text | ナノ

(ミホークさん。私、店長のところに荷物があるんですけど、それに、仕事…)
(あァ、心配無用だ。事前に言ってある。主の荷物もある)
 ベタベタとくっ付き、ミホークの帽子に影がかかる頃、腕の中で顔を上げた×××はそう尋ねた。
 動揺も見せないその返答に、×××は一瞬言葉の意味を考えて、大きく声を上げた。
「えぇ!ってことは、私、店長に仕事辞めるってことになってたんですか!?」
「左様」
「だって、私行くだなんて一言も」
「今は違うだろう」
「えぇぇ」
 頭を撫で撫で、スルリと降りて頬にも無骨な手が滑る。×××は困ったように、目を細めて、剣豆が出来ている手の平にグ、と顔を押し付けた。
「それにおれは最初からその心持ちでいたと言っただろう。四方や、主は嫌か」
「ぇ、」
 うーん、と唸って、顔を伏せる。栗色の髪から覗いた首もと、そこにミホークは自分で付けた赤い痕を見て、目を細めた。徐に顔を近付け、耳元に溜息混じりに声を洩らす。
「×××」
「ふやぁ!なっ!な、な、!」
 バッと顔を上げる。ふるりと体を震わせ、真っ赤に染まった顔で、信じられないと見開いた目で彼を見上げる×××は、その先に鋭い金色の目を捉えた。ゆっくりと喋る調子に、相変わらず言葉に起伏があまり見えない。しかし、×××には彼の気持ちが沈んでいるのが分かった。
「先の言葉に偽りがあったのか?」
「ちが、(だって店長は、知ってたってことでしょ!?は、恥ずかし〜)」
「何が不満だ」
「あゥ、も〜!やだ!ミホークさん格好いいんだもん!そんな風に言われてると思うと恥ずかしいんです!ちょっとォ接近してこないで下さいよ!」
 わたわたと手を振って、最後にミホークの真摯に×××を見る瞳を見て、とうとう×××は、その手で自分の顔を覆った。
 全面的にミホークについて行く意志があるのを確認した彼は、×××を抱き上げたまま、ゆったりと歩き始めた。その顔は意地の悪い笑みをうっすらと浮かべている。
「ほゥ?主からベタベタと縋って来ているとばかり思っていたが」
 ニヤリと口端を数ミリ上げて、腕の中の×××を見下ろす。途端に暴れ出す小さな体。どうやら漸く彼にからかわれていることを自覚したのか、きゃんきゃんとめちゃくちゃに喚いた。
「じゃ!降ります!歩きます!ミホークさん!んゥ!ん、んんんー!」
 バシバシと胸元を叩く彼女の細腕を捕まえ、もう片方の腕で彼女の腰をグイと引き寄せ、拘束を強めた。ピッタリ合わさった唇。キツく口を結んでいたのに、優しく親指の腹で手の平を撫でられ、口内に彼の舌が侵入するのを許す。そのまま散々なぶられ、甘い戒めから解放された時には、×××は肩で息をしていた。
「んはッ、もっ、――ハァ、はぁッ―ミ、ホークさん!はァッ」
「行くな」
「〜ッ!ぅぅ、はいィッ」
 下ろしていた瞼が開くと目の前に金色の瞳。微かに寄せられた眉。真っ赤に頬を染めた×××は、恥ずかしいやらなんやらで、その逞しい胸元にグリグリと頭を押し付けるのだった。

後の小咄


---呟き
 早よ出航しろ。(#´^ω^)
 完結直後らへんの話かな。ちょっとした伏線の回収。伏線って程でも無いけど。
 店長があんなに急かした理由。知ってたんですね!ミホークさんが×××ちゃんを連れて行くつもりでいたこと。
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