<1/1>

 逃避行



抜け道に向かう為、秋山の後ろへと着いていく。
道端にいるゾンビを軽く蹴散らし、たまに秋山からの世間話のようなくだらない言葉に返答を返したりと、たわいない会話をしながら、道なりに進んでいった。
一人で居たときよりは、随分と気楽に移動ができたと思う。


「それにしても成司くん、 良く生きてこれたよね」
「どういう意味だ」
「だって君、 銃持ってないでしょ?」


また、唐突に秋山が話をはじめた。
彼は「丸腰なのに」と笑いながら言う。
その発言に皮肉が混じっている感じがして、成司は少し顔をしかめてから、
一言「まあな」と曖昧に言葉を返した。
それにしても、会ったばかりだというのに君付けとは、随分と馴れ馴れしい男だ。


「良かったら、 何か一つ貸してあげようか? あって困るものではないと思うし、 流石にずっと丸腰ってわけにはいかないでしょ」
「要らない。 銃は苦手だ」
「そうなの? ..でもまあ、こんな状況だし使わなくても持っとくぐらいは..」
「......死にたくないなら、 止めておけ」
「え?」
「聞こえなかったのなら、 気にするな」


聞こえていたからこそ、秋山は疑問を声にしたのだろうが、成司はあえて言い直さない。
変わりに、要らないということを主張するごとく右手を突き出し、少し眉をひそめた。
すると、秋山は今度は不安げな表情を浮かべる。


「そう..... そこまでいうなら無理強いはしないけど..本当にいいの?」
「しつこいな、 要らないといったら要らない」


行為を踏みにじるように、最大限の悪態をつく。

どうせ、銃なんて、私にとっては鉄パイプなどと同じ鈍器にしかなりえない。
撃てない銃など、必要のないものだ。貰う意味など何一つない。
こればっかりは馬鹿だと思われても構わない。たとえ誰がなんて言おうと、私は絶対に銃なんてモノを使う気はない。というか使えない。


「ねえ、 もしかして.. 成司くんって結構強かったりする?」
「なにがだ」
「だって要らないってさ、 コレがなくても、 問題ないって意味なんでしょ? だったら相当な武術か何かの実力者なのかなって」


続いて、秋山はまたもや唐突に話を始めた。
何のことか分からず、成司は首を横に傾ける。
すれば、秋山は「コレ」と言って持っていた銃を示して、にこりと笑ってこちらに向けた。
人に銃口を向けるなんてとんでもない奴だ。


「別に、 そういう意味で言った訳じゃないし」
「でも、 事実ここまで丸腰でも生きてるわけだしねえ」
「.....今までは運が良かっただけで、 普通に人並み程度だよ」


「私を何だと思っている」と、若干呆れた口調で言う。
そんな成司に、秋山は「本当に?」と疑いの表情を浮かべた。
実際、嘘は言っていない。人間以上の動きは出来ないし、波動のようなものも出ない。至って普通な人間の実力だ。
まあ、この街ならではの事実なのかもしれないが。


「ふーん、 そっか... じゃあ、 その人並みっていう実力を拝見させてもらおうかな」
「は? .........アンタな、 それ、 私一人に任せるつもりだというなら、 断らせてもらうぞ」
「そんな事はしないよ。 ちゃんと手助けはするって、 一応」


秋山が周りを指し示しながら、ニヤリと皮肉混じりに笑う。
なにごとかと、示した先を見れば、どこを見てもゾンビとゾンビ。
どうやら、いつのまにか囲まれていたようだ。
四方から出てたゾンビの群れを見つめながら、秋山は再度こちらにニコリと笑みを浮かべる。
その憎たらしい顔が不愉快に極まれていて、成司は今まで以上に顔をしかめた。


「ふざけんな..」
「はは、 頑張ってねぇ、 成司くん」


襲い掛かってくるゾンビの群れ、ざっと見て20は居るであろうそれに一人は銃を構え、一人は拳を構えた。
そんな光景に、
成司が悪態をつけば、秋山はふざけた態度を返す。
さらにイラッとするその言動に、殴りたい衝動にかられたが、近くに居たゾンビを蹴り飛ばす事で抑えこんだ。

吹っ飛んだゾンビは、周りを巻き込みながら、秋山の真横を通り過ぎていく。
ものすごいスピードで通り過ぎたソレに、秋山は少し焦ったように汗を垂らし、次々と倒れていくゾンビ達を上から見下ろした。
しかし成司は、そんな秋山なんて気にしない。次々とゾンビをなぎ倒しては秋山の方へとわざと投げたり蹴ったりして、先ほどの腹いせに楽しんでいた。





「さっきさ、 確実に俺を狙ってたよね、 君」
「何の事だか分からないな、 あたま大丈夫か?」


ほぼ5分程度で、20といたゾンビも今では全て地に伏せていた。
秋山は自分の足元に転がっている20近くのゾンビだったものを見ながら、少し切れ気味にため息をはく。
成司はそれを見て「ハッ」と満足げに鼻でわらった。


「......でも、 まあ、 本当に強いんだね、 驚いたよ」
「こんなの普通だろ」
「いやいや、 なんだか、 むしろゾンビの方が逃げていく勢いだったよね。 もっと自信をもっても良いと思うよ」
「それは言いすぎだ」
「そんなことないって。 成司くん、 本当に凄かったよ。 だって、 まだこんなにも小さ..」


「小さいのに」と秋山が言おうとした瞬間、彼の頬にはツーっと線のようになって赤い血が垂れた。
後ろを振り向けば、壁に突き刺さった鋭い鉄パイプ、目の前を見ればどす黒い空気を放っている成司の姿。
当の本人が唖然の表情をしたのは言うまでもない。


「先ほどから失礼な奴だとは思っていたが..」
「え、 ちょ、 な..」
「私は、 これでも29才だ」
「え......」


えええええええええええええええ!!!??


その時、秋山の驚きの声が、広く神室町内に響き渡ったという。





お人よし子供
(金貸しとヤクザ)



「うそ! マジで!?」
「ああ? 小さくて悪かったなあ、 おいクソ野郎」
「ごめんなさいすみません、 悪かったからそんな鉄パイプ振り上げたりするのだけは本当に止めて!(年あんまり変わんないとか有り得ないでしょ..!)」



君付けするのかが謎過ぎる。というか秋山ってショタにはどう対応するんだろう...いや、もうショタじゃないってばれたけどさ←

それにしても、こいつらはどこで道草くってるんだ。早く脱出しろ(y

(2012/8/8 再編集)



戻る
トップへ戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -