「サル顔の王子様なんて御免なんだけど」
私の一言に目の前の男、ルパンはひとつため息を吐いた。よくよく見ると、彼の一張羅は薄汚れていて、頬につけられた掠り傷からはじんわりと出血している。ああ、私のために、こんなこと。
「もうちっと俺を労ったりとかさあ?そういうのないのー?なまえちゃんよぅ」
ルパンは私の側に膝をついて、手首にぎゅっと巻き付いているロープをほどきはじめた。その顔は大袈裟な程、悲しそう。
「ありがと」
「ここまで来んの、苦労したんだぜぇ?」
「冗談だって」
「どうだか」
「あれ?次元は?」
「いま下で交戦中ー」
道理でさっきから銃声が絶えない。私をかっ拐った連中とやりあっているという、次元の身を少しだけ案じた。するとルパンは口を尖らせる。…まあ、やつは大丈夫だろう。
「ケガねえか?」
「んー、ないない」
「お前も大変ねぇ」
「私なんか拐ったって、何の得にもならないのにね」
「探すほうの身にもなってほしいっての」
私の腰に手を回して、慣れた様子で立ち上がらせると、ルパンは私の前髪を避けて額にその唇を寄せた。
「まあ、盗られたもんは盗り返す。これが俺のポリシーよ」
「はいはい。大泥棒さん、次は何を盗むの?」
私の質問にルパンはにやりと口角を上げる。そうそう、この顔。この顔が、堪らなく好きなのだ。
「…貴女の心です」
何処かで聞いた台詞だなあとか考えていたら、抱き締められて、挙げ句キスまでされた。
「もうとっくの昔に盗んだ癖に」
「んー、何?聞こえねえ。もっかい」
「なんでもなーい。それよりルパン、もう1回キスして」
「あらあらあら?珍しい!どったの!?」
※後れ馳せながら、ルパン新台記念。
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