の多いディセンダー様。






top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -