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 ようこそ、バンエルティア号へ



「君か、チャットが言ってた新顔は。で、なんで空から降ってきたんだ?」

「......えっ、」

「ほぉら、キール!彼困ってるじゃない。それに先ずは、自己紹介からでしょ?」


カノンノが、それは..と解釈しようと一歩出ると、そこに、ファラが割り込み、まだ自己紹介してないじゃない!と一声した。
それに、キールが馬鹿を言うなと焦ったように、言葉を返す。


「何言ってるんだ!ぼくらは海上にいるんだぞ!事故があったなら、危機管理上、知っておく必要が..」

「ああ、もうそんなに必死になんなよ。とにかく、挨拶から始めようぜ。えーっと、オレはリッド・ハーシェル。よろしくな」


今度はリッドが、面倒くさそうにしてキールを止める。そして、さっさと自己紹介を始めた。
そんなリッドに、キールは、お前達は危機感が..と、またうだうだ喋りだそうとしていたところで、次はファラがキールの言葉をさいた。


「わたしはファラ。ファラ・エルステッド。よろしくね!それで、この学者っぽいのが..」

「おい、自己紹介ぐらいぼくにさせろ!それに゙学者っぽい゙ってなんだよ。ぼくはれっきとした学生だぞ?....まあいい。ぼくはキール・ツァイベル。さっきもいったが、学生だ。何か知らない事や、わからない事があったら、まずはぼくに聞くといい。わかる範囲内でなら教えてやる。」


三人の自己紹介が(なんやかんやで)終わったところで、最後にユウが名前だけを言う。そして、知らない事や分からない、というキールの発言に、ユウは答えた。


「聞くとって言うなら、ツァイベル、一つ..いいか?」

「ああ、なんだ?」

「学生って言うのは..何の事を表している言葉...なんだろうか?」

「は?...ま、待て。まさかお前..そんな事も知らないのか!?」


キールだけではなく、リッドやファラも「え?」という顔をした。
「悪い」と一言だけ謝ると、リッド達は「いや..」と彼(女)らも、また一言で返す。
そんな中、カノンノだけは、笑いながら、記憶喪失だからと軽い口調で三人に説明をした。


「記憶喪失って..そりゃ、大変だな。」

「そうだね、私達も何か手伝ってあげないと!」

「そこで納得してしまうのか!?記憶喪失だからって、そんな...って、ファラ..゙も゙というのはどういう事だ?」

「え?だってキールは、彼の先生してあげるんでしょ?」

「!...そ、そこまでは誰も言ってないぞ!?」

「なに言ってるの、キール。教えるって言ったんだから、ちゃんと責任もたなきゃダメでしょ?」

「いや........だ、だから、先生をやるとは言ってな

「キール..?」
「教えてくれないのか..?」

「ま、まあな!仕方ない、言ったんだから仕方ない!レポートの合間くらいにならやって、やる..」


ファラの笑みと、ユウの純粋な眼差しに、キールは、後半諦めたようにやると答えた。


「.........ま、頑張れよ、キール。」


その光景に、この先大変になりそうだと、リッドは同情の意味で肩を落として一息ついたのだった。



* * * *




「あ、こんにちは。僕は、ルカ・ミルダと申します」


ユウが入って来たことを見るなり、彼は深々とお辞儀をしながら自己紹介をした。
その行為に、彼の隣に居た少女は「相変わらず、堅っ苦しい」と嫌そうな顔をする。


「で、でも..初対面の挨拶って、大事だと思うよ?やっぱり、丁寧にしといた方が..

「ふふん、あんた、海賊の掟を知らないんじゃないの?"後輩は、先輩に絶対服従"!こいつは、今日から働くってワケでしょ?じゃあ、あたし達先輩じゃん!」

「その掟、今イリアが作ったんじゃないの?」

「あらン、鋭いわねえ、ルカ君ったら」


語尾にオンプのついてそうな勢いで、そう言い、イリアはにんまりと笑う。
相変わらずの彼女に、ルカとカノンノは、呆れたような顔をして、ユウへと笑いかけた。
そんな三人を見ても、ユウは相変わらず「...?」とハテナを浮かべるだけで、後はそのまま、普通に名前だけを言う挨拶をした。


「ほら、イリア。君も挨拶しないと」

「あ〜、もう、わかったっての!えーっと、あたしはイリア・アニーミよ。ま、とりあえず仲良くやりましょ。とーぜん、敬語は不要だからね」

「わかった。...それより、一つ......絶対服従っていうのは、どういう意味の..?」

「え?」
「え」


ルカとイリア、二人の驚き?声のその後には、相変わらずの会話が続いたのは言わずもがな。
ユウはイリアに苦手意識をもたれたとかなんとか。


「ああもう、だから天然ってのは嫌いなのよ!ムキーー!!」

「イ、イリア、落ち着いて..!」

「......?」

「あはは、..」



* * * *



ゲストルームでの挨拶が終わったあと、カノンノは次で最後だよ、と食堂へ連れていってくれた。
そこには、先程カノンノと俺を助けてくれた、小さくて可愛らしい生物、パニールが居た。


「あら、そういえば、自己紹介がまだでしたわよねェ。私、パニールと申します。ここで、家事全般のお世話をさせていただいてます。趣味は恋愛小説を読む事ですの。..月に、10冊は読んじゃうんです。」


オホホ、と嬉しそうに微笑む彼女に、俺は(名前は先程言った事があったから)軽くお辞儀だけをする挨拶をした。


「それにしても、男前でいらっしゃるわねェ!こりゃあ、街の女達が放っておきゃしませんよ〜。もう、そっちの方も盛んなんでしょ?」

「そっ..ち?」


はてなを浮かべ、パニールを見ると隣に居たカノンノが焦ったようにパニールの名前を叫んだ。
そんな俺とカノンノを見て、パニールは、「私ったら、何を」とまたオホホと笑った。


「そ、それは良いからさ!ユウ、他にパニールに聞きたい事はある?」

「...えっと、じゃあ..パニールはどうして船に..?」


「私が船に乗る理由ですか?それはですねェ、私、カノンノと一緒に旅をしてましてね」

「旅..?」

「ええ。まあ、それでちょっと、ここでご厄介になってるんです。それにほら、こちら、歳若い方ばかりでいらっしゃいますでしょ?私が面倒見なきゃ、と使命に感じましてねェ」

「若い..?若いと面倒、が必要なのか?」

「そんなふうに、知識が少ない方が多いですから」

「知識..か」

「ええ、知識です」


未だに良く分かっていないというように、呟くユウに、パニールはあらあら、と軽く微笑む。


「知識、ちしき.........じゃあ、イロイロ知ってると、若くないって事になるのか?」

「え?」
「まあ、」

「......ん?」

「え、えっと..それは、」

「.........?」

(違うって言えないくらい瞳がキラキラしてるよ...!)

「まあ..ずいぶん無垢、な..ねェ」

「?...むく?」

「.........」
「.........」


苦笑う二人の声が食堂にこだましたのだった。








▽.おまけ

「そういえば、思ったんだけど、あなたは..ファミリーネームで人を呼ぶのね。...昔からの、癖なのかな?」

「さあ..何となく、その方が呼びやすくて」

「長い方の名前が、呼びやすいの..?」

「.....ああ。」

「そっか..でも、私は名前の方で呼ばれる方がいいかなあ」

「そうなの..か?」




――――――
またユウ君に変な知識がついたのでした。

終わり方(オチ)が単調な件。





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