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 荒れ果てる



一歩歩けば、ゾンビ。
二歩下がれば、またゾンビ。


隔離されてしまった街、神室町。
何が起きているのかを知るものは居ても、こうなってしまった理由を知るものは、この中にはまだ、居ないだろう。


神室ヒルズの完成セレモニー、もとい、東城会による集会が、この先のビルで行われるはずであった。
しかし、今やこの神室町は悪夢の街と化していて、移動も脱出も困難な状況となっている。
私も、そのセレモニーに向かう予定で、街の中にいたのだが、こんな事になってしまうとは非常に想定外だった。

どこもかしくも壁に囲まれ、
訳の分からないゾンビに囲まれ、
隠れたまま、身動きがまったく取れない。


この、囲まれた状況を打破するすべを、残念ながら私は持ち合わせていない。
ゲームや映画といった想像の世界では、こういったゾンビの退治をするのには銃といった非常に高性能で危険なモノをしようするだろう。
そして、銃を持っていない一般人なんかは、基本ゾンビに太刀打ち出来ず無念な死をとげ、新たなゾンビとなって徘徊を始めるのだ。

今まさに、私は後者の状況に陥っている。
流石にまだ噛まれて徘徊なんてコトにはなっていないが、
銃はないし、武器となるのは先ほど拾った鉄パイプただ一つ。いわば素手の状態だ。
こんなもの、一人や二人ならともかく、ゾンビを多数相手にするのには何の役にもたたない。



成司は、 この住み慣れた、今は見慣れない景色になってしまっている街中を広く見渡し「どうしたものか」と、小さくため息混じりに舌打ちをした。





「あれ、 君..」


そんな時、いきなり背後から声をかけられ、成司は急な出来事に対処できず、驚きのあまりとっさに振り返ると、その人物を確認するよりも早く持っていた鉄パイプを振り上げてしまった。つい反応してしまっただけであって決してわざとではない。
シュッという鉄パイプを振り下ろす風の音と共に、目の前に居た人物は焦ったように「ちょっと」と声を荒げた。


「待った待った! 俺はゾンビじゃないって!! いきなり何すんの!」
「! ..なんだ、 人間か」


目の前の男の小綺麗な赤いスーツと二丁の拳銃が目に入り、正常な人間なのだと、ゾンビではないのだと分かった瞬間、とっさに振り下ろした鉄パイプを相手の顔スレスレの、ギリギリの位置で止めた。あと数秒遅れていたらどうなっていたか分からない。
降参のポーズのように、肩の位置まで両手をあげながら焦っていた目の前の男は、迫ってきていた鉄の棒が、顔のすぐ側で止まった事を確認すると、ビビりながらもホッと安心したような仕草をみせた。


「いや、 あの.. いきなり声かけちゃってごめんね。 こんなところにいるから本当に人間かどうか確かめたくって。 驚かせちゃったよね?」
「いや、 別に.. ただ、 こんな状況だからな」


「もう少し遅ければ殴っていたかもしれない」なんて言葉を付け足し、カラン、と鉄パイプを地面へと落とせば、目の前の男は「あはは」と乾ききった声で苦笑った。
本当に冗談ではない。自分でも恐ろしいくらいだ。
こんな状況とはいえ、人間を殺してしまうのはシャレにならない。


「君も、 ここに取り残されちゃったんだよね?」
「ああ、 行くとこ行くとこ、 壁に阻まれててどうしようかと思っていたところだ」
「なら、 丁度俺も出ようと思っていたところだし.. 驚かせちゃったお詫びとして、 良かったら抜け道を教えてあげようか?」
「アンタ、 道をしってるのか?」
「うん、 まあね」


ゾンビ達が周りをうろついているという危険な空間に、ずっと居続ける気はないし、一人で出口を見つけられる保証もない。ここは彼に付いていくのが得策だろう。
出会い方はどうあれ、これはこれで好都合だ。
断る理由もなかった為、肯定の言葉を返したら、彼は分かりやすいくらいの胡散臭い笑顔をこちらに向けてきた。


「そういえば... アンタ、 名前は?」
「え、 名前?」
「ああ、 ここであったのも何かの縁だ。 それに、 アンタが何者なのか、 少し気になる」


不意にそんな問いをかければ、男性は唖然の表情を浮かべた。話しの繋がりもなく、いきなりだったので驚いたのだろう。
男は「えっと..」と少し吃りはしたが、仕方ないという言葉を顔に書いた状態で自己紹介を始めた。深く入りこむ気はないのに、と思ってるのが言わずとも分かる。
自分らしくない問いだった事もあって、後から言わなければよかったと、少し後悔をした。


「...俺は秋山駿、 この近くのビルでスカイファイナンスって店をやってる、 しがない金貸しだよ。 でも普通、 そういうのって自分から名乗らない?」
「それも、 そうだな... 私は成司、 一応裏の社会で働いている名も知れぬ構成員だ」





一人生存者
(そんな出会いもアリじゃない?)




「は..? 裏社会? 構成員?」
「何か文句でもあるか」
「いや、 え.. (この子供何言ってんだ..?)」



まずは秋山にお目見え。話し的には中盤(秋山編)くらいでの対面。

子供のくせに生意気だな、とか秋山は思っていたりする。秋山は子供に偏見抱いてるんだろうから、主人公だけに思う事じゃないだろうけどね!←

一応、まだ東城会の人間って事は秘密で進めてみる。秋山さんは、まだ変な目で主人公くんを見ています^ω^(ぇ

(2012/8/5 編集)




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