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 上下左右 /谷村



「あんたってそうしてると本当高校生くらいにしか見えないよな」
「アンタにだけは言われたくない..」
「いやいや、まだ俺はマシな方だろ。君みたいに不良に、ぼく〜とかって絡まれたことは流石に無いし」
「っ!  こんな状況じゃなかったら確実にぶん殴ってるからな !」
「はいはい、傷口広がるから大人しくしてろよ〜と、ほら出来たぞ。あんま上手くはねぇけどしないよりはマシだろ」
「アンタに借りを作るなんて一生の汚点だ..」
「こんな時くらい素直にアリガトウくらい言えよ。ったく、寝てりゃ普通に可愛いのに」

薬局の裏で壁に寄りかかるようにして座っている成司に、谷村は呆れたような口調で見下ろしながら話しをしていた。
会話を聞いても分かるように、彼らはあまり仲の良い関係とは言えない間柄だ。
こんな、状況でもなければすぐにでも成司は谷村の顔をぶん殴ってから走り去っていたであろう。
どれもこれも、こんな仲の悪い二人がなぜ一緒にいるのかというと  話しにも出ている不良とやらに成司が怪我を負わされたことから全ては始まっている。
よく見れば座っていた成司の腹部には薄っすらとだが赤く血が滲んでいた。
簡単に状況を説明すれば、不良に絡まれた成司が不覚にも怪我を負い、そこを偶然見つけた谷村に助けられた、というだけのことだ。
薬局から買ってきた包帯を成司の身体に巻き終え、こんな状況でも未だに悪態をついて不機嫌そうに眉を寄せていた成司に谷村は肩を竦めながら大きなため息をついた。
助けてやったのになんて言い草だ。刺された直後は痛さからか大人しくしていたくせに鎮静剤を飲ませた途端出るわ出るわの可愛くない暴言の嵐。
痛そうに腹を抑えて「死にそうだ」「助けて」と言わんばかりに訴えて来た時とはまるで別人のようではないか。痛みから出た生理現象 涙目で見つめられた時は一瞬可愛いと血迷った思考すら過ってしまったというのに。

「俺が見つけなかったら今頃どうなってたか分かんねぇんだ、ここは素直に感謝の意くらい表せよ」
「可愛くなくて結構だ。アンタに可愛いなんて思われても傷が痛むだけだからな。包帯代返すからとっとと消えろ」
「お前な 本っ当に可愛くねぇ!」

一万円札を財布から取り出し、成司は谷村にそれを押し付けた。
消えろ、という割には不安げな顔をしているような気もするのは単なる気のせいだろうか。
谷村は苛立ちを露わにしながら、言われなくてもと言ったようにその一万を受け取ると「勝手にしろ」と言葉を返して踵を返した。360℃も。

「...............ハァ  おい、強がってるみたいだがお前今一人じゃ歩けないんだろ?手だせ、肩貸してやるから」
「は..?別に 頼んでない 俺はお前に消えろって  っ!?」
「金、さっきの包帯と薬代だけじゃ高すぎるんだよ。だから、残りの分肩貸してやるって言ってんの」
「なん、だよ それ 別に金なんて、いいから離  !!」
「それと、そんな顔してる相手放って置けるほど俺は落ちぶれてるわけじゃないんだよね」
「は  ?なん..」
「こんな時くらい、強がりやめてまたには親切心に甘えろよ。てか、せっかく親切にしてやってんだからもうちょっと可愛くしてろ。顔は別に悪くねぇんだからさ」

背を向けたと思った谷村がすぐに向き直った為成司は唖然とした顔を数秒だけ谷村に向けていた。
口が悪いのはいつものことだが、これでも相手は怪我人だ。
後ろを向き直った瞬間、成司の顔はとても不安げな表情を浮かべていて、谷村はやっぱりなと思った通りのことに呆れた声が漏れた。
どんな時にも強がりで、全てを一人で背負いこもうとする、それは成司の悪い癖だ。
手を出せ、と谷村が手を突き出しながらぶっきらぼうに言う。彼も同じく口が悪いが、それは谷村なりの精一杯の優しさなのだ。
ん、と出された手に戸惑いを隠せずにいる成司。
帰れとかやめろとか離せとか、そんなことを言っているが顔は痛さと不安からかもう泣きそうな酷い表情をしていた。
谷村も帰れと言われてはいそうですかというほど素直な人間ではない。
強引に掴み取った腕を引き、驚いていた成司を無理やり肩に寄りかからせた。
普段では考えつかないくらいに優しい表情と、力強い口調で話しかけながら。


「...............警察のくせに、正義ぶりやがって..」
「何言ってんだ、警察官だからだろ。俺は名前通りの人間なんだよ」
「寝言は寝て言え」
「俺は今すぐここにお前を放置して行ったっていいんだぜ?」
「..................」
「おーい?冗談だからんな顔すんなって」

痛みからか既に調子を取り戻せずにいた成司にとってその置いて行くという言葉は酷く不安を煽ったらしく  谷村の肩に体重をかけたまま黙り込んでしまう。
谷村はそんな成司に茶化すように笑いながら内心でこいつこんなに可愛いかったけと思いつつセレナへと足を進めて行ったのであった。











「とりあえずセレナでいいよな、こっから一番近いし」
「...............ああ..」
「んだよ、急にしおらしくなって..」
「..................谷村..」
「? なんだよ」
「...............悪かっ た、な  迷惑、かけて......」
「........ん? んー、あー、まあ、こんなんで金貰えんなら安いもんだし 気にすんな」
「.........やっぱ最低だな、お前..」
「何せ神室町のダニだからなー」
「............バカ」
「はいはい、そうだな............(って なんだこの胸に来た衝撃は なんか今のこいつめっちゃ可愛いんですけど なんなのヤバイ......) 後で襲おう」
「..................え?(今身体に震えが  なんだか不穏な言葉が聞こえた気がするんだが..)」




上下左右。
(歳はどうあれ まるで兄弟のようですね)




谷村は、親子じゃなく完璧に兄(谷)弟(主)ですよね。いや上司(主)部下(谷)もありだけども(おい
面倒くさがりやだけど、やるときにはやるやつなんで、結構家族思いな良いお兄ちゃんになるのではと、勝手な妄想からつらつら。
ラストでホモオチになりましたけどね。





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