OTE主で5夢



「お前は、 四課の..」
「ちゃう、 あいつは刑事なんかやない ... あいつは、 俺の... 親父や..」
「な、 まさか...」
「そう、 彼こそがこの事件の黒幕...... 近江連合七代目会長、 黒澤翼です」

驚きを隠せない顔で、桐生と冴島、そして渡瀬は反対側のビルに現れた人物、黒澤翼に目を向けた。
驚く彼らを他所に、こちら銃を構えた状態で、黒澤は立っている。
そして、桐生達は黒澤の後ろから静かに現れた人物に、さらに目を見開いた。

「なんで、 お前がここにいるんや..」
「.........成、 司..」

黒澤の隣に現れた人物に、桐生と冴島が困惑の声を口にする。
いつもの見慣れたグレーのスーツに身を包んだ、小柄で、それでいて年には見合わない幼げな顔をした男。
成司、と桐生の口からその人物の名が漏れる。
困惑した表情をこちらに向ける桐生達に対して、成司は何も反応を示さず、口すらも開かず、ただ黒澤の隣に立っていた。

「こいつはこちら側の協力者だ。 てめぇらの居場所や行動、 今まで沢山の情報を与えてくれたぜ」
「どういうことや... 成司」
「............」
「どういうことなんだ... おい! 答えろ! 成司!!」
「んなこと答える意味なんざねえよ。 どの道てめぇらは全員ここで死ぬんだ。 こいつはてめぇらを売った。 それだけ分かってりゃ十分だろ」

一発、二発と放たれた弾丸は桐生達の後ろにいた勝矢と渡瀬の足にそれぞれ命中した。
チッ、と黒澤は予想していた的よりもはるかに逸れた弾に舌打ちをする。
そんな光景を見ても、成司は何の反応もしなかった。
なんで、彼が。 あの彼が、なぜ。
考えれても、分からない。
何か事情があるのかもしれない。脅されて、仕方なく付き合わされているのかもしれない。
言い訳ばかりが、キリがないくらいに浮かぶ。

「勝っちゃん!!! しっかりせぇ! なんで... なんで庇ったんや!!?」

勝矢が撃たれ、渡瀬が叫び、 力なく倒れた勝矢を黒澤は嘲笑った。
腸が煮えくり返りそうなそんな光景に、冴島は唇を噛み、桐生は拳を握りしめる。
泣き叫ぶ渡瀬と、黒澤を睨みつける二人。

それでも、そんな光景を見ても、
成司は依然として何も言わずにそれをただ見届けていた。隣の人物を止めるわけでもなく、何をするわけもなく。ただ、ただ。


「後弾は一発残ってる」

死にたい奴は手を上げろ。そいつから殺してやる。

黒澤は銃を構えながらそう言って笑った。
絶対に許さねぇ。そこにいる誰もがそう思ったはずだ。

「でしたら、 俺が死んでさしあげますよ」


そこに、現れた三人目の人物。

「お久しぶりですね、 黒澤会長」
「堂島.. 大吾... なんで、 ここに..」

それは、行方をくらませていたはずの大吾だった。
銃を持った大吾が、黒澤に歩み寄り、そばにいた成司を一見する。
しかし、大吾は驚いた素振りは見せなかった。
それどころか、さも気にも止めずに再度大吾は黒澤に向き直り、話を進めていく。








あの彼がこんなやつに加担するはずがない。
きっと何か事情があるんだ。脅されているのかもしれない。

でなければ、というそんな言葉も、
大吾が撃たれた瞬間、全て叶わぬ思いとなった。



倒れた大吾を、見下ろす成司。
早く助けなければ、大吾命が危ない。そんなことは彼もわかっているはずだ。
なのに、彼はあろうことかそんな大吾の身体を跨ぎ、苦しむ大吾を放置して黒澤達の元へと歩いて行ってしまう。

大吾を見捨てたのだ。
あの、優しい彼が、親である大吾を。

「おい、 まてよ..」

「どこに行くつもりだ! 黒澤ァ!! ...成司ィ!!」

助けるわけでもなく、大吾の上を通り過ぎると彼はそのまま黒澤達の後を追って姿を消した。

「どうせ、 結果は変わりませんよ」

そんな、非情な言葉を、最後に残して。

なぜ、なぜあいつが黒澤なんかと。
なぜ、なんであいつが大吾を。

俺のせいで奪われていく命。変わってしまう人たち。狂ってしまった世界。
なんで、俺が関わるといつもこうなってしまうんだ。
あの優しかった成司までもが、こんな..


「成司、 何故だ... おい! 成司! 成司ィ!!」
「桐生! 落ち着けや! 桐生!!」

勢い余って今にも身を乗り出してしまいそうな桐生を冴島が押さえつける。

この感情が怒りなのか焦りなのか、不安なのかももう分からなくなって、一気に頭の中が真っ白になった。








階段を降りてる最中にもまだ聞こえてくる彼の名を叫ぶ桐生の声。
苦しそうな彼の叫び声に、あーあ、と俺は気だるい声を漏らした。
堅苦しく結ばれたネクタイを軽く解き、前を歩く二人分の足音を追うのもやめて、階段の手すりに寄りかかる。

「イヤだなあ、 ああいう顔されちゃうのは」

先ほどの桐生の表情を思い出して、やりずらいなあ、と愚痴を零す。
慣れてしまったはずだけど、やはり罪悪感は拭えないもので。
結局俺はいっつも嫌われ役だ。自ら選んでいるのだから不満を垂らすのもおかしな話しだが、でもさ、あんなの見せられたらさ、やっぱり君と俺は違うんだなってイヤでも思い知らされてしまう。
たかが裏切ったなんだという程度で、あんなにも悲しい顔をされてしまうとは思わなかった。

あーあ、なんていうか、本当に、

「お前は、 愛されてるんだなあ...... なんか、 ちょっと..」

そういう、お前の人を惹き寄せてしまう、そんな性質が。

俺は、羨ましいよ






「てか、 こんなことしたって後でバレたら確実に殺されるよなあ..」

はは、とその時を考えて俺は笑う。
自分の名を使われたあげく、大事な六代目を危険に晒したのだ、ただじゃ済まないだろうな。

「流石に死んだら、 もっとマズイよなあ..」

別にあの人を殺す必要まではなかったわけだし。というか、むしろ本当なら黒澤を殺してもらうつもりだったのだが、なんていうか流石あいつの上司だよなっていうか、甘々で...
彼が死んだら、俺は殺されるだけでは済まないかもしれない。
痛いのはイヤだなあ。

ならば、しょうがない。

俺はため息を尽きながら、面倒くさそうに携帯を取り出し、とある3桁の番号に電話をかけた。

2015/10/17 21:57



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