「わかんない」
「…は?」
「何考えてんのかわかんないって言ってんの」
「俺ぇ?」
「うん」

待機所でカカシと二人。小さなテーブルに置かれているコーヒーは、さっきあたしがカカシに差し入れをしたものだ。一度口をつけただけで放置されたコーヒー。一方あたしの手にあるコーヒーはもう残り少ない。その残りを全部飲み込んでカカシに目をやると、いつもの如く黙々と本を読み続けていた。そんなカカシに向かって日頃思っていたことをぶつけてみると、案外簡単に本から視線を外し、あたしを見た。

「よく言われるでしょ」
「んー…ま、忍たる者相手に心情を悟られないようにすべしってことだよ」
「先生みたいなこと言うね」
「や…俺、先生だから」

眉を下げて苦笑するカカシ。普段はこんな気の抜けたような顔をしてるけど、いざというときには頼れる男前になるから不思議だ。というか、カカシそのものが不思議だ。顔は大部分が隠れてるし、生活感もあんまり感じられない。初めてカカシの家に入ったとき思わずカカシって家あるんだ、と言ってしまったことを何となく思い出す。そのときも、カカシは俺を何だと思ってんのと言って苦笑していた。まあ胡散臭い格好も、生活感が感じられないというのもあるが、何より不思議なのは全く何を考えているのかわからないことだ。

「でもアスマも紅もゲンマも、何考えてんのか直ぐわかるよ?」
「長い付き合いだからじゃない?」
「…イルカ先生もわかる」
「あの人は…そうゆう人なんじゃないの」
「でもカカシは全くわかんない」
「そ?」
「うん」

カカシは再び本に視線を戻して、ぱらりと捲った。あたしの話に興味があるのかないのかもわからない。あたしはカカシの向かい側の椅子から、カカシの隣の椅子まで移動してみた。そして出来る限りくっついて、本を読む気の抜けたような顔を下から覗きこむ。すると、しばらく経ってからカカシはあたしに目を向けて笑った。

「なによー?」
「…あたしが何考えてんのかわかる?」
「…カカシだーいすき」
「不正解」
「ま、今のは冗談で…」
「……」
「コーヒー飲まないんなら勿体ないから飲むよ」
「え」
「当たりでしょ」

目を細めてやわらかく笑うカカシ。驚いて口を半開きにして固まっていると、あたしの頭を軽く撫でたカカシは、ちゃんと後で飲むからねと言った。

「なんでわかったの!」
「お前わかりやすいの」
「すごいすごい!」
「じゃあ次はお前の番」
「えー!」
「ははっ」
「…腹へったーとか?」
「不正解」
「あんたわかんないよ!」
「だろーねえ」

楽しそうに笑うカカシはまた本に目を落として読み始めた。いつだってカカシは余裕があって、大人だ。気に入らない。もっと気に入らないのは何を考えてるのか、わかれないこと。カカシが何を考えてるかくらい、わかりたいのになあ。

「あ」
「ん?」
「いーこと考えた」
「なに?」
「カカシの思想を見抜いてあげる」
「ふ、出来るの?」
「今度は絶対、当たるから」

相変わらず本に目を落としながら、あたしの話を聞いて笑みを浮かべているカカシにそっと手を伸ばす。口布に指を引っ掛けて首までずり下ろして、露になった薄い唇に自分のそれを一瞬だけ重ねる。

「……びっくりした」
「え」
「当たりでしょ?」

カカシは目を見開いたままあたしを凝視していた。そんなカカシが可愛くて思わず笑みがこぼれる。今度は、絶対はずしてないはずだ。

「残念…はずれだよ」
「えー?嘘!」
「ほんとほんとー」
「じゃ、正解は?」

カカシはあたしの肩に手をまわして引き寄せ、耳元で低く囁いた。

「…ドキドキした」


たららんらんらん



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