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 どっちがどっち /真島



「なーなー、暇やから今からどっか行こうやあ、成司ー」
「仕事があるので、申し訳もなくないですけどお断りします。というか、確かアンタも仕事結構溜まってましたよね、部下の人がさっき嘆いてましたよ」
「なんでや!仕事とワシどっちが大事なんや!そないなもん他の奴にやらせとけばええやん、どっか遊び行こうや、なあなあ成司〜!」
「普通に仕事ですけど」
「冷たいわ!冷た過ぎるで成司〜!あれや、上司の接待も大事な仕事やろ?ほれほれ、これは命令やで成司?上司の命令は絶対やろ〜?」
「アンタいい加減にしないとこっから放り出しますよ」
「ええやんええやん!遊ぼうや〜!なあ、遊ぼうや〜成司!!遊んでくんなきゃ嫌や〜!なあなあなあー!」

カタカタとペンを握る手が震え出したのがよく分かった。血管がブチ切れそうだ。
机に向かって事務作業に勤しんでいた成司  私の元に、いきなり扉を破壊する勢いで開け放ち、奇声と共に飛び込んできた見慣れたド派手な人物に私は苛立ちを隠せずに身体を震わせていた。
ちょっと、とその奇声の主である真島その人に制止の声をかけていた組員の人間がいたが、真島は聞く耳も持たずズカズカと土足で部屋に入ってくる。
そして、入って来てまずの第一声が「暇」の一言だ。あまりの馬鹿さに呆れを通り越して頭が痛くなった。
痛む頭を抱えながら、帰ってくれと態度に示したのだが、諦めが悪い というより諦めを知らない真島がそう簡単にそれを聞き入れてくれるわけもなく。
行こう行こうと煩く喚き散らす真島に、もうだめだと逆に諦めた私が、結局、いつも折れるハメになるのだ。
今回も、結局言い負かされて了承の返事を嫌々返すハメになってしまった。
ハア、と大きなため息を尽きながら眉根にシワを作る。渋々ながら了承の言葉を返せば、不満そうだった真島の頭の周りに花が咲いたのが見えた気がした。

「...............一時間だけですよ」
「おっ?おおっ!?」
「それ以上は遊びません 一時間したらすぐ帰って来ますからね  今日はそれで勘弁してください」
「さっすが成司や〜!話しが分かるな〜!!そうと決まったらすぐに出かけるでー!!成司はよう準備せい!時間がなくなってしまうやないかい!」
「分かりましたから急かさないで下さい」

スーツ姿のまま、特に着替えるわけでもなく机の上だけ整理して言われるがままに真島の後を成司は追った。

「なんや、そのまんま来たんかいな。せっかくのデートやのにつまらんやっちゃな〜」
「え?急用が出来たから帰っていいって?分かりました、じゃあ帰りますね」
「ちょ、待ってーや!冗談や!冗談!帰らんといて!!?ちょっとしたジョークやんか!」
「ツッコミを入れにくいボケはやめてください。で、今日はどこにいく予定でいるんですか?またバッティングセンターに?」
「バリエーションがないみたいな言い方せんといてーや。ワシかて何べんも振りにはいかんわ  今日はゆっくり何処かに買い物でも行こう思うてな」
「えっ、買い物 ですか?」
「そのありえないみたいな顔はなんや。ワシかて買い物くらいするわ」
「え  いつも、同じ服を着ているくせに ?」
「その驚愕した顔やめえ!服の事はええやろ!この世には大人の事情っちゅうもんがあるんや、そこツッコミ入れんといてや」
「は、はあ  まあ、別にどうでもいいですけど」
「どうでもいいんかいっ!ああもうええからとりあえず買い物しにいくで!!」

行くぞと言って いや叫んで、少し駆け足気味で歩き出した真島に成司は手を引かれて小走り状態でついていく。
周りがなんだなんだとチラチラと騒がしい真島に目をやっていたが真島はいつものことで慣れているのか周りのことなど全然気にしておらず 成司は視線から逃げるように目を伏せながら、呆れたようにため息をはいていた。
真島が成司をこうやって連れ出すのは、見ていたら分かったかもしれないが 初めてではない。いつもいつも、煩く喚き散らしながら、強引にこうやって街中を引きずり回してくるのだ。
なぜ、なんてそんなのは彼がこんな性格なのだからというだけで説明はつく。自分の行きたいところに、行きたい時に、行きたい人物と、無理にでも行く。それが彼の生き方なのだ。
どんなに拒否してもその有無も言わさぬしつこさに勝てるはずもなく、了承させられてしまう。
でも、私は、なんだかんだ言って、こうして彼に連れ出される事を嫌だとは思っていなかった。本当に嫌なら、もっと拒絶して突き返すことくらいで来たはず。逃げる手段なんて沢山あるのだから、もっと言えることは出来たはずなのだ。
なのにそれをせずにこうしてここにいるということは、少なからず良してしてしまっている部分があるということで。
それに、私は彼が今日暇ではなかったということを、来た時点から知っていた。
仕事が沢山溜まっていて、なおかつ会議が迫っている状況だということも。話しによれば、もうすぐ仕事で遠くに行く予定もあると聞いた。それなのに、わざわざ私のところに来て買い物に行こうとするなんて、ただの馬鹿でない限り......理由は自分勝手な性格ってだけでは説明しきれない。
真島さんを嫌いになれないのには、そういった彼の不可解な行動があるからなのかもしれない。
厄介で、迷惑なのは確かだけど、彼はとにかく不器用なのだ。戦いとか、何かをぶつけることでしか素直になれない。人のことは言えないが、この人は酷く不器用なんだ。私よりはマシかもしれないけれど  私はそれを知っている。だから、嫌いにはなれない。あの人も、そんな彼の良さを知っていて、兄と呼んでいたのかもしれない。
真島さんの後ろを歩きながら、私は苦笑いを浮かべる。
こんなことをしているはずじゃないはずなのに、どうしても、やっぱりこの人には敵わないな。




「暇だとか言ってましたけど、アンタなら他にも相手は沢山いますよね。わざわざ私なんかを買い物に誘うのは嫌がらせか何かですか?」
「なんや、藪から棒に。ワシは成司が良かったから誘っただけやで。コン詰め過ぎなんも身体にようないやろ。たまにはパーッと遊ばな!」
「私は真島さんと違ってそうやって気楽に生きていられるような出来た人間ではないので 頑張ってるくらいが丁度いいんですよ」
「せやかて限度があるやろ。自分はちいとばかし頑張りすぎや、もっと他人を頼ったってバチは当たらんで」
「そんな頼れるような身分でもないですよ」
「身分なんで関係あらへんやろ!自分何年ワシらと一緒におるんや。辛い時くらい、意地はらんと素直に甘えればええんやで」
「すみませんね、不器用で  でも、そう言っていただけるだけで、私は十分です。こうやって連れ出して頂けるだけで、十分良い気分転換になってますから」
「ワシはただ、暇やったから一緒に出かけよう思ただけやで〜」
「そうですか、ならそういうことにしておきます」


笑って私の頭を撫でた真島さんの手を払いのけて、そんな悪態をついてしまう私も素直なんかになれない不器用で。
つれへんな、と不満気な顔をした真島さんにとても申し訳ない気持ちになった。
いつもは子供みたいに邪魔ばかりしてくるくせに、こういう時だけカッコつけて、でも  本当は、とても感謝しているのだ。
そんな彼でも、私にとってはいつも優しくてちょっとウザいけど心強い、大切な、尊敬すべき人間の一人だから。絶対に調子に乗るから、そんなこと言ってはあげないけれど、心の中ではいつも感謝しているんだ。

多分、仕事で何処かに行くって言ってたし、ちょっとの間会えなくなるだろうから、
「いつもありがとうございます」
って、今日くらいは言ってあげてもいいかもしれない。
当分、この騒がしい声も聞けなくなるんだし。今日くらいは...



「真島さんとこうして居れるだけで、私は  満足ですよ。いつも  ありがとうございます」

ありがとう、なんて、
私の口から絶対に出るはずがない言葉トップ3には入っているに違いない。
聞いた真島さんも、口をあんぐりと開けて間抜けな表情をしていた。
でも、そんな驚くことはないだろうと思う。リアクションがいちいち大げさだ。

「な、なんやねんいきなり !急に可愛えらしい事言い出してなんのつもりや!ま、まさかワシを萌え殺す気かいな!?そうなんやろ!」
「アンタのそういうノリは要らないですけどね。あ、一時間経ちましたので私帰りますね」
「ちょっ、デレの期間短すぎやろ!でもそげな冷たい成司もワシは嫌いやないで!」
「はいはい、私も嫌いでもないですよ」
「微妙にちゃう !!!!」

照れ隠しに、冷めた態度で言葉を返す。
まだ内心ちょっと熱が取れていないけど、まあ、なんていうか、
ありがとうの一言でこれだけ騒がれたら好きですよ、なんて絶対に言えないなと思った成司なのであった。




「帰ってきたらまた何処か行きましょうか、今度はちゃんと休みを取って」
「今日の成司はなんや天使のようにえろうかわええな 明日はハリケーンが来そうやな..」
「ぶっ殺しますよ」
「これぞまさにジキルとハイドっちゅうやつやな!」
「私は二重人格じゃないですけどね」




どっちがどっち。
(まるで兄弟のような?親子のような?そんな関係です)



真島は、親っていうよりは子供みたいな感じかと思って。でも、包容力は誰よりもありそうだから端から見たらある種仲良し親子なのかもしれないね!←
一応5ちょい前くらいの時間軸設定で書きました。真島にフラグが...というオチにしたかっただけですけど。




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