「あっちー」
ジリジリと、身を焦がすような暑さ。梅雨はすっかり過ぎ去ったものの、じめっと肌にまとわりつくような湿気と容赦ない日差しに、隊はダレまくっている。そして、それはこの人も例外ではなく。
「山崎ィ」
「はい」
「あんた暑くないの」
「暑いに決まってんでしょう」
「ぐあー…やってられっかよこんなもん…」
「……」
「殺してくれよおおおお。もう私を殺してくれよおおおおお」
縁側で横たわる彼女は、恥ずかしげもなく全身で大の字を描いている。遂にスカーフをほどいて、その辺に投げた。俺がそれを拾うと、彼女は虚ろな目でこちらを見る。
「はしたないですよ…しっかりして下さい」
「もうどうにでもしてくれよおお…ほんと無理なんだけど暑いんすけどリアルにガチで…」
「てめえら何やってる。仕事はどーした」
突然背後から低い声がして、振り向くとそこには土方さんが立っていた。どうやら鬼も、この暑さに参っているらしい。腕捲りをして、シャツのボタンもだらしなく、今日はとめられていない。
「うるせえですよ土方さん。こんなクソ暑い中仕事しろなんて、頭おかしいんじゃないの死ねば?」
「社会人のセリフとは思えねえな。頭おかしいのはお前だよアホ。山崎、お前も何サボってんだ殺すぞ」
「えっ俺にだけ厳しくないですか」
「あーもーやめろやー暑苦しいんだよクソがあああああ」
ジタバタ暴れる彼女を見下ろしながら、土方さんは溜め息をついた。どうやら怒る気力も無さそうだ。
「おーい」
庭のほうからやる気のない声がして目をやると、沖田隊長が涼しい顔をして立っていた。相変わらずジャケットもスカーフもきっちり着用している。暑くないのだろうか。
「総悟、お前もサボりかコラ」
「いやあ、滅相もございやせん。俺ァ皆の為に、この暑さを何とかしようと苦心していたんでさァ」
「ほう、沖田くん。それでそれで?どうなの。涼しくなれそうなの?」
いつの間にか状態を起こし、沖田隊長の声に真剣に耳を傾ける彼女。そして、相変わらず不機嫌そうな土方さん。
「ああ、勿論です。倉庫でいいもん見つけやしてねェ。これでさァ」
沖田隊長がこれ、と言うと同時に冷たいものが全身にぶっかけられ、俺達はずぶ濡れで顔を見合わせた。えっコレ何?水?
「テレレレッテレー!ホースでさァ。これでありとあらゆる所に水まきゃあ、涼しくなるってもんだろィ?」
「…総悟てめえコラ」
「ぶっ!あっははははは!いいぞ沖田!もっとやれ!」
「ちょ、ダメですよ!」
彼女はケラケラ笑い、副長は青筋浮かべて裸足のまんま庭へ駆け出し、沖田さんは副長に水をぶちまけながら逃走する。
「あ!山崎ぃ」
「はいよ」
「虹だ!虹!」
彼女の指差すほうへ目をやると、四方八方へ飛び散る水飛沫が太陽に反射して、庭に小さな虹がかかっていた。彼女は目をキラキラさせてそれをきれいだと、言った。
「山崎ぃ」
「はいよ」
「アイス買いに行こーぜー。みんなのぶんも」
彼女の提案は、何だかんだでいつも悪くはない。
君色にカスタマイズ
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