目が覚めると肩と腰が痛かった。また机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。きちんとベッドで眠らなかった事に心底後悔しながら、窓の外を見ると、もう夜更けらしかった。ぐっと伸びをすると、肩から何かが滑り落ちた。何かと思ってそれに手を伸ばす。どうやらそれは、僕のベッドにあるはずの掛け布団。

「兄さんかな?」

静かに兄さんのベッドを覗きに行くと、確かに兄さんはそこに眠っていた。心の中でお礼を言って、自分のベッドに行くと、驚いた。なんと、なまえさんが僕のベッドの上で丸くなって眠っている。

「なっ…なんで、」

僕は突然の出来事にただ呆然と立ち尽くしていた。それとは対照的に、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているなまえさん。短いデニムパンツから放り出された白い脚に目眩がする。僕は、彼女のことが好きなのだ。ただ彼女は、兄さんのことが好きで、つい最近思わぬふられ方をして落ち込んでいる様子だった。衝動的に抱き締めてキスしたあの日から、彼女とは顔を合わせてはいたが、これと言った会話はしていなかった。数週間ぶりに、塾と学校以外で、彼女に会ったことになる。

「…僕は悪くない。どうなったって。僕は悪くない」

自分に言い聞かせながら、もそもそとベッドに入る。静かに布団をかけてやると、彼女は小さく唸った。

「んー…」
「ねえ、起きて」
「……」
「なまえさんてば」
「……」
「あークソッ…どうなっても知らないぞ…」

布団の中で柔らかい身体を抱きしめてみる。ふんわりいい香りがして、死ぬほど興奮した。いい気になって、首筋を舐めたり噛んだりしてあそんでいると、彼女はやっと目を覚ました。

「えっ、ゆき、お?」
「雪男」
「え、なん、なんで」
「こっちの台詞です。ここ、僕のベッドですけど」

目の前の顔が、みるみる真っ赤になっていく。仕事柄、夜目がきくので暗い部屋でも、布団の中でも、それくらいはわかった。彼女はぐっと僕の胸を押し返して、離れようとする。僕はそれを許さない。

「あ、遊び疲れて、帰ってきたら、雪男寝てて、燐も自分のベッドで寝ちゃって、それで…」
「布団かけてくれたの、なまえさん?」
「え、あ、はい…」
「ありがとう」

なまえさんの首筋に顔を埋めて、腕に力を込めてまた抱きしめる。堪らない。愛しい。

「雪男、疲れた顔してる」
「今治った」
「あはは、そんな馬鹿な」
「本当です」

彼女は僕の後頭部をゆるゆると撫でた。心地良い。もっと僕に触れてほしい。兄さんの代わりでも、いいんだ。今は。

「雪男、メガネはずしなよ」
「…なまえさんがはずして」
「なに今日、甘えん坊だなあ」

彼女はそっと僕のメガネをはずした。途端に視界がぼやけて悔しい。もっとちゃんと見ていたいのに。

「なまえさん」
「なに?」
「キスしてください」
「なっ!は?ええ!?」

慌てふためく彼女が可愛くて、一層意地悪をしたくなる。ぐっと顔を近づけて目を閉じる。早くしてと急かすと、彼女はほんの少しだけ僕の唇に唇をつけた。

「もっ、もういいでしょ…」
「顔がよく見えないのが残念だなあ」
「もー…」
「好きです」
「……うん」
「…いつか、僕の事だけ見て」

微睡んで緩んだ僕の腕から抜けだそうとするなまえさんを背後からぎゅっと抱きしめて、引き止めてみる。このまんま朝になって兄さんに見られればいい。また調子に乗って、やわやわとなまえさんの胸を触ってみると、無言で頭にチョップを喰らった。


純粋無垢に誘惑





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