「さあて、何処で呑むか」

夜の歌舞伎町を彷徨う。今日は打ちに行って大当たりだった。久しく温かい懐に気分が良くなって、何処かで呑む事にしたが、行きつけの居酒屋は不運にも閉まっていて、舌打ちをして来た道を戻る。行き交う人々の中の腕を組んだ男女を見て、なんとも言えない気持ちになり、浮かんだのはなまえの顔だった。俺が白夜叉だとか呼ばれている時から俺の事を好いているくせに、誰にも縛られたくないという性分で、絶対に胸の内をあかさない。それはきっと、昔懐いていた松陽先生が死んだ時のトラウマからだと思う。まあ、要は面倒くさい、女。仕方なく万事屋の下のババアの所で呑もうと思い、戸を開けるとカウンターに突っ伏している見慣れた後ろ姿が目に入った。

「お、銀時じゃないかィ」
「……こいつ何してんの」
「潰れちまっててねえ。すまないけど、あんた面倒見てやってくれないかィ?」
「…わかったよ」

どうやら今日は呑めそうにないようだ。しかし、その代わり見たかったツラが見れた。カウンターに突っ伏しているなまえを抱き上げ、スナックお登勢から出て階段を上り、自分の家に入る。客間を抜け和室に敷いてある布団になまえをおろして、台所で湯飲みに水を入れ、また和室に戻る。

「おーい、大丈夫か」
「…んー」
「だめだこいつ」
「みず…」
「水?…ほらよ」

布団の上に横たわっているなまえが湯飲みに手を伸ばしたから手渡そうとするが、手に力が入らないらしい。しょうがないので湯飲みに口を付けて水を口に含み、なまえの唇に自分の唇を押し付け流し込んだ。零れた水が一筋、なまえの顎をつたって首筋を滑った。それを見ていた俺は妙な気分になって、思わず目を背ける。

「落ちつけー…相手は酔ってんだぞー…」
「ん…ぎんときー」
「お、大丈夫か?」

むくりと起き上がったなまえは何故か真選組の制服を脱ぎはじめていた。俺は思いもよらないなまえの行動に固まった。

「おいおいおいおい、なまえちゃん?」
「あっつー…」
「ちょォォォ!待ってェェェ!!」

俺の声も届かず、ついにシャツ一枚になったなまえは、ばたりとまた横になった。俺は変な気を起こさないように、上に布団をかけてやろうとするが出来ずに終わった。

「は?」
「…んー」

俺の腕を掴んだなまえは、そのまま俺を引き倒した。なまえの上に覆いかぶさった俺の胸辺りにはふにゃりとやわらかい感触。それに加え目の前にあるなまえの目、唇。目眩がした。

「 銀 時 」

そしてなまえの唇が、確かに、抱いてと動いた。その瞬間俺の中の何かが切れて、俺はなまえに唇を重ねていた。シャツを脱がせ自分も服を脱いで、後は本能に従うだけ。いつもは嫌いだ触るなと建前で俺を突っぱねていた口が、今だけは確かに俺を受け入れている。それだけで信じられないくらい幸せで、同時に苦しくなった。俺には、きっとこいつだけだ。

「あ、銀時っ……すき……」

行為の最中に漏らす甘い声に混じって聞こえる愛が、痛かった。きっと、今だけだ。そう今夜だけ。きっと朝になればまた俺の手は届かなくなる。きっとこいつが許すのは、もう、今夜が最初で最後。

「なまえ…」

行為の後、隣で寝息をたてるなまえに一つ口付け、ほんの少しだけ、泣いた。


何でもすっからよ。俺のもんになって。もう、建前はいらねえんだ。なあ、愛してる。俺は死んだり、しねえから。

この熱はえいえんに取って置きたい



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