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 取引現場 /尾田
主:立華不動産に目をつけられた探偵
※時間軸0




「こ、これで勘弁して下さい..」
「ちゃんと入ってるな... いいでしょう。 交渉は成立ですね、 約束はちゃんと守りますよ。 さっさとどこにでも消えて下さい」
「あ、 ありがとうございます...!」


一通りの少ない裏路地。ネオンの輝きから一歩逸れた薄暗い場所から、聞こえてきた二人分の男の声。
普通ではない会話からは危ない現場であることが伺える。
ガタイのいい男の影と、その向こう側にはまだ幼げな顔をした青年の姿が見えた。一人は膝をついており、もう一人の人物に必死に許しを乞うている、そんな光景に見える。
話しを聞いただけならば青年が恐喝をされている場面に思えるが、一歩足を踏み入れてみれば、
立っているのは青年の方で、膝を付きながら、弱々しい態度で男が自分よりも一回り近く小柄な青年に分厚く膨らんだ封筒を手渡している光景が見えた。
謝りつつ、封筒を手渡した男は恐怖からか青年に目を向けながらも視線が泳ぎまくっていて焦点があっていない。
手渡された封筒を開けて、中身を確認する。一二と数えていた封筒の中には分厚い束となって入っていた金がチラリとだけ見えた。
数え終わるまで男は気が気でなく、さらに視線が宙を舞う。
青年が中身の確認を終え、男に良いということを告げると膝をついていた男は早々に逃げるようにその場から立ち去って行った。
逃げ足だけは早い奴、と青年が呆れた息を漏らす。
こんな異様な光景を繰り広げるのは、青年にとっては初めてどころか一度や二度のことではなかった。
むしろ、彼にとっては、日常。先ほどの男はとある依頼者から依頼されて追いかけていたストーカーだったのだ。その男を懲らしめ、そして警察に引き渡さない代わりに金を寄越せと話しを持ちかけ、先ほどの光景に繋がる。探偵のくせに、とはよく言われるがこれも世の現実だ。

通りかかった拍子にその場を偶然見かけてしまった、男...尾田は見覚えどころか良く見知った顔が目に入り、そこで足を止めて見ていた。
見慣れた光景であり、驚きはしないが醜い現状だなとつくづく思う。
去って行った男には目もくれず、その場で封筒を持ったまま立っていた青年に尾田は呆れつつも声を掛けた。


「相変わらず趣味が悪いことをしていますね」
「...警察なんかに引き渡したところでなんの得にもならないでしょう。 どうせ無駄に臭い場所に詰め込ませるだけだ。 だったら、 金にした方がよほど有意義です。 私は、 バカを最大限に生かしてさしあげているだけですよ」

人聞きが悪い、とこちらに嫌そうな顔を向けながら成司は言った。
手には分厚い封筒が握られている。
ああ、またやってたのか。と尾田はやはりといったように呆れたように息をはいていた。

封筒を懐にしまいながら、呆れている尾田のことなど気にもせず、そのまま尾田の横を通り過ぎ何事もなかったかのように成司はそこを立ち去ろうとする。
おいおいと思いつつ、尾田はちょっと待った、と立ち去ろうとしていた成司を焦って引き止めた。
別に俺は悪趣味だと言いたくて声をかけたわけではない。これでは何のために声をかけたのか 逃がしてしまっては意味がないではないか。
見かけたのは偶然にしろ、それを偶然で終わらせる気などさらさらない。
腕を掴まれた成司は不愉快そうに眉根を寄せながら振り返った。凄い睨みように一瞬だけ尾田は怯んだがこんな子供にビビっていては男が廃ってしまう。というか、そんな自分が情けなくも腹ただしく感じてしまうので怯んでいるわけにはいかない。

「せっかく会ったんですし、 話し、 したいんすけど?」
「会うたびに話しをされていては耳が痛くてたまりません。 すみませんが、 忙しいので、 手、 離して下さい」
「結局、 貴方も金が欲しいんでしょう。 だったら、 金を倍額お支払いしますので、 話しだけでも聞いてもらえませんかね」
「...話しを聞く気は無いと言っているでしょう。 あまりしつこいと流石にこちらも少し考えますよ」
「金、 欲しくはないんですか?」
「要らない人なんています? 出来れば欲しいでしょう、 人ならば」
「ええ、 そうですね.. でも、 俺には貴方が普通以上に金に固執しているようにも見えるんですけどね。 事情は知りませんけど、 お金、 必要なんじゃないですか?」
「そうですね、 死ぬまでにはそれなりに貯めておきたいですね」
「俺には、 早急に要しているようにも見えましたが」
「俺、 短気なんですよ。 何事も無駄なく、 素早くやらないと気が済まないタチなんです」

どちらも引かない攻防戦が続く。
話しを聞く気はないの一点張りに加えてまともに帰ってこない上手く受け流された答えの数々。
話す内容がなくなると、その後には火花が散るんじゃないかというくらいの見つめ合いが続いた。多分一分近く睨み合っていたんじゃないだろうか。
十どころじゃなく離れた子供相手になにをやっているのやら。
あまりの冷静な返しに尾田は、ついには諦めて内心呆れた息を吐きつつ、成司から視線を逸らした。
しかし、そこで終わらせないのが、尾田という男である。
すぐさま次の言葉を持ちかけて、成司の動きを遮った。絶対に逃がさないというその意思がとてつもなく感じられる。ガタイもいいし、その見た目で一方的に話しをされたら、一般人なら震えがって首を縦に振っていたことだろう。
成司はとても冷静だが、それは成司だからであり、はたから見たら子供が襲われているようにしか見えない。逃がすまいと掴まれた腕も離す気が見られないどころか段々と力が増している。
成司の顔が若干痛みに歪んだ。
土地買収で備えられたしつこさはもはや関心するレベルだ。引くところと押すところをちゃんと抑えているところがまたなんとも。

「私は、 なにを言われようと土地を売る気も、 貴方方と手を組む気もありませんよ。 もういいですか? くだらない話に費やす程暇じゃないんですが」
「そういう頑なな人を頷かせるのが俺の仕事でしてね、 はいそうですかと帰るほど俺は聞き分けが良くないんですよ」
「それは厄介な性格ですね」
「よく言われます... そうですね、 じゃあ、こうしましょうよ。 今日は交渉は諦めます。 その代わりと言ってはなんですが、 ちょっと個人的な話しを聞いてもらえませんか?」
「...個人的な依頼ですか? なら、 一応話しくらいは聞きますけど」
「依頼ではなく... 単なる誘いなんですけどね」

頭をぽりぽりとかきながら「誘い」だと尾田は言った。
歯切れのない言い方。外された視線。
なんだか、いつもと違った態度がとても怪しく見え、
頭に疑問符を浮かべ、なんなんだといった様子で不愉快そうに成司は眉を寄せる。
成司は怪訝そうに尾田を見ながら、思考を巡らせていた。依頼、ではないなら聞く必要もないが。このまま去るか、どうしようか。
そんな成司の考えを読み取ってか、言いずらそうにしていた尾田が、やっと言葉を口にした。

「いえ、 大した誘いではないのですが、 よければ、 今から何か食べにでも行きません?」
「は? いや、 なんで貴方と食事なんかしなきゃならないんですか..」
「この際、 交友を深めるのも一つの手かと思いまして。 あ、 もちろん代金はこちら持ちでいいですよ」
「.........ついでに話しを聞いてもらうという魂胆ですか」
「単なるお誘いですよ。 なんなら、 食べにじゃなく買い物なんかでもいいですよ? カラオケとかバッティングセンターで遊ぶのもありですね」

なんで、と言われても答えられない。
大した理由ではないし、こいつに伝える話でもないからわざわざ言う必要もない。
ただ、あの人が価値を見出した男に興味を持った。
こんなクソ生意気なガキのどこにあの人は惹かれたのか、それを知りたいと思った。ただ、それだけのことだ。
話しているだけでは分からないことも、こうしてどこかへ出掛けでもすれば、何か違った内面が覗けるかもしれない。
嘘で覆われたその素顔とやらも、少しでもいいから垣間見ることが出来れば。そう思ったから、そんな自分らしくないことを持ちかけたのだ。
なにを企んでいるんだ、と成司の目が言っている。当たり前だ、ただの地上げやが仲良くしたいというだけでわざわざターゲットを食事に誘うなどまずあり得ないことなのだから。
思惑を探るような目で、成司がこちらを睨みつけている。
こういう時は分かりやすい奴だなあと尾田は一人、内心でそう思っていた。

「どういうつもりだ、 って顔をしていますね」
「当たり前でしょう。 何がしたいのか皆目見当もつきません」
「さっき行ったじゃないですか。 俺は、 貴方と交友を深めたいだけですよ」
「馴れ合うのが好きなタイプには見えませんが」
「偏見ですよ。 俺、 こう見えても顔は結構広いんですよ」
「......そうですか、 では私の見たて違いでした.. と、 今はそういうことにしておきましょう」

別に、間違ったことは言っていない。関わり方はどうあれ、顔が広いのは、事実なのだから。
それを読み取ってか、関わるべきじゃないと察したのか、目を細めて彼は軽く受け流した。




好奇心、興味本位。あの人の考えを知りたいから、なんてのは実際はただの言い訳だ。
だが、まだ俺は知らなかった。こいつの本当の姿も、何も、

自分自身の、気持ちすらも。



「はあ... 分かりました。 もう何をいっても貴方は聞いてはくれないですよね。 付き合いますよ、 食事でもなんでも。 そのかわり...」
「...なんですか?」
「ちょっと私の用事にも付き合って下さいよ。 そうしたら、 そのあと買い物でも遊び場でも、 どこにでも付き合って差し上げます」
「用事って?」
「所謂、 浮気調査ってやつです」
「え、 あ、 あぁ.. そういう... いいですよ、 ちゃんと貴方が約束を守ってくれるなら俺も付き合いましょう。 で、 いったい今からどちらに?」
「浮気調査と言ったら、 もちろんあそこでしょう。 いやぁ、 実は相手役を探していたところなんですよね。 あそこって一人じゃ絶対入れてくれないんですよ、 取引とか潜入捜査恐れてるみたいで」
「.........一応お聞きしますけど、 それって、 もしかしてラブホテルってとこですか」
「他に何があります?」
「この俺に、 相手役をやれと?」
「セフレでも援交でも役は何だっていいですけどね、 ラブホ来て一人でヤる人なんていないでしょう。 困ったことに、 あそこ、 後から来るからっての通用しないんですよね。 一人なら帰れって追い返されましたよ、 まったく困ったものです」
「いや、 そもそもさ、 俺たち男同士なんすけど」
「男同士には偏見ないみたいなんで、 大丈夫ですよ。 たまにラブホ張ってると見ますし。 さして、 おかしなことでもないです」
「はあ... そうですか..」
「断るならそれでも構いませんけどね、 代わりの人材とっ捕まえて行きますから。 その代わり、 貴方の要望も白紙になりますけどね」
「ちょっと待ってください。 別に嫌とは言ってませんよ。 かなり、 引いてはいますが」
「なら、 交渉成立ですね」

行きましょうと急かし先を歩いていく成司。
これも買収のため、あの人のためだ。と言い聞かせながら、尾田は渋々青年の後をついて行く。
交渉成立ですね、と満面の笑みを向けて来た青年に、してやられたなと思った尾田なのであった。



内心、約束を取り付けられて嬉しかったことや、代わりの人をと言われて焦った意味も気づかぬままに。







「さあ、 入りましょうか純さん!」
「.........良くやるよな、 お前も..(ちょっと可愛いとか思ってしまった自分が憎い..)」





探偵君と尾田の日常を書きたくてかいたんですが、途中で飽きたものを無理やり続けた結果がホモです。

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