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 酔って、酔わされて /秋山
主:OTE夢主



「俺、 やっぱりあなたの事が好きだなぁ…」

酔った勢いで、不意に呟かれた言葉。
いつものふざけた態度の時と変わらない、ただの好意を示す言葉。
だから、私もいつもと同じ、答えないという応えを返す。
仕事帰りに秋山の事務所に誘われ、酒を飲むのはそう珍しいことではなく、これもいわゆる宅飲み中の出来事だ。

「お前…… 飲み過ぎだろ」
「あー、 好き…… 好きです…」
「もうお前飲むのやめろ。 誰と勘違いしてんのか知らないが私は男にそんな事言われる趣味はな…」

言葉すらまともにかわせないくらいに酔っ払った秋山に、呆れた言葉を返す。
耳元で、男から好きだと言われるこちらの身にもなってくれ。
距離の近い秋山から顔をそらしつつ、離れようとするが聞く耳を持たない酔っ払いは、隣に座る私の首元に顔を埋めるようにのしかかり「愛してます」と、あろうことか、そんな愛の言葉を囁いた。
男である、私に。
酔っ払いも、大概にしてくれ。
そんなこと、


「成司さん、 好きです、 愛してます」


そんなこと、
酔った勢いで、言われたくなどなかった。


「秋……」

この時、私はどんな顔をしていたのだろうか。
驚いた顔か、はたまたしかめた顔か、少なくとも呆れた顔ではなかったと思う。
自分の顔は自分では見れない。ただ、その時の私はひどく動揺はしていた。
なにが起こっているのかわからず、名前を呼ぼうとした瞬間、首元に顔を埋めた男が不意に腕を伸ばし、私の背にそれが回されそうになる。
肩に腕が触れた瞬間、私はハッとした。
そして、
このままではいけない、まずいと思った。

「……酔っ払いはさっさと寝ろ。 私の上じゃなくきちんとそっちでな」

私が今、それを聞いてどんな顔をしているかなんて、起きた時きっとお前は覚えてなどいないだろう。誰もわからない表情なんて、したうちには入らない。
今はただ、この状況がなにかではなくどうするかを考えて行動するんだ。
埋められていただらしなく耳まで赤く染まった顔を押しのけて、いつもと変わらない悪態を吐く。なるべく自然に、いつも通りに。
子供のように抱きついてきた酔っ払いに、げしっと蹴りを浴びせてみれば痛いと鈍いながらもちゃんと反応は返ってきた。その顔はなんともしまりがなく緩みきっていたが。
今度こそは、私は呆れた顔をしていたはずだ。いや、困り顔だったかもしれない。
ソファーになぎ倒し、その場から離れようとすれば腕を掴まれ、また愛の言葉を囁かれた。
やめろと、離せといっても酔っ払いは聞きもしない。
人の気も知らないで。
はあ、と私は大きくため息を吐いた。
そして、ためにためた息を吐いた後、一言私は口にする。

「………私もだよ」

これはだだの仕返しだ。酔っ払いにたいする酔っ払いの、お返し。ただの酔っ払いの戯言だ。
え?と、背に抱きつく酔っ払いの口から小さく漏れた声が聞こえた気がしたが、心臓の音の方が大きくて、うまくは聞き取れなかった。

愛というなの欲に溺れた、浮ついた熱に酔わされ、心酔しきった私の、ただの戯言。
熱を帯びて真っ赤になってしまったこの顔は酔いからなのか、はたまた。

一瞬、力の抜けた酔っ払いの腕を振り払い、私はそのまま事務所を後にした。うるさい心臓の音を聞きながら、熱を帯びた肌を冷やしに外に出て、階段を駆け下りたあと、顔を抑えてその場に座り込んだことは、私だけが知っていればいい。

この感情は、ただの高揚。顔が赤いのは酔っているからで、心臓がうるさいのは階段を駆け下りたから。
さっきのはただの酔っ払い同士の戯言だ。
そう、私にはそんな趣味はないしあいつにだって……


「ああ、 もう……」








「……ああ、 もう……… なにあれ反則…… あー…… ほんと好き……」

途中から、酔いが冷めていた秋山が、彼の呟きに動揺を隠せずにいたことや、彼がいなくなった後違う意味で顔を真っ赤にして、ほぼ同じタイミングで同じことを呟いていたことを彼らが知ることになるのはそう遠くない未来のことである。






両思いだけど素直になれない二人、みたいなのが書きたかったけど途中でただのBLみたいになった。


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