白衣。それは男なら誰でも欲そそられるものだと思う。少なくとも俺はそうだ。白衣だけじゃなく、フラスコやら試験管やらに優しく触れる細い指だとか、華奢な体だとか、邪魔になるからとまとめ上げられた深いブラウンの髪だとか、チラチラ見えるうなじだとか、授業中だけかけている黒ブチ眼鏡だとか、薬品臭い理科室にいるくせにいい匂いがするとこだとか。もう、彼女のすべてが俺を惑わす。

「……ヤりてえ…」
「せんせーそうゆう事は口に出さないでくださーい」
「うるせえよテスト中に喋んな糞ガキ」
「てめえが言うな糞教師」

やべえ、口に出てたか。重症らしい。だが、今のは俺のせいじゃない。Z組の前の廊下を、おそらく職員室に行くのであろうなまえ先生が通過したせいだ。知らず知らずのうちに目で追ってんのも、いやらしいこと考えてんのも、全部なまえ先生のせい。ど真ん中ストレートで俺もうメロメロ。今すぐ押し倒して白い首に跡つけて唇に噛み付いて、もうぐっちゃぐちゃになるまで抱いてやりたい。泣かせたい。あのポーカーフェイスがどう歪むのか、見たい。どんな声を出すんだろうか。てゆうか、そもそもなまえ先生は処女なのか?いやそれはねえか。モテそうだし。でもまだ若えしなあ。

「………できれば処女がいい」
「せんせーい!処女って何アルか!」
「まだ誰にも突っ込まれてねえ女だよ」
「やめてェェ!神楽ちゃんが汚れる!」
「新八は突っ込みまくりネ」
「そうだけどこの流れでそうゆう事言うのやめてくれる!」
「馬鹿オメー新八は童貞だろ」
「童貞って何アルか!」
「もういいっつーの。教育に悪ィだろうが糞教師」
「うるせーよ性教育だろうがヤリチン(多串)」
「誰がヤリチンだァァァ!何だ(多串)ってむかつくな!」
「まあまあヤリチンさん」
「総悟ォォォ!」

割とウブなガキどもと馬鹿なやりとりをしていると、チャイムが鳴った。解答用紙を適当に集めてから教室を出たら、職員室に向かう途中の廊下で、ばったりなまえ先生と鉢合わせした。俺ってばラッキー。

「あ、坂田先生」
「おー」
「現国、テストどんな感じです?」
「ああ、まだ見てねえな」
「ちょっと見せてください」
「ん」

解答用紙を手渡すと、パラパラと捲って目を通すなまえ先生。俯き加減の睫毛は長く、頬に影が落ちていた。あまりに綺麗なその顔をぼーっと眺めていると、なまえ先生が解答用紙をばさりと揺らした。俺は我にかえって解答用紙を受け取る。

「前のテストより空欄は減りましたね」
「そうか。いつも悪ィな」
「坂田先生」

俺より小さいなまえ先生は、俺の顔を覗き込むように見つめた。思わずムラッと、間違えたドキッとする。いや、やっぱ間違いでもない。

「なに?」
「今日は元気ないんですね。どうかしたんですか?」
「え、俺、元気ない?」
「はい」
「……」
「風邪でもひきました?」
「いや、」




おそらく恋の病です。




「ふ、なんですかそれ」
「なまえ先生にしか治せねえの。だからちゅーして?もしくは注射させて」
「しばきまわしますよ」
「あー待て待て、なまえ先生ってさ」
「なんですか」
「処女?非処女?」
「……」
「いでェェ!ちょ、グーはなくね!?」

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