<1/1>

 恋の取引 /尾田
主:立華不動産に目をつけられた探偵
※時間軸0



「成司さん... 俺が何しに来たかってこと、 流石にもう分かってますよね」
「そのことに関してはお断りしたってことも、 ならアンタは分かってますよね?」
「一度や二度断られた程度じゃ俺は折れませんよ」
「流石地上げ屋、 といったところですか... 私、 しつこい男は嫌いなんですけどね」
「なら、 なんで貴方はそんなしつこい男を、 中に入れちゃうんですかね。 面倒なら追い返すのが普通だと思いますけど」
「どうしようと、 私の勝手でしょう? 気が乗らなかったら拒みます。 丁度、 貴方が来る日がいつも機嫌のいい日だった、 というだけの話ですよ」
「............まったく、 貴方も腹の底が読めない方だ」

 問いをかければいつもNOと返事を返すくせして、成司のいるとある事務所へと話があるとよって言えば、内容なんて分かり切っているだろうにいつもこうして、わざわざ部屋の中へと招き入れてくれる。
 分からない人だ。尾田は心底そう思っていた。
 結局聞く言葉も、会う理由も同じだというのに、どうせいつものように断り、結局追い出すはめになるのに、扉を開けて俺を中に入れるのは何故なのか。
 嫌なら居留守でもなんでも使えばいい。どうせ断るならさっさと追い返してしまえばいい。なのに、何故か成司は絶対にそうはしなかった。
 何かを、期待しているのか。何かを、待っているのか。俺がいつか折れると思っているのか。
 考えたところで、彼が何を考えているのかなんてことは、俺にはさっぱり分からなかった。


「アンタにだけは言われたくないですね」


 性懲りも無く、尾田は彼の居る事務所のチャイムを一度だけ鳴らしていた。
 ガチャリと扉が開いて中から出てきた成司は、やはり、尾田を事務所の中へと招き入れてくれたが、眉にはくっきりとシワが寄っている。
 ウンザリした顔でまた来たのかとため息までつかれてしまった。


「良い加減、 俺のところに来てくださいよ。 一人の人間に、 こんなにも頭下げて頼み込むなんて、 俺としては珍しい方なんですよ?」
「地上げ屋がよく言いますね。 だったら金でもなんでも、 条件を提示して、 見せびらかしてみたらどうですか」
「金をちらつかせたところで貴方は傾いてはくれないでしょう」

 本題に入れば、さらに呆れた顔で成司は言葉を返して来た。
 NOという、聞き飽きた返答。
 内容は、いつもと変わらず、君を立花不動産へ引き入れたいという身勝手なものだった。
 まあ、まずは、なんですかそれ、と聞いた側はなるわけで。
「貴方の噂はかねがね聞いていますよ。 とても凄腕の探偵だと」
 なんて、話し始めていたが、
 それは自分の下について欲しい。という尾田個人の勝手な願いを叶えたいがための講釈で、まあ最初は確かに社長からの命令で動いていたとはいえ、今となっては自分の意志で尾田はこの場に訪れるようになっていた。
 暇があれば足を運び、意味もなく顔を見に来る。きっと社長がそれを知ればやりすぎですよと呆れらながら言うかもしれない。
「立華不動産の噂なら私も聞いていますよ。 良いことから、 悪いことまで... 幅広く」
 しかし、いきなりの申し出にも、成司は最初から強気だった。
「すみませんが、 お断りします。 別に、 金には困ってないので」
 と、拒否された尾田はそれから毎日のように、成司の事務所を訪れるようになっていた。
 彼にとっては地上げでよくして来たこと、普通だったかもしれない。でも、これは地上げなんかではなくただのお願いだ。
 それをしに、しつこく毎日訪れるというのは、それははたからみれば異様にも見えたかもしれない。
 何故、尾田はそこまで成司に執着しているのか。そんなもの、人が固執する理由など一つくらいしか...
 どれだけ金を積んだところで、どれだけ言ったって、条件を叩きつけたって、成司は尾田の言葉に決して首を縦に振ったりはしなかった。
 こんなことを思ったのは、こんなにも何かに執着したのは、これで二回目だ。
 どうしても、欲しい。絶対に手に入れてやる。これはもはやもう、意地だった。




「何をすれば、 何を差し上げれば、 アンタは俺のもんになってくれるんですか」
「そうやってしつこく言ってきたりさえしなければ」
「じゃあ、 普通に誘えば... こっちに来てくれるってことですか」
「ええ、 行きますよ。 立華にでもなんでも 俺が欲しいというのなら」
「俺のモンにも...?」
「それは... 貴方、 次第ですかね」


 俺次第。そう言った成司の顔はいつもの無愛想な表情とは違い、憎たらしいくらいにとても艶やかで、全てを悟っているような妖艶な笑みを浮かべていた。
 不覚にも、そのカオから目が離せなくなってしまう。
 ああ、これは、本格的にヤバイかもしれない。尾田はふらつく頭の中でそう考えていた。

 この俺が、
 こんなにも、何かに心奪われる日が来るとは...しかも、まさかこんな子供に..
 こんなガキに相手に、惑わされるなんて。

 はは、あははは!
 ああ、もう、これは笑いが止まらないな。







「......本当に、 まったく食えないお方だ」
「あの人の方がよほど... いや、 そもそも、 私はアンタがそこまで、 私に固執する理由も分かりませんけどね」
「貴方の場合はついでに鈍感ときてるから、 さらにタチが悪いんですよね..」
「何か言いましたか」
「いえ、 ただ、 絶対にてにいれてやりますよ、 って意気込んだだけですよ」
「..................」
「俺、 自分で言うのもなんですが、 かなりしつこいんですよね。 欲しいもんは何が何でも手に入れたいタイプなんです。 なので... 覚悟、 決めといてくださいね?」

 グイ、といきなり顔を近づかせて来た尾田に、成司は驚きつつも身体をとっさに後ろへと引いた。無言だが、何してんだと言いたげな圧力を感じる。
 そんな成司に、尾田は怯むところかにっこりと笑みを浮かべながら、近づいて来て、成司の前髪に手を触れると、そこにそっと唇を落とした。
 それは、告白とも取れる大胆な行動だ。しかも、言葉と合間って..
 でもまあ、鈍感な成司にはこのくらい直球な方が分かりやすくて良いのかもしれない。
 その鈍感な彼は、まだ近くにあった尾田の顔を一的に見上げる形で見つめてポカーンとした表情を尾田に向けていた。
 尾田が上目遣い可愛いと成司を見ながら内心満足げにしていたことは尾田本人しか知らない。
 面倒なのに目をつけられた、と成司が思っていたことも、本人しか。




(鈍感なとこも、 まあ、 惚れた一つの魅力ではあるんだけど)
(思った以上に厄介な相手と関わってしまったのかもしれないな..)




惚れた弱みと、
(惚れられた弱みと)






0やったらハマりました。そしてまさかの尾田夢。
尾田さん良いキャラですよね、こにたんさんなのもとても滾ります。
こういう駆け引きな恋って書いてて新鮮だったので出来でんでんより書くのが楽しかったです。押せ押せな人にいつのまにか惚れてるっていうの、好きなんです。

一つ戻る
トップへ戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -