text | ナノ

 ×××が、ローに気付いたのは、彼が小さなラグに収まるよう、自分に寄り添うように座った時だった。長く、男にしては細く華奢な足がラグからはみ出す。×××の目の前に置かれたマグ。トロリとしたチョコレート色の液体が凪ぐように、波打った。
「よぉ」
「ロー」
 鋭い視線を仰ぎ見る×××は、まだ寝起きなのか、ぼんやりと見返すだけだった。足元に、何時の間に持ち出したのか、ローがソファに投げたはずの医学書が広げられている。
「ベッドから転げ落ちたのかと思ったが、違ったようだ」
「んー、うん」
「…」
 ぽやぽやとしながら返される返事に、薄く笑ったローは、パチパチと時折はぜる赤い薪を見つめながらコーヒーを口に含んだ。直ぐに渋顔になり、口を離す。ホットチョコレートをクピ、と小さく喉を鳴らして飲んだ×××が、彼に目をやり、小さく首を傾げて笑った。
「苦かった?」
「悪い豆だ」
「そんなこと無いよ。私が入れるときはおいしいもん」
「おれが下手だって言うのか」
「そうじゃん」
「チッ」
 忌々しそうに舌打ちをするが、直後、×××に向けられる気遣わしげな目。ん?とローを×××が見つめ返して、赤い頬のまま、ふにゃりと笑った。
「でも、こっちはおいしいよ」
 ありがと、と囁く×××を濃紺の瞳がジイと見つめ、フイ、と逸らした。
 小さい頃から、よく彼女の為にと作られたそれは、いつの間にか体にが覚えていて、ローが飲むコーヒーよりも上手くなっているだなんて、他人には知られたくない事実だった。微かに息を詰めて、×××の顔を見ないように努める自分に皮肉混じりに息を吐いた。
「あァ」
 懐古の念が胸に沸き、返事した途端にらしくなく気恥ずかしくなる。バスッ、と小さな頭を手の平で押した。うぶっ、と大凡女とは思えない呻き声に笑って、気まずくない沈黙がその場を支配する。
「ロー、トラファルガーのお爺さんは?」
 暫くして、頭をふらふらさまよわせながら、×××が囁く。二人しか居ない空間では、普通に喋る必要さえなく、ましてや隣同士ならば囁き程度の音量で構わなかった。
 朝(×××が熱を出した時)、連絡しても出なかったの、と言う×××。トラファルガーのお爺さんと言うのは、ローたちの住む村にある、小さな診療所の唯一の内科医だった。昔から風邪を引けば彼に連絡をすると決まっていて、×××も同様にしたが、上手くコンタクトが取れなかった、らしい。
 彼女の言葉にローは思わず顔をしかめて、呆れたように口を開いた。
「馬鹿か、しばらく前に一週間は居ねェっつって町に行っただろ」
「だから電伝虫が通じなかったんだ」
 ぽやん、としてホットチョコレートに口をつける。ローは、×××が熱に浮かされていた事も考え、トラファルガーのお爺さんが居ると勘違いしたのも無理もないと思った。
「シャチに連絡したらしいな」
 ペンギンの連絡によって、×××の家を訪れたローは、そこで、ペンギンを呼んだのがシャチであったことを知った。苦いコーヒーを仕方なく喉の奧に流し込む。ローの渋顔を×××が見つめ、静かに首を振った。
「うぅん、初めにローにしたの。でも居なくて」
「マジか」
「マジだよ」
「いや、ワリィ…」
「んーん、でもロー、外科医なのに、内科も出来るんだね」
 ローの、深い藍色の瞳が驚愕に見開かれる。×××の軽い口調に珍しく罪悪感が募る思いがした。彼が×××を覗き込むように顔色を伺っても、当の彼女は何とも無さそうに医学書のページをペラリと捲って見せる。ローの視線がそこに落ちた。自然と口から漏れる言葉に重みが増す。
「おれは医者だ。どっちにも精通してねェと、どっかの馬鹿共が死んじまうだろ」
 真剣な口調に、×××が視線を上げる。帽子の鍔によって目元に微かな影が差す。×××の柔らかな微笑みに、ローは微かに動きを止めた。
「うん、ありがとう」
「それにてめェのは只の熱だ。おれが出るまでもねェ」
「でも来てくれたよ」
「ペンギンが大袈裟なんだよ」
「うん、ありがとう」
「チッ、熱でボケやがって」
「大分具合は良いよ」
「たりめーだ」
「ろぉ、ありがと」
「…ドーモ」
 へへ、と×××がにやけて、微かに赤の差した彼の頬を指摘する。
「ばァか、早く寝ろ、…×××」
 にこー、と笑う×××が針金細工のような細く、薄い体躯の彼を包むように毛布を広げた。再びローがばァか、と優しく×××を罵り、誘われるように、毛布で包んでくれた彼女をギュウ、と抱き込んだ。甘く、チョコレートの香りが彼の鼻腔を掠めた。
 パチリと薪がはぜ、小さく形を崩した。煌々と熱を部屋に広げる暖炉のそばで。苦いコーヒーは脇に寄せられ、部屋に薄い熱を加えた。ポカポカと発熱する小さな存在を包む。しんしんと窓の外には雪が確認できる。
 白い銀世界、小さな家の小さな一室、暖炉脇の小さなラグの上、毛布に隠れて抱き合う彼らを見守るのは、

雪国が内包する優しい世界。


---
今日は!突然謝罪から失礼します!すみません!やたらめったら長くなってしまいました(。つω`)
奏姫様が私のハートの海賊団が好きだと仰ってくれて…!全員だそうと←ばかです
したら…アホみたいに長くなってしまいました…orz
キャプテンが甘いなんて…!色々捏造込みで、訳分からん所もあるかも知れませんが、愛と感謝を込めて…!(ボソリ全部に意味を込めてます)
あとは奏姫様のご想像にお任せしますが。

拙文ですが、ぜひお納め下さい!
奏姫様に相互感謝とありったけの愛を込めて!これから宜しくお願いします!

<-- -->

戻る