好きだと、言われたことがない。いや、自分で言うのもなんだけど、モテないこともないから言われたことは多かれ少なかれある。でも肝心の彼氏には、言われたことがない。新八くんに愚痴ってみたら、照れくさいんじゃないですか?と言われて、神楽ちゃんに愚痴ってみたら、あの天パには乙女心ってものがわからないアルよ!と言っていた。長い付き合いだから奴のことは殆ど把握してるつもりだ。照れくさいのがいやっていうのも、乙女心がわからないっていうのも知ってる。でも長い間あたしの側にいるんだから、たまには甘い言葉の一つや二つくれたっていいと思う。そんなことを、長い間一人で考えて一人で悩んだりしている。そもそも銀時はちゃんとあたしのことが好きなんだろうか。考えれば考えるほど深みにはまっていくような気がして、やめた。気分は沈んだままだけど。

「…寂しい」

新八くんはもう家に帰ったし、神楽ちゃんはとっくに寝てしまった。時間が時間だからしょうがないんだけど、いつも喧しい万事屋が静かだと妙に寂しくなる。あたしも寝ようと思ったけどなかなか寝つけなくて、しょうがないから銀時の帰りを客間で待つことにした。お茶をいれて一人でちびちび飲んでいると、玄関から随分と機嫌が良さそうな銀時の声が聞こえてきた。

「たでーまー」
「おかえり。また長谷川さんと飲んでたの?」
「おー、たまたま会ったからよォ。へへへへ」
「なに笑ってんのこいつマジきもい」

ふらふらと客間に入ってきた銀時はあたしの隣に腰掛けた。隣と言っても、なぜか近い。ぎちぎちに密着している。酒臭い。

「なーあなまえちゃーん」
「なに」
「なまえちゃーんなまえちゃーんなまえちゃーん」
「ちょっと、うざい」
「冷てえなあ」

銀時はあたしの体に腕を絡ませて頬擦りしてきた。相当酔っているらしい。拒否しても懲りない銀時は、腕を一旦ほどいて今度は目を閉じて口を尖らせた。きもい。

「ちゅー」
「酒臭いからやだ」
「ちゅーしてえんだもぉん」
「かわいくない」
「えー」

ちゅーを諦めたらしい銀時は、あたしを思いきり抱き締めてきた。苦しい、欝陶しい、酒臭い。三重苦。

「苦しい」
「なまえ」
「なに、」
「すき」
「…は?」
「すげえ、好きだ」

長い間聞いたことのない、聞きたかった台詞が、銀時の口からぽろっと突然出た。

「…銀時」
「うん?」
「酔ってるよ、あんた」
「酔ってねえよ」
「……酔ってるよ…」

聞きたかった台詞は聞けたけど、酔ってるんじゃ意味がない。素面じゃないと、意味がない。でも、それでもやっぱり嬉しくて、目から熱い液体が出た。

「泣くな、なまえ」
「…う、」
「好きだ」
「うん…」
「好きだ」
「ありがとう…」

指で涙を拭われて、唇が重ねられた。息が酒臭いとかは、もう気にもならなかった。離れた唇がなんとも名残惜しい。目の前にある二つの目は真っ直ぐ、あたしを見つめていた。

「ずっと、俺だけのもんでいて」


デリケートに好きして


「おはよ、銀時」
「おー…やべ、頭痛ェ…」
「…昨日言ったこと覚えてる?」
「……俺なんか言ったっけ」
「さようなら」
「ちょ、どこ行くのマイスウィート!」



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