あるべき場所に戻る


「私のこと嫌いになった?」
「ううん」
「ごめんね、ごめんね」
「何で謝る?」
「だって、」

私はあなたに手をあげるところだった、と私の唇は音を発することなく塞がれた。赤司の優しさが唇から伝わってきた。止まったはずの涙が、再び流れ落ちた。

「まだ好きでいてくれる?」
「うん」
「…本当に?」
「うん」

ああ、私はこの人だから。

「そういうまなはどうなんだ?」

赤司が私の首に顔をうずめてきた。南十字にやらされたとはいえ、あんなことをしでかした俺を、まなはどう思うの?と。少しだけ、ほんの少しだけ、不安の色を感じた。

「大好き」
「そう」

赤司らしく、短く返される。安心感に包まれた。良かったなんてもんじゃない、私はこの人がいなければきっと何もできない。つらかった日々を支えてくれたのは赤司だった。私は赤司がいたからここまで来れた。

私の思いが伝わりますように。強く抱きしめる。

それからは二人とも無言になった。私は赤司の心臓の音を聞いていた。どくん、どくん…。規則正しくて心地よい。赤司が口を開いた。

「まなはお嫁に行けないとか言ってたけど」

うん。

「俺がもらってあげれば何の問題もないよね」

どくん、どくん…。

赤司のリズムが乱れて少しだけ速くなったように思う。ううん。違う。これは私の心臓の音だ。どくんどくんどくん…。やっぱり、どっちの音かなんてわからない。

あなたは私なんかでいいと言うのですか。

「赤司、」

私は向き直った。赤司の手を取った。

あなたは未来のだんな様だから。

「どうぞ、揉んでください」

「まな、」と溜め息をつかれた。




「別に俺は揉みたいわけじゃないんだよ。……でも、失礼します」

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