ヘルカイザー#ヘルカイザーも傷付くのだ | ナノ
「カイザー無残な連敗。かつての栄光は?」とカイザーこと丸藤亮を罵った雑誌記事を一通り読んで、あたしはその雑誌を放り投げた。路地裏の地には埃やら砂やらが溜まっていて、雑誌が地面にぶつかると同時にそれらが一緒に舞い上がった。汚れた紙ふぶきが舞った中、彼は現れた。久々に前にした彼は、以前の威圧感やカイザーとしての誇りは欠片もなく、ただあったのは張り付いただけの口の弧だ。少し前までスクリーン越しに見ていた彼とは大幅に服装も目つきもに変わり果てていて、瞳には光が全く通っていない。あたしの知っていた彼はここまで落ちたのか。
「あなたが変わったのは、あの所為なのかしら」
そういいながら先ほど放り投げた下らない雑誌をブーツの先で示して見せた。そこに目線を落とした彼は嘲笑うように、雑誌の中の片膝付いた自分を見下す。こんなものはもうすでに過去でしかない、そう言いながらその雑誌をぐしゃぐしゃに踏みつけた。口端が上がってはいるが全くもって笑っていない彼の瞳を抉りたく思った。そんな気持ち悪い目しないで欲しいんだけど。ついでに愛しいそうにあたしの頬を撫でないで欲しい。あなたなんかに撫でられても反吐が出る。嫌なくらい綺麗な彼の指先を思い切り叩き落としたら、彼は目を細めて薄ら笑う。
「つれないな、俺たちは恋人だろう」
「だった、でしょ」
「終わらせた覚えは無いが?」
「死んだのよ。あたしの恋人、丸藤亮は」
そういったら、変なこというんだな俺は現にここに居てお前と話をしていると言い返してくる。気持ち悪い。目を閉じてしまうと以前の亮と何ら変わらないということが悔しい。デュエルの仕方が変わるのなら、目指すものが変わるのなら、瞳に映すものが変わるなら、どうせならあなたの声も変わってしまえたらあたしは何も言わずあなたの前から逃げることが出来たというのに。少しでも前の亮の面影が残っているからあたしはあなたに縋り付いてしまうというのに。ヘルカイザーに踏みつけられぐちゃぐちゃになった雑誌を拾い上げ、片膝付く亮を愛しく見つめた。
「丸藤亮は死んだ。あなたが殺したんじゃない」
「…なにを言っている?」
「亮が死んだから、ヘルカイザーが居るんじゃない。あたしは亮が大好きだった、愛してた。だけどヘルカイザーなんか、」
嫌いだ、嫌いだ、大っ嫌いだ。だってあたしの大好きな亮を殺してしまったのだから。こんなヘルカイザーになってしまうんだったら負け続けてくれた方が良かったのに、それで亮が存在し続けてくれるんだったら笑って応援していたのに。気がついたら泣いていた。気がついたら抱き締められてた。後ろから抱き締めるなんて卑怯だ。ヘルカイザーなんて見えないもの。亮の声しか聞こえないもの。
「…嫌いだと、言わないでくれ」
あたしを抱き締めていた腕は力強いものだったが、囁いてきた言葉は微かに震えていて、それは確かに亮のものだった。--------------