text | ナノ

 ガオー、食べちゃうぞー!鼻にギュッとシワを寄せて吼える。私の周りに屯っていた動物達が散り散りに逃げていくのを見て、満足したように鼻を鳴らす。ふん、みんな馴れ馴れしいのさ!×××さまはねェ、アモイトラなんだぞー!怖いぞー!見よ、この自慢の体色。マルタタイガーとも呼ばれるけど、まァどっちでも良いよ。パタリと太い尻尾を地面に叩きつける。先っちょから鼻の頭まで、見事なシアンブルー。黒い縞模様と相まって、カッコいいモノトーンカラーになってる。他のトラはそんなこと無くて、何時でも×××さまは一際目立つのだ。
 ま、みんなこの色に敬虔の念を感じるのか、仲間達は×××さまを遠巻きに見るけど…。あ!別にサミシくなんか無いんだぞ!ちょっぴり羨ましく…。違うからな!
 でも、何だか小動物には好かれるのか、やたらと私の背中に止まる鳥、寝転がると腹部に身を沿って眠る兎…。その近くで胡桃をかじるリス。ちょっとお!食べカス落とさないでよね!×××さまの毛並みが!ううう、だからヤなんだよォ。それにお腹が減ると食べたくなっちゃう。
 そう、私は肉食だ。でも食欲が湧いても、自然と対象は彼らじゃない。雑食だから、木の実もフルーツも食べるけど…。お肉だったら、こう、牛とか、豚とか、鳥でも鶏とかしか食欲が湧かない。しかも火がしっかり通してあるやつ…。×××さまは高級志向なんだよ。お前らみたいな肉が薄そうなのは嫌。うん、きっとそうだ。友達が居ないからってそんな…。
 ううん、と寝返りを打って、コロリとそのまま立ち上がる。プルプルと体を震わせて草を取っ払う。ぐいぐいと背伸びをすればうみ゛ゃー、と欠伸が零れた。カァー、変な声!誰も聞いていないと思っても、キョロキョロと周囲を見渡してしまう。うん、誰も聞いてない。
 しかし、アツいなァ。のしのしと2m以上もある体を動かす。勿論このぽてぽてした手も自慢である。肉球なんて可愛いの一言だ。みんなの給水場でもある湖には私だけだと思った。水面をのぞく。あァ、今日の私も何て可愛いんだ。一頻り自分の顔を眺めて、満足した私は冷たい湖水で口を潤した。揺れる水面が変だ。
 バシャバシャと立つ音に、私はスク、と立ち上がった。身を翻して逃げようとしたら、モサッて何かに引っかかる。
「ヨッシャ!ペンギーン捕まえた!」
「おっし!」
「ベポ!押さえとけよ!」
「キャプテンに命令されないとやる気出なーい」
「うるせッ」
 え?何、何!?あの!網で私の毛並みが乱れてるッ、ンッ、だっけっど!
「暴れるなよ!」
 ガウガウ、威嚇しても謎のコイツラは離そうとしない。
 キャプテンに見せようとハシャぐ白い奴ら。え?私の可愛さを?そりゃ、見せつけるしか無いでしょ!誰か、あ、そこのサングラス掛けた変な鼻の男でいいや、ブラッシングしてちょうだい!綺麗にしなきゃー。
 私がピタリと抵抗を止めると、男たちはざわざわとしゃべり始めた。
「あれ、暴れなくなった」
「おー?ま、楽っちゃ、楽だから気にするなー!今の内に運んじゃおーぜ!」
「おい、キャス、コイツなんかお前見てね?」
「え?ロックオン的な?」
「え?なんか欲しいって目で見てるよ?」
「命!?」
「うるせッ」
 ユラユラと揺れる網の中、私はどの角度からみたら一番可愛く見えるか、取るべき自分のポージングを巡考していた。

ガオー
(×××さまはマルタタイガー!青灰色の体毛が素晴らしく綺麗な女の子さ!さあ、崇め讃えても良いんだよ?)

11/08/30
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