「…は?」

目を開けると、いつもと違う感覚。自分の家の天井では、ない。どこだ?ここ。眠い目をこすり体を起こす。

「ん…」

短く小さく聞こえた低い声に驚き、その声のほうに目をやると不自然に膨らんだ布団。誰かが同じ布団で寝ているのだ。そこで気づいた。気づいてしまった。私は、服を着ていない。そうか、やってしまったんだ。でも、誰と?昨日はひとりで飲んでいたけど、そこから記憶が飛んでいる。検討もつかないので、布団をめくり上げ、隣ですよすよ眠る人物の正体をたしかめようとしたが、さすがに裸のままではまずいのでまわりを見渡して着れるものを探す。すると背後に自分の制服と誰かの服が散乱していた。とりあえずシャツを着る。そして、いっしょに落ちている誰かの服に目をやると、見覚えのある白い着流しに、ある人物が頭に浮かび上がった。

「まさか、銀時?」

ごくりと唾を飲み、布団を掴んでめくり上げると素っ裸で眠る銀時がそこにいた。

「うー…さみぃ…」
「…おい起きろ銀時」
「うるせえんだよ俺ァまだ……………ん?」
「……」
「…………あー、そっか俺」

目覚めた銀時はだるそうに体を起こし頭をかいた。昨日の出来事を覚えているらしい、何ともばつが悪そうな顔をしている。

「なにがあった」
「え、なにってこの状況でそれ俺に言わせんの?」
「違うわボケ。そうなる前の話だよ!」
「あー…お前、一人で飲んでただろ」
「うん、それは覚えてる」
「で、お前が潰れてんのたまたま俺が発見して、俺ん家のが近かったから運んでやったの」
「で?」
「そしたらお前が、俺を誘ってきたとゆうわけです」
「……副長に怒られる」
「え、付き合ってんの」
「付き合ってないけど」
「じゃあ問題ねーじゃん」
「あるよ!」
「てかお前すごかったよ?銀時、もっと…とか普通に言っ」
「あああああ!それ以上喋んな馬鹿!」
「…お前処女じゃねえんだな」
「な、当たり前でしょ。いくつだと思ってんの?」
「お前の初めては俺が良かった」
「はあ?…あ、あほか」

もう嫌だ。他の誰でもいいけど、こいつだけは嫌だったのに。なんでこうなるんだ。

「ああもう、なんでよりによって銀時…」
「まあそう言うなよ。なかなか上手かったよ?色々」
「うるせえよ」
「すいません」
「…なんで我慢してくれなかったの」
「そりゃ俺だって男だしよォ、好きな女に誘われたらもういくしかねえだろ」

いつだって銀時は真っ直ぐに私を見て、好きだとか愛してるだとか言う。でも私はそれがこわくて堪らない。私はひとつのものに依存したくはないし、それに縛られるのも嫌だ。だから私は何にも捕らわれる事なく生きてきた。男に体を許した事も沢山あったけど、でも銀時だけはだめだ。いつだって銀時は私のつまんない信念みたいなものをいとも簡単に揺さ振るから、だから、銀時とだけは嫌だったのに。

「好きとか、そんなもん聞きたくもない」
「惚れてんだよ」
「やめて聞きたくない」

堪らず耳を塞ぐと抱き締められた。嫌だ嫌だと暴れてみても所詮女の私が男の力に適うはずもない。

「はなせ馬鹿!」
「いだだだだ!いいから聞けよ…」
「いやだ」
「好きだなまえマジで愛してる」
「あんたなんか嫌い!」
「好きなくせに」
「は、はあ?自意識過剰も大概にしろ!」
「昔から俺以外見ちゃいねぇんだよお前は」
「ちがう」
「俺一人くらいになら、捕まってもいいじゃねえか」
「いやだ、きらいだ」
「本音で喋れ、建前はもう聞き飽きた」



ひとつになれたら楽なのに



何かに捕らわれる安心感を、何かに執着する幸せを、私は知っている。そして、それを失った時の絶望はとてつもなく大きいという事も、私は知っている。だからお願い、ずっとこのままで。あんたは其処にいて。



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