本音と、建前 /尾田
主:クール探偵
※ 制限はありませんが、最後の方だけちょっぴり背後注意。


「貴方には人の寝顔を見る趣味でもあるんですか」

パチリと開いた目が、至近距離にいる俺の顔を捉える。
彼が、また自分に俺が覆いかぶさっているのだと気づくのにそう時間はかからず、目を開けてすぐに彼の眉根にシワが寄った。
恥ずかしげもなく、むしろこっちが恥ずかしくなるくらいにまっすぐと向けられた瞳。
そして、不機嫌そうな声で話しかけられ、俺は、そんな彼を見下ろしながら、特に離れる様子も見せることなく内心では知らないが見た限り平然とした様子で彼からの問いに言葉を返した。
その返答に、彼はだろうなといった顔をする。

「目の前に無防備な姿晒して寝てる想い人が居て、 寝顔だけを見て満足する奴がいると思いますか」
「そうですね、 貴方の上司ならしてそうですけど」
「.........マジであり得そうなんでやめて下さい」
「まあ、 あの人は特殊ですもんね。 貴方と違って」

あの人といって思い浮かべた姿。
社長なら確かに寝顔見て微笑んでそうだとか考えながら、その片隅で俺は違うと分かっていて、なんで平然としてられるんだという期待を含んだ思考が浮かぶ。
抵抗をしないのは、嫌ではないからなのか、何か確信があるからなのか、そもそも俺になんの関心もないのか。
押し倒されているようなこの状況下でなんでそんな余裕綽々な顔をしていられるんだ、と俺は彼の読めない心に、若干腹立たしさすら感じていた。

「..それが分かってんなら... 抵抗とかしたらどうですか」
「抵抗... してほしいんですか?」
「また、 そうやって、 惑わさないで下さい。 アンタは遊びのつもりかもしれませんがね、 いつまでも俺は、 我慢、 してられやしませんよ」

彼の目を見つめながら、分かれよと内心口にする。
いつまでも、優しくしていられると思うなよ。
危機感を持てと遠回しに訴えれば、見つめる俺の顔を見つめながら、彼は緊迫した表情を浮かべ、そしてゆっくりと口を開いた。
溜まってんの?という雰囲気すらぶち壊したような、そんな言葉を発するために。

「.........尾田さん、 もしかして...... 溜まってるんですか?」
「.................テメェで発散すんぞ..」
「いたいけな少年になんてこと言うんですか」
「いたいけな少年はそんな下品な発言はしねぇよ」
「それも、 そうですね」

何がそうですね、だ。
何も思っていないくせに。
からかうだけからかって、その気にさせて、軽くあしらう。
そうやって、こいつはいつも俺の気持ちを弄ぶんだ。
どんな感情を抱いてここに来ているか、知っているくせに。
手を引いて、招き入れて、期待させておいて、最後の最後で突き放す。

そうですね、そう言って視線をずらした彼の顔を睨みつける。
どうせ手に入らないのなら、いっそ。
余裕げなその顔を歪ませてやりたい。
そんなクソみたいな思考すらもが頭を過った。

彼の身体に乗りかかり、ソファーベッドに手をついて、下にいる彼を見下ろす。
その体制のまま、何をするわけでもなく、まるで時が止まってしまったのではないかというくらいの沈黙が続いた。
チクタクという時計の針が動く音が、静寂の中で時間が進んでいるのだと教えてくれる。
いっそ。なんて、そんな考えが俺の頭の中ではぐるぐると渦巻いていた。

少し手を出せば触れる距離に、ちょっと顔を近づかせれば触れる距離に、彼がいる。

静寂の中で、時計の音と、自分の心臓の音だけが、異様なまでに煩く聞こえた。


どれだけの時間が経ったかも分からない。

気づいたら、俺は肘をベッドにつけ、彼の頬に手を伸ばしていた。
目を逸らしていた彼が不意にこちらに視線を戻し、再度、その瞳に俺を映す。
数秒間、彼に見つめられ、俺はいっそ、なんていう思考を止めた。
こんな状況だというのに、いつもと変わらない無表情な彼の顔。しっかりとこちらを捉えた瞳に、まるで蛇に睨まれたかのような恐怖さえ感じてしまう。
目が離せなかった。彼の瞳から、その顔から、吐息の零れる唇から。目が離せない。
息をするのにうっすらと開かれる唇。ゆっくりと開いたそんな彼の口に、自然と目がいった。
ゆっくり開いていった、そんな彼の口からぼそりと言葉が発される。
ドキリと、心臓が跳ねた。

今更すぎる、既に聞かずとも分かりきった愚問だ。



「そんなに私としたいですか」


今更何を聞いてくるんだ。

その問いかけに、肯定も否定もせず、俺は黙って彼に目を向けた。
面と向かって言われると、なんとも複雑な気持ちになる。
わざわざ聞くなよ。
言わなくてもわかるだろうという意味で黙りこめば、

「そうですか」

少し経ってから、という、そっけない言葉が彼の口から返ってきた。
したいからと言ってさせてくれるようなやつでないのは分かっていた、今更期待もしていない。
そもそも、だから、こうして無理やりでも、といった思考に陥っているのではないか。
結局いつも軽く遊ばれてしまうのだが。

ぶつくさと、脳内で不満をこぼしていれば、彼がまた小さく言葉を呟いて、俺はどうせとその言葉を対してよく聞きもせずに聞き流し、間を置いてから顔を彼に向けた。

「いいですよ」

はいはい、どうせ、どんなにアプローチだなんだをしたところで、いつもあしらわれて...
......今、なんて、言った?

「はい?」
いいですよという彼の言葉の意味が理解できず、真顔でこちらを見上げていた彼の顔を間抜けな顔で凝視してしまった。



「100万」


そんな、
間抜けな顔をしていた俺に、さらに投げかけられた言葉。
あまりの唐突さに間抜けな顔を戻すことさえ忘れたまま俺は彼の顔を見続けてしまった。

「......は ?」
「くれるのなら、 いいですよ。 してあげても」
「は.........」

してあげても、いいですよ。
なんでも、なんだって。
今、貴方の望むことを。
さっき、貴方が望んだことを。

「..本気、 ですか」
「ええ」

意味を理解しきれていない頭で、なんとか質問の言葉と声を絞り出す。
それってそういう意味ですよねとか野暮なことは聞かずとも、彼の顔がそれを物語っていた。
よく、仕事先で、金をちらつかせた時に交渉相手が見せる顔。
冗談なんかではない、欲を含んだ瞳。
こちらを見つめる真っ黒な瞳に問いかければ、返ってきたのは肯定の二文字で。

「本気に、 しますよ」
「いいですよ」

冗談かと問えば、否定の言葉が返ってきて、
いいのかと問えば、肯定の言葉とともに手を伸ばされた。
目元、頬、顎、首元と手が俺の体に触れて行き、首に腕が回される。
耳元に息がかかるくらいに、彼の顔が近づく。
そして、開かれた口から吐息とともに、彼が俺の名を囁く声が耳元を掠めた。

ゴクリ、と喉がなる。

こんなやり方でなんて間違っていると頭の中では思いながらも、期待してしまっている自分がそこにいるわけで。
息がかかるだけでおかしくなりそうな頭を、何かをしでかしてしまう前にと必死になって落ち着かせるために、押し退けるために、彼を引き剥がすべく肩に手を置いた。


「...............」
「一回100万で、 如何ですか...... オニイサン?」


ヤバイ匂いしかしない。
そんな言葉に、
頷いてしまった自分も、

相当ヤバイところまで堕ちたなって、
俺は今更になって、やっと気がついた。
いや、本当はずっと気づいていたが、見て見ぬ振りをしていただけだ。

引き剥がそうとして肩に触れていた手が、気づけばその肩を掴み、衝動的に彼を荒々しく押し倒していた。
ソファの軋む音がして、瞳と瞳がぶつかり合う。
互いの息を感じるくらいに近い顔。
見つめていた彼の瞳がほんの少しだけ熱を帯びているように見えた。


「......どうなっても知らねぇぞ」
「これ以上どうにもならないくらいに、 もうどうにかしてますよ。 私も、 貴方も」
「......それもそう、 だな」

妖艶な笑みを浮かべながら、
痛くはしないで下さいね。
そんな言葉を口にしようとした彼の唇に、俺は「もう、 どうとでもなれと」理性とプライドを捨てて、言わせないとばかりに、遮るようにその唇へと噛み付いた。


乱して、乱されて、

そうして、こうやって、

どんどんと、
底のないアナの中へと、
墜ちていく。

「愛しています」
貴方を。
「私もですよ」
金を。


欲望と言うなの、深い深い穴の中に。





言い訳と、理由.
こうでもしないと、気持ちをぶつけあえないから、また今日も金を理由に貴方に触れる。
素直じゃないだけなんです。
私も、そして、貴方も。







そして100万貰えてご満悦な様子の探偵君を見て完全に遊ばれたのだと気付いて後で後悔するクズ純さん。
むしろ、これからもいい金ズルになるというのもいいですね。
結果なんにせよ美味しい。

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