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 単なる



「なんだって、 こんなところにガキが居んだ?」


外に出た直後、成司は見知らぬ声に呼び止められ、反射的にパッと後ろへと振り返った。
ガキ、と言われたのが気に食わなかったせいか、心なしいつもより表情が険しい。


「いきなりガキ呼ばわりとは、 失礼な奴だな」
「そりゃ、 悪かったな。 坊主ってのほうが良かったか?」
「私は成人者だ、 という意味で言ったんだが?」


話しかけてきたのは、いかにも裏の人間というような派手なシャツを着ている男性。見たことはない顔なので、きっと東城会の人間ではないのだろう。もしくは、私と同じ下っ端の存在か。
とりあえず、初対面の相手だ。


「お前成人してんのか? ...冗談だろ?」
「どいつもこいつも、 失礼だな。 今ジョークを言えるほど.. 余裕はない」


初対面時の相変わらずの絡み。さすがに、何度もやっていると怒りを通りこして呆れてくる。
相手の男性は、秋山の時と同様、声を出して大袈裟なくらいに驚いていた。


「悪い悪い、 どうみても高校生にしか見えなかったからよ」
「その言葉から軽い悪意を感じるんだが」
「まあ、 そう殺気立つなよ。 アンタ、 ここから抜け出したいんじゃねぇか? だったら、代わりと言っちゃあなんだが、抜け道を案内してやるからよ」
「何がだったら、なんだ... 確かに、こんな場所、さっさと抜け出したいのやまやまだが..」


彼の発言に苛立ちながら、成司は呆れた様子でため息をはく。
連れて行ってやるよ、という話しは、確かに魅力的だ。たとえ口の悪いいけすかない男とはいえ、銃を持った奴が一人居るだけでかなり状況は変わるだろう。
しかし、と男提案に、成司は考える。
私はすでに、感染しているかもしれない身だ。隔離エリアから出れば食い殺される心配はなくなる..でも、こんな身体で逃げたとして、自衛隊の奴らが黙っているとは思えない。感染者として捕らえられるか、最悪の場合撃ち殺されるだろう。
それに、私の目的は逃げることではない。生き延びたいという気持ちはあるが、今の私の目的は別れた二人を追いかけることにある。
必ず追いつくと約束し、地下へと逃げていったあの二人に。


「提案はありがたいが、 まだ私だけ逃げるってわけにはいかないんだ。 追いつかないといけない人達がいる.. アンタ、道には詳しいのか?なら、地下へと繋がる道に案内してくれないか」
「地下?」
「ああ、 別れた知り合いが、 地下に行ったんだ。 多分、児童公園の方に繋がる地下道を通って行ったと思うんだが..」
「児童公園っつったら神室町ヒルズ当たりから伸びてる道か... 俺もまだ地下は見にいってないが、確かこの辺りからそこに繋がってる道はねぇぜ。 それなら、 一度外壁から出て七福通りあたりから入り直した方が早いな」
「そう、か.. なら、 結局出口に向かうことになるんだな..」
「そういうこったな」


抜け道に案内する、ってことでいいか?と問われ、成司はまた少し考えてから「連れていけ」とぶっきらぼうに答えた。
なるべく外へはでたくなかったが、食い殺されるくらいなら..
それに、手負いの状態でわがままを言って強がっていられるほど私もバカではない。
私の返答に「態度わるいな」と呟いて先を歩いていく男に仕方なく私はついていくことにした。


「そういや、 あんた名前は? 俺は長濱、 見ての通り極道モンだ」
「..成司、 同業者だ」
「同業者? つーか成司って.. もしかして、 あの六代目の?」
「.....目掛け、 という言いたいのなら、 そうだろうな」
「ああ、 じゃああんたがあの.. まさか、 こんなところでこんな有名人に会えるとはね!」


歩いている最中に急に話しかけられ、はっきり言って疲れていた私は若干嫌そうにしながら男の問いに答えた。
同業者だと言えば、長濱と名乗った男は私の顔を覗きこんでもしかして?と口にする。
私は男の言葉にさらに嫌そうに眉根を寄せて、面倒くさいと思いつつそうだと言って頷いてみせた。
そんな私の答えに、ヘヘ、と長濱は嬉しそうに笑う。
何が有名人なもんか。ただの捌け口にされているだけだ。
下も上も関係なく、どうやら今では全体的に成司という名が有名になってしまっているらしい。不愉快な事この上ない。
長濱とは打って変わって、成司はあからさまに不機嫌そうな顔をした。





















「着いたぜ。 ここが出口だ」
「ああ... 助かった、 と一応礼は言っておく」
「七福通りまでの道は分かるよな? あとはそこから児童公園へ行って.. 地下へ入りゃいいからよ」
「......分かった。 アンタはこれからどうするんだ?」
「あー、 ちょっと休んだら、 ミレニアムタワーあたりの地下の方を見にいってみようと思ってる。 お前みたいにまだ生存者がいるかもしれねぇからな」
「......そうか。 まあ、 頑張れよ」


確か、児童公園は七福通りを右手に突き当たりまで進んだ先にあったな。
長濱が銃を持っていた事もあって、ゾンビの相手に少しばかりは手こずりったが、そんなに行くのに時間はかからなかった。
むしろ世間話をしていた事で時間がかかったと言っても過言ではない。とはいえ、ほとんど長濱が勝手に喋ったり質問をしたりしていただけだが。


「おい、 ちょっと待ちな」
「出口にも着いた、 もう用はないだろ」


礼だけ言って出ようと出口に近づいたが、その瞬間背後から制止の声をかけられ、歩みを止める。
なんだ、と振り返れば長濱はいきなり何かをこちらに投げつけて来た。


「これ、 持ってけよ。 あんた怪我してんだろ」
「...!」


投げつけられたモノを慌てて、ギリギリでキャッチする。受け取ったものは包帯と栄養ドリンクの二つだった。
ワザワザ言うこともないと隠していたのだが、どうやら気づかれていたらしい。
いきなりの事で少しだけ驚いてしまった。


「ちっとは助けになんだろ。 つってもまあ、 ゾンビにつけられた傷だってんなら、 もう手遅れかもしれねぇがな。 あんたほどの人間とはいえ」
「........ああ」


気に入らない言葉もあったが、成司は「ありがとう」という意味を込めて、後ろの彼へと軽く手を振る。

少し距離が離れたあと、後ろから 頑張れよ という声が聞こえて来たが、体力的に返事をする事は出来なかったため、もう一度先程と同じようゆ軽く手だけを振り、成司はその場を後にした。










ほんの遊び
(この出会いは、きっと偶然)



「あれが今話題の成司か.. 噂通り生意気なガキだぜ(でも、ゾンビすんには惜しい逸材だ.. 六代目が気に入んのも分かるかもな)」
「この街には失礼なやつしかいないのか..まったく(しかし、 嫌なヤツではなかった.. な)」



長濱は組みしてるとこ的に主人公を知ってるだけであって、さすがの六代目の目掛けでも関係ない組の下っ端にまでは知られてませんよ。一種の自意識過剰だぜ←
それにしても何気に秋山時のデジャヴュが発動してる感が否めませんね、というかこれ出会った意味が見いだせない(´・ω・`)
一応この後桐生と会う場所に行くてきなことをほのめかしておきましたけど、道があってるかは分からないで書いたのでミレニアムタワー〜のあたりは存外雑です。


次こそは龍司です。ええ、本当に


(2015/12/15 編集)



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