text | ナノ




「ですから、何度も断ってるでしょう?」

「お前がうんと言わない限り、おれは毎日来るぞ?」


もはや何度目か分からないこのやり取り。

ある日ログに従ってこの島にやってきた海賊は、ログが貯まったらすぐにここを発つらしい。

しかしこの島のログは半月もかかってしまうのだ。あと一週間以上これが続くのかと思うと、先が思いやられる。


「お店を贔屓していただきありがとうございます」

「おれが贔屓してんのは店じゃなくてお前だ」


当たり障りなく返しても、向こうも手練れのようで軽く受け流されてしまう。

一体自分の何が彼のお気に召したのかが謎だが、それを聞けば「気に入ったから」とだけ返されるのは実証済みなので、ハァと溜息をついた。


「お疲れだな」

「誰のせいですか」

「さぁなァ…?」


ククッと喉で笑ってジョッキを傾けるトラファルガー・ローに、もうお決まりでいつものツマミを出す。

島に上陸した日の夜、ハートの海賊団がこの店を貸し切って宴をしたのだ。しかしその後は、船長が飽きもせず一人でここへ通っているのである。

一人でこの飲み屋を営んでいる身としては陸の暮らしが最重要で、海へ出たいなんて思ったことがない。


「おれの船に乗れ、×××」

「お店があるので無理です」

「その理由は聞き飽きた」

「その勧誘も聞き飽きました」


なのにこの男もしつこく誘ってくるので、最初のうちは真面目に断っていたのが段々バカらしくなってきて、適当に流すようになった。

しばしお互い顔を見合わせ、プッと小さく吹き出すと、相手もまた楽しそうにクックと笑っている。


「なんだか最初の頃と雰囲気が違いますね」

「…あぁ?」

「初めて見た時は、手配書通りの怖い人かと思いましたもん」

「海賊なんて普通そんなもんだろ」

「でも今の貴方は怖くありませんから」

「……」


だからクスクス笑って正直な感想を述べると、トラファルガーは口を閉じた後、ニヤリと唇を緩めてカウンターに頬杖をついた。


「………あと9日でログが貯まる」

「そうですね」

「島を離れれば、きっと同じ場所へ行けるのは何年も後だ」

「はい」


グランドラインを一周すると言っていたから、この人もきっと海賊王になるとか、そんな夢を持っているのだろう。

軽く相槌を打って耳を傾けていると、ふと海色の瞳が真剣さを帯びて光ったから、思わずドキリと胸が大きく波打った。





「必ず戻る。店開けて待ってろ」





今までと真逆なことを言われた途端、何も言えなくなってしまったわたしを見て、彼はフッと優しく微笑んだ。


「………え…?」


連れてってくれないの?と口をつきそうになった辺り、わたしはとっくに彼の術中に落ちてしまっていたようだ。

それは人とはいかに矛盾した生き物であり、いつの間にか芽生えていた自分の気持ちを自覚した瞬間だった。



「一目でお前に惚れた。次は断られても連れてくぜ?」



その次っていつ?明日?それともグランドラインを制覇してから?

そう言い残して店を出ていく背中を見送ったあと、9日…と呟いた。

9日は彼に会える。会いに来てくれる。


じゃあ、その後は?


「………9日……」


その間にお店を片付けて、身の周りのものを整理して。

ああこうしちゃいられない。ご近所さんにもお別れを言わなくちゃ。

そりゃ、あの背中を見送るのも好きだけど、それが本当の、暫くの別れとなった途端に寂しくなった。急に彼との時間が惜しくなった。

急いでカウンターを片付けて、彼等がとっているはずの宿へ向かう。店の扉に「少し出かけてます」のプレートを提げるのは忘れずに。





次に彼に会ったらなんて言おう。

次に会ったら彼はなんて言うんだろう。



「次は―――――」



言われることが分かっているなら、今日だけはいつもと違う、少し違った答えを返そうと思う。

街中で見つけた背中に駆け寄り、勢いのままそれに抱き着く。

彼は驚いたように足を止めてこっちを見たけど、息を切らせたわたしの顔を見ると、どうした?といつもの確信めいた笑みを浮かべた。


「わたしも連れてって!」


残り9日。

その後はきっと、想像もつかないことを沢山目の当たりにするのだろう。

でもその前に少しだけ、今までじゃ想像つかなかった彼の笑顔が見れたから、わたしも今まで以上の笑顔を浮かべてやった。


「二言はナシだぜ?」

「ありません!」

「……上等だ」


そのかわり、ちゃんと守ってくださいね!と言うと、誓ってやるとキスされた。

不意打ちだ!!










押してダメなら

恋は駆け引きだなんて、身をもって知りました。



――――――
「相対理論」の奏姫様からです!
良く戦うヒロインちゃんを書かれるんですが!今回は非戦闘員←のヒロインちゃんです。
次は、て所がもうキャプテンの術中にハマっちゃってて、勿論A子もやられました。キャプテンがカッコ良い!クールなキャプテンも好きです!
ここぞというところで名前を呼ばれては悶絶してしまいますね…と、A子の感想は程々に…。奏姫様!こんな素敵なお話有り難うございます!
これからもどうぞよろしくお願いします!
A子
<-- -->

戻る