背中に大胆にも不敵に笑う髑髏。×××はその頭がコクリコクリ船を漕いでいるのを見て、船縁に近づいていった。近くに置かれたバケツには海水のみで、まだ魚の気配が無い。 「…エース君、」 近づいてみると、彼の微かな寝息、そして鼻提灯。いったい何を夢に見ているのか直ぐに悟れそうな、だらしなくにやけた口端によだれが垂れかかっている。 「エース君…、起きて、つり番してたんじゃないの?」 ×××は呆れて、ハァと息を付き、ハンカチで綺麗にしてやる。釣り竿を代わりに持った所で、むにゃむにゃと意識が浮上してきたのが伺えた。 「あー、よく寝た。ありっ?おれの竿がねェ」 「これだよ、エース君良く寝てられるね、魚が来たらどうするの」 パッと開いた両手を覗き込むエースに×××は釣り竿を振って答えた。 「わりィな持っててくれて…、そりゃっ、気付くぜ?竿に振動が来るだろ?」 「…餌くすねられてるのに?」 「すいませんでした」 ぺこりと頭を下げるエース。 ×××はニコと笑い、餌を付けなおした竿を返し、横に座る。エースは、そんな×××を横目に、竿を振り上げた。 「で、×××は何しにきたんだ?」 「特に、ただ背中の誇りに誘われて」 「ふーん」 「エース君って、暑がりなの?上、着ないよね?」 「あー、炎だからな、だけどそれだけが理由じゃないだろ?」 「?」 「×××が言ったじゃねェか、誇りを見せたいんだよ。自慢してェの」 「ああ〜、そっか確かに、白ひげの証をね…」 気恥ずかしそうに帽子をかぶり直しすエースをみた×××は、簡略化されたみんなのとは違う。唯一船長のと同じマークを刻む彼の背に目を向けた。その視線に気付いたエースが誇らしげに背中を向ける。 「格好いいだろ?」 「うん」 「エース!お前しっかり釣れよ!?じゃないとおめェの晩飯無いからな!!」 突然二人の間に入る声。エースがビクリと肩を揺らし、次の瞬間にはその声の方に怒鳴り返していた。 「えぇ!?そりゃ無いぜ!!」 「×××ちゃん!そんな奴放っておけって!コイツ、食料庫に懲りもせず侵入しやがったんだぞ?真面目に釣って貰わないとこっちの生命も脅かされるぜ」 「あ、はい、でもエース君寝てましたよ?」 ×××の姿をエースの横に認めたのか、×××にも声が掛かり、×××はそれに返す。しかし、あっと気が付いた時には遅く、エースが明らかにヤバいと顔をしかめた。キョロキョロと周囲に逃げ場を探す。 「あ!×××言うなよ、」 「エェスウゥ!!」 「さ、サッチさん!」 エースが逃げるより先に×××がガバッとサッチに抱き付く。 「なぁに?」 「向こう行きましょ!」 「な、何だよ?このサッチさんに呼び出しだなんて、期待しちまうぜ?」 「あはは、」 腕を振り上げ、あっという間に近づいてきたサッチの腕にしがみつき、グイグイとエースから引き離す。途端にデレデレし始めたサッチに苦笑し、×××はエースに振り返り、眉を下げながらごめんと口パクする。エースも、×××の意向に気が付いたのか、ニカと笑って手を振った。 そのまま船尾の方まで連れて行き、自然と彼の腕を解放する。サッチがぼそりともっとこう、ムギュッと、とか何とか言う声は無視して、×××は何で呼び出した事にするか、頭を悩ました。 「あ!さっき、エース君と話してたんですけど…」 「エース!」 「あ、サッチさん!あの!サッチさんって白ひげのタトゥーって入っているんですよね!?」 「え?そりゃァおれらの誇りだもんよ、入れてるぜ?」「そうでしょうとも、でも、マルコさんもラクヨウさんもキチンとマークが見えるじゃないですか、サッチさんってどこに入れてるのかなァって気になっちゃいまして…」 「え!?×××ちゃん、おれの事気になっちゃってんの?」 「あ、まぁ、はい!気になってます!」 「そっかァ」 一気に雰囲気が怪しくなる。何時もヘラヘラしたサッチの顔が真剣になり、×××の肩を抱き込む。そのまま耳元に口を寄せ、片手はスカーフに掛かり、シュル、と解いた。 「×××ちゃん、おれの誇り、みたい?」 「え!?な、なんですかこの雰囲気…」 「確かに、おれァエースやマルコみてェに露出はねェからな、でも×××ちゃんになら、おれの誇り見せてやってもいいぜ?」 「え、え、あ、はい…」 肩に当てられた手が、スルリと下へ滑り、ぐっと×××の腰を引き寄せる。サッチのコック服の前がはだけられ、もう片方の手が×××の頬を撫でる。×××の両腕は行き場を無くし、ユラユラさ迷って、 「テメェ何やってんだよい!」 ガンッ!!とサッチの姿が×××の視界から消え、変わりに瑠璃色の白ひげのタトゥーで一杯になった。ギュッと押し付けられるそれは固くて、×××はカッ、と頬が熱くなった。 「×××!おめェなにサッチなんかについていった!」 「え、え!でも、連れてきたのは私で、白ひげのタトゥーを見せてもらう所だったんです!」 盛大に寄せられた眉根に、緩まない固い拘束に、そしてマルコに足蹴にされたままのサッチの為に×××は必死に弁解した。そして濃くなる眉間の渓谷。きつくなる腕。×××はバシバシと腕を退けようとした。無駄だった。 「アァ?クソ、このオッサンはよォ、おいサッチ!テメェの誇りはどこやったよい!?」 ガンッ、ともう一度蹴り飛ばされ、ボロボロのサッチが声を上げる。 「はい!腕です!二の腕です!」 「前はだける理由は!」 「ありません!」 「反省しやがれ!」 「ギャアアアアアン!!」 ハキハキと繰り返される問答。突然の終息。響く叫びに、暫くして聞こえる飛沫音。 「サッチさん!」 「おい×××、おめェもだよい、反省してもらおうかい」 「はい!」 ガッ、と後頭部を掴まれ、持ち上げられ、急接近したマルコの悪人面。元気よく上げた返事に艶が出るまで後少し。 今日の反省、人気の無いところにサッチは連れて行かない。 11/05/03 <-- --> 戻る |