text | ナノ

「ベポー!」
「キャス!」
「ペンギン!」
 誰だったか、コイツの声をセイレーンのように美しいと描写したやつは、言っとくがな、今でこそ人魚だの、水の精だの書かれるようになったが、あれは怪物なんだぞ、しかもセイレーンの歌声を聞いて船を沈没させられるって…、冗談じゃない。
 こっちは散々寝不足で頭がガンガン鳴り響いているってのに。脳みそが液状化したみたいにやたらと重いんだ。誰かアイツを黙らせろ。なまじ声が通るだけに突き刺さるんだよ、お前の声が。

「ベポー!」
 本当、なんて喧しい女なんだ。
「あれ、キャプテン、隈が酷いですよ」と×××。
 元からだ。ばかめ。

 キャプテンが朝から起きてきた!ハートの海賊段の我らが船長・トラファルガー・ローは誰が見ても寝不足なのってくらい酷い隈を持ってる。そして案の定そうで、しかも超が3つつくくらい超超超低血圧の、寝起きが酷い、でも寝れない人なんだ!そんなくらいなんの船長がみんなと同じ朝食の場にいるなんて!天変地異の前触れ!?いや既に天変地異だ!!うわー!!
「言いたい事はそれだけか」
「ぎゃー!!」
 以上キャスケット帽がチャーミングなおれ、シャ○チでした!でも、みんなキャスって呼ぶよね(笑)ちょこっと発音変えるとカスだよね!でもおれ負けない!

 はい!オハヨウゴザイマス!今、朝から何だか大音量で放送されたキャスのナレーションは当然のごとく、キャプテンに咎められ、恐ろしくとも、静かな朝食が始まります。×××です。
「×××朝食が終わったら部屋に来い」
 ひえ!え、え!?私も!?
 不機嫌さ倍増の、おどろおどろしい船長が超不機嫌時使用の低音ボイスで告げられた、死刑、宣告、なもの?船長は音の起伏が余り無い、余計に怖い。がくがく。
「はは、×××死ぬなよ!」生首のキャス!お前が言うか!

 でも、やっぱりなの!?船長はそれだけ言うと食堂から出て行ってしまって、後からベポ(白熊、喋るものを指す)が、キャプテンの朝食らしき物(コーヒー一杯!)を持っていった。
「キャスのせいだ。私は何も言ってないのに…」
「喋ったろう。鳥頭」
「違う!キャプテンの頭にくることなんか言ってないってこと!」
「ばかだな、声を出す時点でお前は呼び出される条件を五つはクリアーしている」
「何!?そんなに!?」
「この話しをするのは何回目だ?ジャンバール」
「117」
「鳥頭、よく聞け、
一、キャプテンの鼓膜を震わせた。
一、2000Hz以上出した。
一、キャプテンの視界に入った。
一、キャプテンに発言させた。
一、お前だから。」
「ひ、ひど!私がしたのって声出すくらいじゃない、それに」
「2000Hz」
 ジャンバールの抑揚のない声。クイッ、顎でしゃくられて、なんで言うこと聞くんだろう?私の疑問は今それどころじゃない!?と脳内の私が隅に追いやる。手の甲を口元に持って行き、彼の声に怯みながら、
「う、それだって声だよ!?」
「はあ、早く船長室に行けよ。キャプテンはお前が食べ終わる頃を知ってるんだからな」
「えー!?いってきます!」
 最後まで冷たくあしらわれた私は、何で私の食事事情を知ってるんだとか疑問にも思わず。最後の捨て台詞に、鳥はペンギンだばーか。と言って食堂を飛び出す。ペンギンの影になった目がギラリと光った。怖いだなんてそんな、ばかな。
 キャプテンは見た目通りちょっぴり神経質。だから、キャプテンの部屋はみんなと離れてる。ただ今私が歩いている廊下はキャプテンに許可された時とベポ、ペンギンだけ許されている。多分、ペンギンは事務的な話しとかで、副船長みたいな立場だから。ベポは…、癒やし要員かな。だってキャプテンは絶対モフモフが好きなんだ。だって帽子がモフモフ…。滅多に無いけれど、たまに甲板でベポのお腹を枕にして寝ているし、ね?
 そんなこと考えて、にやけてたら、扉(いつの間にか着いてた)の向こうから、低い、不機嫌な声。条件反射で背筋をピーン!と伸ばした。おお、怖っ!
「…失礼しま〜す」
 全然、何でも無いですよって顔をして入る。私が用件を聞こうと、口を開く前に、
「何で何時までも入ってこない」
 目の下の隈が酷い。心なしか、顔色も悪いような。無論いらいらいら…、てしてる。あ、気付いちゃったかも…。キャプテン、具合が悪いのかな。
「うう、すんませんっした」
「こっちに来い」
 怠そうに目を背けられ、ベッドの側に視線を落とした。多分そこだと思う。そろそろと歩いて、ベッドヘッドに背を預ける彼を見ると、丁度彼も私に視線を合わせていたみたいで、バチッ、と視線がぶつかる。何となく、離さないでいると、ぐっ、と眼力が強くなって、
「何だ」
 短く告げられる疑問。
「キャプテンでしょー!視線外さないの!」
「っ、頭に響くから喚くな」
「ぁ、ごめんなさい」
 ちょっと気まずくなって、視線を外すと、どちらが喋る事もなく静寂が訪れる。ベポが入れたコーヒーを飲む音。カチャリとソーサーにカップを納め、また沈黙。私の視界には、生憎シーツと、隅っこにキャプテンのパーカーしか見えない。チラリと彼を見れば、相変わらずの酷い目元で、医学書なんかを読んでいた。パラリと今、ページがめくられる。スラリと長い指の、節々はやはり男の人を感じさせて、私の心臓がトクリと跳ねた。って!私いらなくない!?
「ねぇ、キャプテン、用は無いの?もう行って良い?」
 じと、とした視線を彼に向けたら、此方を見て、微かに瞠目した。え、なに?
「居たのか」
「き、キャプテン…そりゃ無いよ…。帰らして頂きますね…」
 ぽかんとした。が適切なほど、ぽろりと零れた彼の本音に×××は傷心です。もう。反論の声を上げる気力も無くし、顔を落としながら、立ち上がろうとした。した。
「キャプテン。この手は何ですか」
「…」
 無言で、ぐいっと手首を引かれる。おわぁ!だかあわあ!だか大凡乙女らしからぬ悲鳴?を上げて、手をつこうを、前に突き出す。あ、駄目だこりゃ、と顔面からズベッ、と転び、キャプテンの膝に上半身を載せていた。
「あわわわ、ごめんなさいっ、でも何なんですか?ちょ、離して欲しいなあ…」
 もぞもぞと動いて、目で訴える。手首を掴まれちゃ動きにくいんだが…。キャプテンは僅かに眉をキュッと寄せて、言った。
「俺に命令するな」
「命令じゃなくて、お願いなんですけど」
 がっくし、と肩を落として、取り敢えず上半身を起こす。ぐいぐい引いてるキャプテンを自然に無視する。あ、今機嫌悪くなったな。
「×××」
「う〜、あいあいキャプテン…」
 ペタンと、彼と並ぶようにして、作られたスペースに座る。また、無言が落ちたかと思えば、徐に体を動かし、落ち着いた。頭が私の膝に…。え、膝枕?
「あっ?あの〜…」
「一々言わなきゃ分からないのか」
「え〜、分かりません」
 猛烈機嫌が悪そうな目で見られましても…。なんて思いながら、目を合わせる。何故か目を細められ、ちょいちょいと指で誘われ、耳をキャプテンに寄せるように近付ける。×××と言われ、え?と思いながら、彼を見ようとしたら、肩に腕が掛かっているのが見えて、スッと膝の上が軽くなって。
「〜!?キャプテン!」
「煩い」
 再び、膝上に彼の頭が下りる。もう力が抜けきっていて、目は下ろされていた。
 煩いと言われて、色々言いたいことも我慢していたら、ゆっくりと、薄い唇が震えた。
「良いか×××、yesしか聞かないからな」
「…あい」
 俺が寝るまで、うるさくするな。
 告げられた言葉に絶句して。(だって!そこは告白でしょ!?さっきっキごにょごにょ…!)気を取り直して、返事の代わりに子守歌を歌ってやった。嫌がらせのつもりだったのに、うっすらと笑みを描いた口元、穏やかな表情をされちゃ、私は赤面するしか無いのだ。

そろそろyesを言わせてよ

---独り言
聞かせては、キャプテン
言わせては、×××さん
みたいな

11/05/18
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