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 あいらぶゆー /谷村
主:署の先輩兼相棒/エリート


「突っ張って怪我するって、 先輩それでもエリート警察官ですか」

 血の出ている腕を見て、谷村は呆れた表情をした。
 今回ばかりは、そういう態度を取られても仕方がないかもしれない。
 追っかけていた窃盗犯が小さな女の子を人質にとり、ナイフをつきつけちらつかせてきた。
 取り逃がした私のミスで一般人を、しかもまだ幼き少女を巻き込んでしまった...そう思ったら、谷村の制止の声を聞きつつも、つい考えるよりも先に身体が先走ってしまったんだ。
 そして、焦った犯人は女の子に刃を向け、それを間一髪で助けた私が、次の標的にされたという話しで..
 谷村がそのあとすぐに犯人を取り押さえたが、私は不覚にも不名誉の傷を負ってしまった。
 幸い単なるかすり傷で済んだのだが、溢れんばかりに血が垂れていた傷口を見た時は青ざめたものだ。
 谷村も私が刺された瞬間顔は見ていなかったが焦っていたのかすごい声をあげて駆け寄ってきたっけ。
 あの時の谷村の声は普段の怠けたぐーたらの態度とはまるで別人のようで、なんというか勇ましくて男らしく...とてもかっこよかったと思った。

 現在目の前で私の腕の手当てをおこなっている人物、後輩で相棒である谷村に対し、私は申し訳なさそうに眉を下げ、素直に謝罪の言葉を口にする。
 怒ったような呆れたような声で、谷村ははあと一つ息をはいた。

「..悪い」
「そう思うんなら、 最初からやらないで下さい。 アンタが切られた時、 俺は心臓が止まるかと思ったんですからね」

 「すまん」と私はもう一度謝る。
 確かに、谷村にはとても悪いことをした。とても迷惑をかけてしまった。
 目の前で人が傷つくところなんて出来れば拝みたくはないだろう。
 頭を下げて、私が謝ると、谷村は裏腹に困ったような顔で私のことを見た。

「別に俺は、 頭を下げて欲しいわけじゃないんです。 ただ、 アンタを失うのが怖かったっていうか... ああ、 くそ、 なに言ってんだ俺... そうじゃなくって! そうじゃねえんだよ..!」
「た、 谷村..?」
「だから! 俺が言いたいのは...! 俺は...... もうアンタの苦しそうな顔は見たくないんすよ。 成司さん... もう二度と、 こんな事すんのはやめてくれ。 お願いですから、 絶対にもう無茶とかしないで下さい... お願いだ」
「谷村...あ、 ああ。 本当に、 悪かった。 身をもって分かったよ... そうだよな。 上司が、 知り合いが目の前で傷つくとこなんて普通はみたくはないよな。 すまなかった、 谷村」

 困った顔をしていた谷村は、頭を下げていた私の肩をやや強引に掴むと、怒ったように声を荒げ始めた。私はわけもわからず狼狽えた表情で谷村を見る。
 力強くはあるが、泣きそうにも見える相棒の顔。
(ああ、 こいつは私のことを心配してくれていたのか。)
 理解した瞬間、私はもう一度、違う意味で頭を下げて謝った。
 迷惑をかけた、ではなく、心配をかけてしまってすまなかったと。
 苦笑いながら謝る私に対して、谷村はまだ不服そうな、不満げな顔で私を見ていた。
 そうじゃない。なんでわかんないんだよ。
と谷村は再度小さな声で繰り返す。



「俺...... 先輩のことが、 好きなんですよ」

 前触れもなく、谷村がそう発したのは、
いきなりだった。
 え?と私は思わず聞き返してしまった。谷村はその問いに対して「俺はアンタが好きなんだよ」ともう一度言った。
 いや、だって、なぜ今の話しの流れでこれに繋がるんだ。というかそもそも好きってなんだ。
 それは上司として嫌いではないという意味でいいんだよな?そうなんだよな?と私は半ば言い聞かせるように考えを凝らした。
 その間も、谷村は私を睨むような凄むような勢いで穴が空くんじゃないかってくらい見ていた。
 多分、この時の私の表情は、かなり間抜けで情けなかったものだったんじゃないだろうかと思う。

「だから、 あんまり、 俺に心配かけさせないでくれませんか。 好きな相手が、 愛した人が目の前で死ぬとこなんて、 俺、 見たくないんで」

 そう言って、小さく谷村は笑う。
 今、なんか愛した人とか聞いちゃいけない言葉が聞こえたような...いや、上司として愛するほど尊敬してるとかそういう意味だ。きっとそう。異論は拒否する。認めない!だって私は男だ。谷村も男なんだ、だから..認めたくない。あり得ない。
 追いつかない思考に、俺はただ呆然とするばかりで、結局出た言葉も「...なんだよ、 それ」の一言だけだった。










 ああ、これからは忙しくなりそうだな。なぜだかそう思い、私は谷村の視線から目をそらしつつ、ため息混じりの息を吐く。
 谷村はそんな私の不安げになった顔を見ながら、なにやらとても楽しそうに笑っていた。

 危なっかしくて堪らないんで、俺の気持ちも知ったことだし、これからはもっと積極的にアンタの後ろついて行くつもりなんで、覚悟しといて下さいね、先輩?

 現実から逃げようとしていた最中、谷村からそう言われたような気がしたが、気のせいだということにしてほしい...っていうか、谷村!お前はどさくさに紛れて怪我してないところまで触ってないか?!やめろ!どこ触って、おい!おま、ちょ、待っ、そこはっ......


 ああ...どうやらこれは思うんじゃなくて確実にこれから忙しくなるみたいです。
 なんでこんなぐーたらのくせにたまにかっこいいとか思ってしまう変態野郎の相棒になっちゃったんだろう。と考えつつ、後輩の行き過ぎた愛情を、なぜか嫌だとは思えずにいる私がそこにいた。





I love you.
(その言葉は、いつも唐突に)





谷村×先輩警官って話がずっと書きたかったので満足。出来は関係なく満足です!←
出す気はなく甘い話しにするつもりだったんですが、なんかつい黒さが最後で出ちゃいました^ω^黒村大好きです(


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