薄っぺらい言葉を /尾田
主:クール探偵
※ 死ネタ要素有



「今日は随分と静かですね」


いつもいつも見上げていた顔を見下ろしながら、彼はいつもと変わらない無表情な顔で、憎たらしい口を開いてそう言った。


「なぜここに、 って顔をしてますね」


力の入らない身体で、朦朧とする頭で、なんとか喋ろうとしていたら、なぜ、とその疑問を口にする前に、彼が先に欲していた言葉を口にしていた。
偶然ではないと、彼の口から告げられ、わざわざ俺の為に来たのだと知らされる。


「探偵ですから、 貴方の居場所くらい簡単に見つけられるんですよ」


しゃがみこんで、彼は答えになっていない応えを言った。なぜ、って、見つけたことに対してではなく理由についてだったのだが。
多分、それは彼も知っているのだろう。分かっていてわざと見当違いなことを返しているのだ。何せ、素直に言葉を返してくれたことなど今の今まで、一度もなかったのだから。


俺の顔を見下ろすように、まっすぐな瞳が向けられる。
冷たく、それでいて意思の籠った瞳が。



いや、でも、ちょっと待て。

おかしいな。
そもそも、俺は渋澤に撃たれて死んだはずではなかっただろうか。
最後に銃声も聞いた。確かに意識も飛んだ。ならば、なぜ彼がここにいて、今、俺としゃべっているのだろう?
辺りどころが悪くまだ死ねなかったのか、はたまたこれは死者が見る夢か何かなのか。
そもそもこんなところに彼がいるはずがない。ならばこれは、やはり俺の思いが生んだ幻か。


「分かってますよ。 聞きたいのは、 そういうのじゃないんですよね。 最後くらいって思いましたか? でも、 俺は、 どんなことがあっても、 自分の意思を曲げるつもりはありませんから」


生前な見た姿と何一つ変わらない彼から、いつも聞かされた言葉が吐き捨てられる。

たとえ目の前で誰が死のうと、
過程として、俺はそれを受け止めるだけ。
彼は俺の顔を見つめながら、そう言った。

「結果よければすべてよし」

それは彼の口からよく聞かされた言葉だった。
結果のためなら手段は選ばない。それで一人が不幸になろうとも、二人が幸せになればいいじゃないか。全ては結果を出すための過程にすぎないんだ。
彼は口癖のように「結果」と言う言葉をよく口にしていた。

過程には興味がないと言いながら。
過程は過程であり、全ては結果だと。

馬鹿げたことだと思っていたが、
ああ、なるほど。
ようは、今の俺も、彼にとっては単なる過程に過ぎないと言うことか。
俺にとっては、これが終着点だとしても。彼にとっては、それはただの通過点なのだ。

あれだけしつこくつきまとっていて、結末がこれでは、完全にただの咬ませ犬ではないか。

勝手に惚れた俺が悪いのか。
勝手に深く入り込んだ結果がこれなのか。

夢とはいえ、こうもはっきりと分からせられるのは。
というより、夢なのに、夢でさえもこんな言葉を聞かされるとは。

惚れたもん勝ちとはよく言ったものだ。
惚れた腫れたで仕事すら投げ出して、自分の気持ちに正直にもなれないまま突き進み、結果なにひとつ成果も残せず、こんな最後を迎えて、

結局、



「馬鹿、 だったのは...... 俺の方、 だったって... こと、 ですか..」

自傷気味に笑い、掠れた声で俺は呟いた。
見つめる彼の顔は依然として無表情のままだ。
関心がないのか、哀れんでいるのか。
俺の声は聞こえていたはずだが、いつもみたいに何か皮肉を返すわけでもなく、それどころか彼は何か発することもなく、俺を見つめたまま何も言わなくなった。

ただ、時間が過ぎていく。

時間が経つにつれて薄れていく意識。
目の前はすでに暗い。
もうそろそろ、ヤバイかもしれない。

夢なら、醒める。
死にそびれたのなら、今度こそ。

そう思って、瞳が閉じかけた瞬間、
ずっと黙り込んでいた彼の口からぼそりと独り言のような言葉が発された。


「結果が良ければ、 その過程なんてどうだっていいことだと思っていたんですけどね」


不意に口を開いたそんな彼の言葉に、俺は一瞬耳を疑った。


「なぜでしょうね。 こんなにも、 胸が苦しく感じるのは」


横たわっている俺を見つめながら、彼はそっと目を細める。

それは、哀れみとも悲しみとも取れるような表情で、
俺は、死に際に俺の想いが幻覚でも生み出したのだろうかと、ぼんやりとしてきた頭の中にそんな考えが浮かんだ。



「尾田さん」

しかし、次に発された彼の言葉に、そんなチンケな考えはすぐに吹き飛ばされた。


ねえ、と問いかけるように話しかけられた言葉に、続いて発された言葉。



「俺、 結構、 貴方のこと、 嫌いじゃありませんでしたよ」


あまりにも唐突で、馬鹿げた彼の発言に、つい、こんな状況だというのに、驚くよりも先にまず、俺は、笑ってしまった。

嫌いじゃない。
いつも嫌いとしか言わなかった人が、初めて伝えて来た反対ともとれる言葉。


ああ、やはり、これは夢なのか。

でも、もしこれが本当だったなら。



「......は、 はは... 最後の、 最後まで... あんたって人は...... 本当に..」


本当に、食えない人だ。

普通、こんな状況で、今、それを言うかよ。
今更、今になって、そんな期待を持たせるようなことを。
ほんと。わからない。

無表情のまま、発された言葉。でも、しっかりと、瞳だけはこちらに逸らすことなく向けられていた。
真剣な瞳が、それが冗談でもいつものようなただ発された心ない言葉でないことも分からせてくれる。
偽りではない、彼からの、心からの言葉。

「貴方みたいな人でも、 居なくなると、 寂しいものですね」

無表情だった彼の眉間に皺が寄っていく。
ああ、馬鹿な末路を辿ったことを哀れんでいるのか。
歪められていく顔を見て、そう思ったが、彼の瞳を見て、とても、虚しい気持ちになった。
こちらを見つめる細められた瞳。見下ろしていた彼の瞳は、微かにだが、揺らめいていた。

泣きそうな、顔。今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
いつもムカつくくらいに清々しい顔をしていた彼からは、想像もつかない。が、確かに彼のその瞳には、間違いなく、薄っすらとだが涙が溜まっていた。

あいつが、悲しんでくれている。
俺を見て、悲しげな顔を浮かべてくれている。

夢なのかもしれないけれど、もうそれでも構わない。

それは、彼の気持ちを事実として知るには十分過ぎる情報だった。
死ぬ間際になって、
最後の最後になって、
やっとそんな事実を知ることになるなんて、なんて報われない最後だろうか。
彼は素直じゃないのではなく、自分の気持ちに気づいていないゆえ素直になれない不器用な、鈍感な人間だったんだ。
もっと早く気づいていれば、なんて後悔したところで今更、遅い。
初めて見た違った顔が、まさか最後の表情(カオ)になるなんて、な。

「成司さん、 もっと、 こっち、 来て下さい..」


最後の力を振り絞って、彼の名を呼び、頬に手を寄せる。初めて触れた感触に、その嬉しさに、虚しさに、少しだげ泣きそうになった。素直に側に来てくれた彼は、俺の手を払いのけることもせず、じっと俺の顔を見つめている。ああ、なぜ最後になってこんなことを。いや、最後だからこそこんなことが出来ているのか。

「....なんですか」
「成司、 さん.........」

もう一度、彼の名前を呼ぶ。囁くような、掠れた声。
頬に触れていた手から段々と力が抜けていった。

これで、きっと最後だ。

ああ、もう終わりかと思う虚しいが、だったら、いっそ、
今まで散々、クソみたいな人生を歩んできたのだから、
だったら、いっそ、
悲しすぎるくらいに、最後も、クソみたいな終わり方で幕を閉じようか。

この、クソみたいな関係に。

夢ならそれで構わない。
いや、出来れば夢であってほしくはないけど、
それでも、最後に、これだけは言わせてくれ。



ゆっくりと、口が開き、

「アンタのこと、 本気で、 好き、 でした」

耳元で、途切れ途切れながらも、囁くように、言葉が紡ぎ出される。


夢であって欲しくない。
これが現実であったなら。

どんなに嬉しいことか。
そんな期待を込めて、俺はゆっくりと口を動かす。
声が出ていたかすら分からない。そもそも彼に届いているかすら分からない。
けれど。
今、俺にそれを知る術はないけれど。
それでも、伝わっていると願って。






──愛しています。






そんな、言葉を残して、尾田は、そっと目を閉じた。

意識が遠のき、身体から完全に力が抜けていく。


このまま死ぬくらいなら、せめて、最後に、少しでもアンタが俺を忘れられないように。縛り付ける言葉を。
なんて、結局、最後の最後まで俺は最低な奴だった。死んで当然、というやつか。
もう目を開ける気力もないから、彼の表情は分からない。
目を丸くしているのだろうか、それともあまりのクソさに呆れているのだろうか。
意識が薄れて行く中、そんな彼の顔を想像する。

「尾田、 さん..」

力なく横たわる尾田を、彼は抱えたまま見つめる。
かすれたような声で、彼が俺の名前を呼び、
そして、
最後に、囁くように呟かれた「愛してる」の言葉に、
彼はいつものような清々しい顔で、こう返した。


「.........ええ、 俺も」

好きでしたよ。

なんて、


「さようなら...... 尾田さん」

ただ縛り付けるだけの、そんな薄っぺらい言葉を。


「次会うことが出来たら、 今度はこんなクソみたいな関係じゃなく、 普通の関係になってみたいですね」



夢なんかじゃありませんよ。

本当に。
心から。

いつか、また会えることを、
私はいつまでも願っています。









ああ、君という人は、本当に。
(呆れるくらいに、)
(最低な人だ)


(人のことは、 言えないけれど)





「はは、 あーもう、 アンタには、 死んでも敵わないな..」
「死んでも忘れるな、 なんて、 ほんと、 そのしつこさだけは... 尊敬しますよ」



薄っぺらい愛の言葉を.
(夢の中の君へ)
(最後に貴方へ)






おまけと言うなの蛇足。

すでに冷たくなってしまった、血だらけの愛しい人。

彼に別れを告げ、立ち上がろうとした時、
後ろから聞こえてくる複数の足音に、俺は落ちていた銃を拾い上げて振り返った。

「勝手なことをしてもらっては困りますよ」

「ターゲットをちゃんと殺せてなかった貴方には言われたくありませんよ......... 渋澤さん」


向けられた複数の銃口を見て、自分の馬鹿さ加減に、俺は口角をあげて、フッと笑った。








まだ0進めてないしゲスい尾田の一片すら見れてないというのに死ぬというネタバレを見たら書かずにはいられなくなってましたな話しです(クリア後に書き直しました)
書いた時は死に方分からなかったのでおかしいとこあるかもしれませんが本編でんでんではなく死ネタということで大目に...見ていただけると!実は撃たれた後まだ死んでなかったみたいな感じで!((

最後の最後に両想いでした!って分からせて忘れさせねぇどころか一生引きずらせてやるよ!ああそうじゃあお前もな!(地獄で後悔してろ)っていうクソみたいな関係が似合いそうだなって思って書いたんですけどなんかよく分かんないっすね(おい

書かないと分からないかもしれないので補足としては、主人公くんは偽善者であることを自覚してる目的のためなら手段はいとわないぜな思考をもったゲス探偵って設定で書いてます。類友。
普通に渋澤とかも利用する為に関係を持ってたんだけど尾田の死に目に会いたかったが為に危険を犯してでも強引に会ったりしたら(近くにいた渋澤の部下ほとんど倒したりして)戻ってきた渋澤にお前もかとか言われて目をつけられちゃって敵に回してしまったというオチ。バカは成司の方でしたという尾田実はすごく愛されてたよエンド。
ちなみにメモの真主の主人公くんとは同一人物です。

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