一体これは誰なんだ。

「ちょ、っと待って」
「ん?なに」
「ヤバイ…色々ヤバイ…」

木兎光太郎という男は、いつでもどこでも元気で、素直で、男女関係なく誰にでも好かれるバレー部の主将兼エースである。そんな人気者の木兎が、私に告白してきたのはちょうど半年前だ。席が隣になって、それなりに仲良くなったと思っていた頃、私は木兎を好きになっていた。とても自然に、好きになった。まるでそうなるのが当然だったみたいに。でも、木兎は誰に対しても分け隔てなく接する人間なので、まさか私のことを好きだなんて全く予想外のことで、突然の告白に言葉をなくしてしまった。そんな私に、あれ?お前もぜってー俺のこと好きだと思ったんだけど、違うの?と、自信満々にうつむく私を覗き込んだ木兎の笑った顔は今でも忘れられない。半ばヤケクソで、うるっさい好きだよバーカと返答して目をそらすと、やったー!と雄叫び。そのあと抱き締められて、今日からお前俺のカノジョな!と恥ずかしげもなく言った木兎。ちなみに場所は校門前である。影に隠れて見守っていたのであろうバレー部員達が一斉におめでとうと声を揃えて言い、ぞろぞろ近づいてくる。つられて、下校中の生徒達から冷やかしの声が次々と飛んできて、私の顔は真っ赤だったことだろう。顔を覆って、もう消えてしまいたいと呟くと、木兎はまったく動じていないようすで、なんで?と笑った。付き合ってから、教室で食堂で廊下で屋上で、どこであっても人目を気にせずベタベタまとわりついてくる木兎は、まわりなんて気にしていないらしく、恥ずかしがったり照れたりするようすは一切なかった。それなのに、

「はっ」
「は?」
「恥ずかしい…」

これは一体誰だ。半年記念にデートしようと木兎が提案して、もうそろそろ頃合いかなあと思った私は、今日家に誰もいないのとベタなお誘いをした。そのとき木兎は一瞬フリーズしていたが、すぐ理解したらしくやや動揺しながらも私の手に指を絡めた。そして、一緒に帰って、私の部屋でうんと長いキスをして、そしたらこのザマで。

「ぶはっ…あの木兎が?」
「わ、笑うなよ!俺困ってんのに…」
「困ってるの?」
「だって」
「うん」
「俺初めてだし…ちゃんと出来るかわかんねえし…」

真っ赤な顔を両手で覆う木兎が可愛くて、私のほうがヤバイ。だって、あの木兎が、私のせいでこんな、こんなことに。きっとこんな木兎、私しか知らない。

「それに、」
「うん」
「俺、お前のこと大切にしたいのに、自信ない…」
「はい?」
「優しくできるかわかんねえ…」

未だ真っ赤な顔はその大きな手に覆われたまま。ベッドの上で小さくなっている木兎。かわいい、私の木兎。額にキスしてから、木兎の手をどける。薄い唇をぺろりと舐めてやってから、至近距離で見つめ合ってみる。私を見るその目は、熱に揺れていた。

「光太郎の好きにして」



終わりのない恋をしている



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