ああ、くそ、暇だなあオイ。仕事もねえし誰もいねえしよ。新八は親衛隊の集まり?があるらしく朝に意気揚々と出て行ったし、神楽はというとよっちゃんだかみっちゃんだか知らねえがクソガキ達と遊ぶらしく今さっき出て行った。んー、よっちゃんだったかな。なまえは万事屋に来ねえところを見るとおそらく今日もバイトだろう。しんと静かな万事屋で俺は一人読み終わったはずのジャンプをパラパラめくっていた。ギンタマンは相変わらずつまんねえ。あ、でもなまえは好きだって言ってたなギンタマン。なんで?って聞いたら、頑張ってる感じがするからと至極真剣な顔で言っていた。誰のこと?ギンタさん?作者?担当?でも天知ゴリラだぜと言ったら、はあ?と言ってなまえは不思議そうな顔をしていた。ああ、くそ、しかし暇だなあオイ。長谷川さん、は仕事か。しょうがねえ、パチンコでも行くかなあ。そう思って財布を手にとって中を覗くとヨレヨレの千円札が一枚寂しそうに入っていただけだった。オイオイまじかよ、いい加減仕事探さねえとやべえかなこれ。そんなことを考えていると何故か甘い物が食いたくなった。そういや今日はまだ糖分摂ってねえなあ…まあ千円くらいあってもなくても似たようなもんだろ。金なんかあるときに使っとかねえとどうせ神楽の胃袋に全部吸い取られるしな。パチンコ…甘味屋…どっちにすっかなあ。よし、なまえにも前怒られたしパチンコは延期にしよう。なまえはギャンブルする奴が嫌いらしかった。だから前にパチンコ行って財布をすっからかんにして帰ったときはぶん殴られた。そのとき俺は何か言い訳しようと思って、人生なんざギャンブルみてえなもんよとちょっと格好つけて言ったら、またぶん殴られた。とゆうような恐ろしい経験がある。まあ、今日は甘味屋に行こう。糖分摂取については、まだなまえに怒られたことはない。俺は一人頷いて、ペラペラの財布を懐に直して立ち上がった。今日はどこの甘味屋に行こうかなあと考えながら客間を出る。結論は案外早くに出た。最近できたなかなか美味いと有名な甘味屋。俺は真っ直ぐ目当ての甘味屋を目指して足を進めた。

「なにやってんの」

最近できたなかなか美味いと有名な甘味屋の前を通り掛かると、何故かなまえが立っていた。暇なときはいつも万事屋に入り浸っているから今日はバイトかと思っていたのに。不思議に思って純粋な疑問をぶつけてみたら、なまえは俺の台詞に思い切り顔をしかめた。あれ?俺なんか気に障るようなこと聞いたか?

「それ本気?」
「あ?なにが」
「本気で言ってんの」

相変わらずおっかない顔で俺に問い掛けるなまえ。は?何よ本気って。なんで俺が聞いてんのに聞き返すのこの子。

「本気もなにも、っぶふォ!」

不思議に思っていたら何故かぶん殴られた。は?意味わかんねえよ、何だっつーんだ。

「何しやがんだこのアマァァァ!!」
「…もういいよ」
「よくねえだろうが!いてえんだよオイ!!」

何だよ。何が気に入らねえんだよ。俺は疑問に思ったから聞いただけだろうが。なんで俺が殴られなきゃなんねんだ。頭に血がのぼっている俺と反対に、なまえは冷静だった。何だよ。ますますわかんねえよ。いつもならぎゃーぎゃーうるせえくせに。

「最低」
「あァ!?最低なのはおめえだろうが!いきなり人のことぶん殴っといて!!」
「じゃあね」
「あ、待てコノヤロー!」

怒り狂っている俺にくるりと背を向け、なまえは制止も聞かず走り去った。何だよ。意味わかんねえよ。一人残された俺は苛立ちに任せて頭を乱暴に掻いた。

「チッ、興ざめだ…帰っか」

来た道を戻ろうとすると、甘味屋の外に置かれたメニューが目に入った。小さなボードにはおすすめのデザートがつらつらと書かれていた。その中の目立つ大きな字に自然と目がいく。スペシャルジャンボパフェと書いてある。どうやら開店を祝した期間限定デザートらしかった。…ん?期間限定のスペシャルジャンボパフェ?え、待てよ。最近できたなかなか美味いと有名な甘味屋?なんで俺、知ってたんだっけ。なんで、なまえは。俺は甘味屋に飛び込んだ。

「すんません!」
「いらっしゃいませー」
「あの、店の前に居た女、何時から立ってた?」
「えーと…11時くらいからですかね」
「いま何時?」
「2時過ぎです」
「今日、土曜か」
「?ええ」

甘味屋のねえちゃんに礼を言って、俺は甘味屋を飛び出した。ああ、俺はなんてことを。殴られた頬がじんと痛んだ。

銀時!最近できた美味しい甘味屋知ってる?
んー、初耳だわ。
あのね、限定のデザートがあるんだけど一緒に食べに行こうよ。
まじ?全然行っちゃうよ俺。
でも昨日バイトの子二人も辞めちゃったから来週の土曜まで休みなくてさあ、その日でもいい?
俺ァいつでも暇ですよー。
じゃあ来週の土曜11時ね!忘れないでよ?
わかってらあ。

あんなにも楽しそうに話して、約束したってのに。3時間も待ちぼうけ喰らって、あいつが怒るのも無理ねえってのに逆ギレして怒鳴って、俺は馬鹿です。大馬鹿野郎だ。でもな聞いてくれ。俺はお前との約束はすっかり忘れてたがお前のことを忘れてたわけじゃねえんだ。だってずっと何をしててもお前のことを考えるし今日だってギンタマン見てお前の不思議そうな顔を思い出したしパチンコ行こうと考えたときお前にぶん殴られたこと思い出して踏み止まったんだ。なあだから、どうしようもない俺だけど、まだ見捨てないでやってくれ。

「ああクソ、何処だ、なまえ」

なまえの行きそうな場所を走ってまわった。アパート、バイト先、スーパー、コンビニ、喫茶店。いない。見つからない。息が上がって、すっかり日が落ちてクソ寒いってのに汗だく。俺は構わず走った。すると、万事屋の近くの公園に、小さな背中が見えた。思わず足を止める。小さな背中はブランコに乗っかっていた。荒い息を整えながら、背後から一歩一歩近づいていくと同時に確信していく。なまえだ。ふるふると震える小さな体と嗚咽に胸が軋む。悪かった。ごめん。泣くな。何て言えば全部伝わるだろう。許してくれるってんならまたぶん殴ってくれてもいい。何なら土下座でもしてやれる。きっと俺はお前がいないと駄目になっちまうんだよ。最初っから駄目な男だけど更に駄目になる自信がある。なあだから、頼むから俺を見捨てないでやってくれ。俺はブランコの鉄臭い鎖ごと、震える小さな背中を抱きしめた。

あるいはハピネス



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