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 敵わない君 /秋山
主:OTE夢主


「お前の連れは預かった。 返して欲しけりゃ一人で――近くのビルに来い」

急にかかってきた電話。
非通知であったその番号に出れば、まず第一声で、まずいものだということを俺は察した。
「誰だ」と聞き返しても、電話越しの相手は来ればわかるとしか答えない。
イタズラかとも思ったが、奥から汚い言葉に混じってうめき声が聞こえてきて、それが冗談ではないこともすぐに分かった。

誰かを誘拐したという文面の内容。
その誰かが分からず、俺は次に「連れ? 誰のことだ」と質問を投げかけた。
だが、もちろんその誘拐犯がこちらの話に耳を傾けてくるはずもなく。
電話越しのそいつは、ツレだとしか教えてはくれなかった。

まさか、花ちゃん?それともエリーゼのキャストの誰かか?と思考を巡らせる。だが、携帯の奥から聞こえてくるうめき声が女性のものとは思えず、嫌な予感が俺の脳裏を過った。

「早く来ねえと、 このガキがどうなっても知らねえぞ」

まさか、という俺の嫌な予感が、そこで、予感ではなく現実であったことを知らされる。
ガキ、と言われたその人物に、思い当たる節は一人しかいない。
俺に子供の知り合いはいない。だとしたら、ガキと呼ばれるような人は、
小柄で、子供と呼ばれるとすぐにキレる、

成司しか。

「待て! おい!!! 待っ!」

ゲスな笑い声が聞こえて来て、焦って電話越しの相手を制止した。が、もちろんそいつが話を聞くはずもなく、無慈悲にも笑い声を最後に残し、プツリと通話を切られてしまった。

焦りと、不安を、さらに募らせる。

なんで、あの人が。
なんで、あの人を。


彼の携帯に電話をかけたが、コール音は止むことはなく、出てくれという意思も虚しく、しまいには留守番電話の声が流れてきた。
くそ!と携帯を投げようとして、ぐっと思いとどめる。
彼が電話にでないことは良くあることだ。だが、今は状況が状況。
なんででないんだと不安を増幅させながら、携帯を握りしめ、勢い良く俺はスカイファイナンスの事務所を飛び出した。


誰が一体こんなことを。
いや、そんなものは、今はどうだっていい。
そんなことをするのは、俺に恨みを持っているような奴だということは聞かずとも分かることだ。誰かなんてことは重要じゃない。
そんなことより、今は彼を助けることだけを考えなければ。
冷静に、感情的になってしまってはいけない。今は一刻も早く、彼を!


駆け足で、全力で、走ってそのビルのある場所へと向かう。

お願いだから、無事でいてくれ。

そればかりを願って。




「成司さん!!!」



無事ですか、と声をあげる前に、まず、
中にあった、俺が想像していたよりも、その、なんていうか、凄い光景に、俺は目を見開き言葉を詰まらせてしまった。

「成司、 さん... これは、 その... さ、 さすが、 というか、 えっと...... ご、 無事でなによりです..」

中に広がっていた光景は、あまりにも悲惨なものだった。
そう、主に、完全に伸びてしまっている死屍累々とした相手さん達の姿で。

その中心に立っていた人物の姿を見て、はああ、と俺の身体から力が抜けた。
急いで助けに来たが、どうやら俺が出る幕もなかったらしい。
腰が抜けそうになるのを必死にとどめ、笑って彼に近づく。
無事で良かった。
そう声をかければ、彼がこちらに目を向けてきた。いつもと変わらない、強い意思を持ったもののまっすぐと相手を捉えた力強い瞳。

安心した。

それを見て、本当に良かったと息を漏らし、彼の肩にそっと手を置く。
すると、びくりと彼の身体が小さく跳ねた。
え?と思って彼を見つめたが、彼はすぐにいつものように俺の手を引っぺがし、やめろと悪態をついた為、気のせいかとその時は気にするのをやめた。

ごめんごめんと笑いながら強引に引っぺがされた手を引っ込めて謝れば、彼は眉を寄せてそっぽを向く。

ああ、いつもの彼だ。
若干顔に怪我を負っているものの成司は大した怪我もなくピンピンとしている。
ただ、着ていたはずのジャケットは地べたに無造作に脱ぎ捨てられており、しかもシャツはシワだらけで、前は肌けていて、ボタンも強引に引きちぎられたかのような跡が残っており、
無理やり脱がされかけたような形跡があったけど、
それでも、未遂のようだし無事であった事に俺は安堵の息を漏らした。
怪我のない身体に安心する一方、脱がされていた服を見て言いようのない不安に、内心ではかられていたけれど。それを俺は無理やり抑え込む。気にし出したら、本気で不安が爆発してしまいそうだから。

「へ、 変なこととか、 されてない... よね?.... すみません、 俺のせいで貴方まで巻き込んでしまって..」
「別に、 人間生きていれば恨まれもする。 油断していた俺も悪い... お前だけのせいってわけでもないだろう」
「で、 でも! ...怖い思い、 させちゃいましたよね..?」

すみません、と謝れば、成司は困ったような顔をこちらに向けてきた。
俺のせいで、俺がバカしたせいで、こんな目にあったのは事実なのだから、怒ってもいいのに。なんで、こうもこの人はお人好しなのだろう。

俺が、もっとしっかりしていれば。もっと早くこうなるかもしれないと気づいていれば。
俺は電話がかかって来るまで、こんなことになるなんてことも、なっているなんてことも、一切気づかずにいつも通りに過ごしていた。彼が怖い思いをしていたというのに、当の本人である俺は..

何をしていたんだ。

自分の愚かさに呆れながら、安堵を含めた息をはく。

ああ、
でも、


でも、

本当に、

何事もなくて良かった。


結果論でしかないけれど、でも、ほんとに。
何もなくて、良かった。

こんなことになってすみません。無事でなによりです。
今言えるのはそればっかりだ。




「怖かった、 ですよね..」

すみません。

自分の愚かさに、そして巻き込んでしまったことを。
もう一度しっかりと謝って、俺は、彼を衝動的に抱きしめた。

細く、ちょっと力を入れたら今にも壊れてしまいそうな体が、俺の腕の中に収まる。
力強く抱きしめれば、いつもなら返ってくるであろう悪態の言葉も、手足による抵抗もなく、その時だけは、ただされるままにおとなしく彼は俺の腕の中でじっとしていた。
彼を抱きしめていた腕にさらに力を込めれば、彼の小さな身体が、ほんの少しだけ、震えているのが分かった。
この場はなんとか彼自身の力でなんとか収まったけど、もしも相手がもっと強く、頭のいい相手だったら、そう思うと..
怪我はなかったが、上着も剥ぎ取られシャツも前があいていた。まだ未遂で済んだみたいだけど、何がされようとしていたかなんて、一目瞭然だ。
自分よりも一回り近く大きな男達に囲まれ、殴られて、服を剥ぎ取られて、  いくら成司でも、怖くないわけがない。
現に、彼は震えている。小さな身体を、俺の腕の中に預けて、こうして。
怖かったんだ、彼も。
不安と焦りで埋め尽くされていた脳に、安心して隙間が出来たことで、今更になって、こんなことをした奴らに対して怒りを感じた。
そして、何も気づけなかった自分に対しても。


「怖い思いさせちゃって、 本当、 すみません」



すみません。すみません。
と、腕の中の彼に何度も謝罪の言葉を送る。
何度も、何度も。
その間も、彼は身動き一つしなかった。

「すみません」
「秋山..」

何度もそう言われ、流石に痺れを切らしたのか、しつこいと感じたのか、少し時間が経ってから、
彼は「やめてくれ」と小さくそんな言葉を口にした。


「秋山...... 痛い..」
「えっ.. あ、 す、 すみません!! 俺、 つい..! 大丈夫ですか!? 潰れてませんよね!?」
「お前は、 私をなんだと思ってるんだ..」

バッ、と彼の両肩を掴んで自分の身体から彼を離す。
すみませんすみません!とまた違った意味で謝ればお前って奴はと成司に笑われてしまい、アハハと自分も苦笑いを含んだ笑みをこぼす。

どうやら、少しは、安心してくれたらしい。
いつもの調子を取り戻してきた成司は、秋山の態度にまったくと呆れたため息を漏らした。


「成司さん...... 落ち着きましたか?」
「ああ... もう、 いい。 大丈夫だ... そんなことより、 そろそろ、 ここを出よう。 気絶させただけだ... いつ、 起きてくるかも分からないし、 早く... 離れた方がいい」
「......そうですね。 一旦、 俺の事務所に行きましょう。 服も... それ、 買い替えた方が良さそう、 ですし..」

シャツの前を手で抑えながら、そわそわと左右を見ながら帰ろうと言い出した成司に頷く。
早く離れた方が、と言っていたが多分、早くこんなところを離れたいというのが本心だろう。まだ怯えが取れてないのか、ちょっと自分の腕を抱くようにしていてまた抱きしめたくなった気持ちを俺はぐっと抑え込み、
一旦スカイファイナンスへ、と提案すれば彼は素直に頷いた。
行き場所は決まったが、なんというか、とりあえず、まずはその服をなんとかしなくては。
前を手で閉じて立っていた成司だったが、こんな姿で外に出ては確実に警察に呼び止められてしまう。この俺が。これは完全に誘拐犯か何かにしか見えない。もし警察にお世話なったとして誤解がとけて解放されたとしても、後から谷村さんにからかわれるオチが目に見えている。それは面倒くさい。
ジャケットのほうはともかく、シャツのほうはボタンが所々よれたり取れたりしてしまっていて多分もう着れないだろう。シワも酷く良く見れば所々切れて穴が空いていた。

「あ、 ああ、 そうだな... って、 そうだ、 ジャケット..」
「あ! あそこに落ちてるのですよね! ちょっと、 待ってて下さい。 俺がとってきますから!」
「え、 ああ..」

抵抗、したんだろうなあ、と秋山は一人成司の姿を見てそう思い浮かべ、突っ伏して倒れている当事者達に苛立ちを募らせる。落ちていたジャケットを拾うついでにその途中に寝ていたそいつらの一人を腹いせついでに踏みつければカエルの潰れたような声が聞こえた。

「さ、 行きましょうか。 あ、 あとこれ、 俺の羽織ってって下さい。 そんな格好で外出るのは、 アレ、 ですし... ちょっと大きいとは思うけど..」
「いや、 別に、 私はそっちの自分のを..」
「え、 あ、 うん、 えっと、 これ... 汚れてるから、 多分洗わないと着れないと思いますけど..」

戻ってきて、自分の着ていた赤いジャケットを彼に渡す。
渡した途端、なに?といった顔をされたので着てと言えば、遠慮したように困った顔で拒否して自分のを着ると言い出してきたので、
なんか、そんな全力で嫌がらなくてもってくらい否定されて、俺はちょっと「えっ?」と間抜けな顔をしてしまった。
多分、彼は自分の服が汚れてて着れないって知らないから、渡すつもりで取り行ったんだと思ってて言っただけなんだろうけど。
そんな間抜けな顔をした俺に彼も困惑したらしく首を傾げて下から見上げてくる。
そんな彼に内心可愛いと思いながら、俺は自分の服を渡した経緯を話して、分かるように、ほら、と持ってきた服を広げて見せれば、踏まれた跡やら埃やらで酷くその服は汚れていて、
納得をしたらしい成司は、仕方ないといった様子で渋々俺のジャケットを受け取った。

なんで渋々なのかな。とも思ったが、
あからさまに大きい俺のジャケットを羽織った姿を見て、まるで子供がお父さんの服を着ているようなそんな見た目に一人俺は、そう見えるからかと納得し、自分で表現したお父さんという言葉に勝手にダメージを受けてうなだれた。


「後で、 俺が新しいの買って上げますよ。 帰るのに困るでしょうし。 あ、 もちろんクリーニング代も俺が持ちますからこれ、 俺が預かっときますね」
「いや...」
「それくらい、 させてくださいよ。 好きな人を危険にさらしたあげく何もなし、 じゃ落とし前つかないし... それじゃ、 俺の気が収まらないから。 だから、 ね?」

お願いしますよ、と言えば彼が断りきれないことは知っている。
成司は、俺の言葉に、少し間を置いてから、俯いて、小さく頷いた。

「.........勝手にしろ」
「フフ、 そういう素直じゃないところも、好きですよ」
「............うるさい、 バーカ」

「.........ほんと好きです..」

好きですよ、なんて笑いながら言ったら、彼は思いのほか可愛らしい反応を見せてくれて、
言った本人が恥ずかしがるのもアレなのだが、予想外な彼の態度に、ああもう、と真っ赤になった自分の顔を手で抑える。
普段クールなくせに、バーカって しかも顔真っ赤なのが後ろからも丸わかりなんですけど、なんなの、可愛すぎにもほどがあるでしょ..
やっぱり好きだなあ、とその時自分の感情を自覚した秋山なのであった。





おまけ

「成司さん、こんな色合いはどうですか! 成司さんって案外緑が似合う気がするんですけど」
「......普通のでいい」
「あ、 でも俺とお揃いで赤にするというのもなかなか... いやいっそ白も似合いそうですよね!」
「.........普通のでいいって」
「大人っぽく見えたいなら茶色も捨てがたいですよね.. あ、 でもちょっとダサいかな..」
「.........もう紫に金の線が入ったやつでいい」
「え!?」
「紫に金の...」
「いや! 成司さん、 それはちょっと..」
「じゃあ、 この白と金のボーダーのやつで」
「成司さん! そ、それはなんか不動産会社とかにいそうなんでやめましょう!! ほら、 こっちのグレーのが断然いいですよ! ちょっと普通な感じになっちゃいますけど!」
「あ、 ああ...... (........不動産会社..?)」



小さい夢主くんはオーダーメイドでスーツを作らないとサイズがないだろうからまずは色合いとかを椅子に座って表から選んでる秋主にこいつらどんな関係と笑ってるけど顔を引きつらせている店員さんがいる図。

エロ同人みたいな展開にはなりませんでした。それはそれでそういう展開もありだとは思いましたが文才ないんでこんな結果に......敬語で書きすぎてあきゃーまさんの素の喋り方が分からなくて最近困ってます。
センスなかったら笑えるなって思ったから桐生ちゃんと同じことさせたら結果グレーに落ち着いたという。メガネも買おう。

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