「もしもーし」
「どうした」


久しく聞く電話越しの部下の声。その部下であるなまえは今仕事で京に出張中だ。


「どうしたって…土方さん」
「あ?」
「わからないんですか?」
「なにが」
「人がわざわざ電話してあげたってのにー」


電話越しに聞こえるため息が気に障る。


「さぼってんじゃねーよテメー」
「さぼってないですよ。あと二、三日で戻ります」
「そうかよ」
「あ、はいはい。そこに置いといてくださーい」
「…オイ、テメー今何処にいる?」
「料亭」
「さぼってんじゃねーか!」
「やだなァ土方さん。今は食事の時間なだけですよ。あー美味い」
「黙れ!食ってんじゃねーよ!!」
「ちなみに真選組でツケときましたから」
「死ねェェェ!」


なまえはいつものようにカラカラ笑って、これは自腹ですと言った。当たり前だ。


「…寂しいですか?」
「はっ、誰が」
「強がらなくていいですよ!寂しいくせにっ」
「きるぞ」
「え、何を?電話を?」
「テメーを、だ」
「おおコワ」


盛大にため息をつくと、なまえはまた楽しそうに笑った。


「ねえ土方さん」
「…んだよ」
「お誕生日おめでとうございます」
「は?」


驚いてカレンダーに目をやる。五月五日、俺の誕生日だ。


「覚えてたのか」
「当の本人はお忘れだったようですがね」
「忙しいんだよ。いちいち覚えてられっか」
「自分の誕生日忘れるのは老けてきてる証拠ですよ」
「テメーは何年たっても口が減らねえな」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
「褒めてねー」
「まあプレゼントは無いですけど」
「ねぇのかよ」
「え?何か欲しかったですか?たくあんとか買って帰りましょうか?」
「いらねェェェ!」
「あははは」
「…この歳で誕生日なんざ祝うもんでもねェだろ」
「一歩一歩着実に死へ向かって歩んでいってますね」
「縁起悪ィこと言うんじゃねェ!」
「…じゃあそろそろきりますね」
「ん、あァ」
「この料理は片手ふさがってると食べられないんで」
「テメェェエェェ!」
「それじゃ」
「…おー、またな」


ぷーぷー鳴る電子音が、まわりの静けさを増長させる。

一番言いたかったことは胸にしまっとくか。照れ臭くて言えたもんじゃねーよ早く顔が見てえなんて。

とりあえず誕生日にアイツの声が聞けただけでよしとしようか。

五月五日



back