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 お名前



どうやらこの男は、成司を子供だと思ったあげく、有り得ないことに恩人の彼が子供趣味なのかと思ったらしい。実にバカだな。
赤い服の男は間抜けな顔をしてこちらを見た。

「いや、あんな格好で言われたら驚くだろ..まあ、とりあえずなんだ。兄貴..助けてくれたっていう人はどこ行ったんだ?今いない..よな」
「包帯..ないからって言って買いに行った」
「あ、そういえばもうなかったかもな..でも、わざわざ兄貴が行かなくたって、言ってくれれば俺が来る途中に買ってき..」
「そもそも、お前が時間通りに来ていれば、俺が買いになんて行かなかったんだがな」
「あ、兄貴!?」

いつのまにか帰ってきていた兄貴と呼ばれた男は、赤い服の男の肩を背後からポンと邪魔だというように軽く叩いた。軽く悪意も感じる。少なからず遅刻した彼を良くは思っていないのだろう。
驚いた男は、慌てて態度を正すと、「すみません」と頭を下げてから数歩後ずさった。
成司は階段を登ってくる音で、気づいていたらしく、さも驚かずに目の前の男の反応に少しだけ小さく笑った。

「悪かったな、少し遅くなった。まだ痛むだろう、すぐに手当てをさせる」
「あ、いや..もう血も止まってるし、マシにはなった」
「そうか、だがまだ包帯は巻いておけ、せっかく買ってきたんだからな。おい、城戸、巻いてやれ」
「え、あ、はい!」

兄貴と呼ばれる男は、持っていた袋を城戸、と呼ばれた赤い服の男へと渡した。
中には袋いっぱいに包帯が入っている。
...さすがに一気に買いすぎだろう。

元気に返事をしてはいたものの、渋々という感じで城戸は成司の身体に包帯を巻きつけて、くれた。一応。

「よし、巻けた」
「.....痛かったんだが」
「慣れてねえんだから仕方ないだろう」
「......許さん..」

半ば強引に巻かれて少し痛かった。
殴ろうとしたけど抑え込んだのを褒めて貰いたい。

「もうすこしちゃんと巻けないのか、お前は。ほとんどほどけかけてるぞ」
「す、すんません」
「まあいい。ほら、風邪を引く前にシャツを着ろ」
「あ、ああ..はい」

渡された自分の、ではない少し大きめの黒いYシャツを言われた通りに羽織った。
やはり、少し..ぶかぶかで、腕は完全に引っ込んでしまっている。もはやコートのようだ。

「お前の着ていたシャツは血が目立っていて外を歩けそうになかったから俺のを渡したんだが...かなり、大きかったな。すまない、他のものを今から買ってこさせよう」
「俺..ひとっ走りしてきます!」
「ああ、頼んだぞ」

言わずとも分かる言い回し。
有無も言わされずに城戸は買い出しに出掛けていった。



「......行けといった半面、変な服を買って来なければいいがな」
「あー..趣味悪そうだもんな、あのチンピラ」
「城戸だ、さっき出て行った奴の名前は。その呼び方をすると、あいつは機嫌を損ねるから気をつけろ」
「あ、そう.........じゃあ、アンタの..」

「アンタの名前は?」
そう聞く前に、自分らしくない行動だと思い、途中で言うのを止めた。
ほんの、一瞬..ほんの、出来心で、なんとなく、彼の名前が知りたいと思った。
でも、人に興味を抱くなんて、そんなのは自分ではない。

「ん、どうした?」
「あ、いや..別に」
「..そうか」
「.........」
「.........」

沈黙。
この場所から、近い服屋だとしてもせいぜい急いでも往復30分以上はかかるはず。
まだ5分とも経っていない今、この沈黙は結構つらい。
別に、話をする事が好きというわけではないが、出てもいけない、居なければ行けないこの状況で、しかもこんな姿では、相手が男といえど、気まずくもなる。

沈黙は10分程度続いた。



「.........そういえば、お前、名前はなんだ?」
「え?」
「まだ聞いてなかっただろう、名前」
「......そう、だな」
「言いたくないなら無理には聞かないが」

そんな気まずい数分の沈黙の後、
先ほど自分から聞こうとした言葉によって、沈黙はやぶられた。
いきなりのことに、同様して驚きが顔に出る。
どうやら気になっていたのは彼も同じだったようだ。
しかし、名前..言ってしまったところで特に問題という問題はないが、知られたら知られたで面倒な事になるのは目に見えてる。
偽名にしたところでいずればれるだろうし、とりあえずあまり使わない名字の方で名乗っておけば良いだろう。

「............来間、だ」
「来間?聞いた事のない名前だな..」
「..そういうアンタはどうなんだ。まだ、名乗ってもらってない」
「ん?ああ、そうだな..すまない」

そういうのは、まず自分から名乗るものでは?
なんて言葉を交えながら、質問を返した。
聞いた事のない名前?わずかにそう言ったように聞こえたが、そこは聞かなかった事にしておこう。

「俺は新井、新井弘明だ。普通は、こうやって名前まで明かすのが常識だと思うがな」
「.........そこまでの義理はない」
「...それもそうか」

名字しか名乗らなかった事で、余計に怪しまれたらしい。
爽やかに笑みを浮かべながら、悪戯げに彼はこちらを見ている。完全に疑いの目だ。
変な意味はないと否定しておいたが、まだ晴れてはいないらしい。
まあ、服が、城戸が来るまでの辛抱だ..そうしたら、きっとそう運がない限り、また会うことはないだろうから。

こうなったら、バレる前にさっさと帰ってしまおう。
早く帰ってこいと願ながら、もう一度訪れた沈黙の時を過ごした。




四個目にしてやっと自己紹介。
しかしやはり、まだ東城会の人間なのは伏せておきます。バレかけてますけど。
邪魔者は無理矢理にでも即排除なう(新井夢なので

性格:クール→人付き合いの悪い青年になってきてる。

新井さんの口調が分からなくなった。(


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