吹雪#くたばれ運命 | ナノ
お伽噺の中のお姫様と王子様のように、運命というものはこの世に存在するものだと僕は信じて疑わなかった。僕が多分そう思い込むようになったきっかけは、幼い頃から妹の明日香に絵本や童話の読み聞かせをしばしばしていたせいでもあり、そのおかげでもあると思う。物語の中の彼らはいつだって、出会う前から結ばれることが決まっていて、それからその通り結ばれ幸せに暮らしてゆく。何度も何度もその話を妹に読み聞かせる度、暗示のように己にも刷り込まれていった。そう、そして今ではそれを強く信じ、待ち望んでいた。僕の運命の人を。

そして、ついに彼女は現れたのだ。一目見た瞬間、僕は彼女に恋に落ちてしまった。仕事で取引先のビルを訪ねた時だ。いつものように受付嬢に連絡をつけてもらおうと笑顔で彼女らに近寄っていくと、つい先週には居なかった新顔の子がそこに加わっていることに気がついた。そして、その子に一瞬で目を奪われてしまったのだ。彼女は艶やかな長い黒髪で、肌は透き通るように白く、柔らかく微笑んだ顔はまさしく女神のようで…。高鳴る鼓動が、彼女が運命の相手だと告げている気がした。

僕が運命を感じたように、きっと彼女も僕が運命の相手だと気付いたに違いない、そんな根拠の無い自信に満ち溢れた僕は迷わず彼女を口説きにかかった。

君は僕の運命の相手だ!と。

その時の彼女の唖然とした顔と言ったら。そう、彼女は僕に運命とやらは微塵も感じていなかったらしい。なんとか必死に取り付けた食事の席で、彼女はそう言っていた。僕は思い悩んだ。こんなに好きなのに、彼女が僕に運命を感じていないなんて、もしかして僕の運命の相手は別にいるのだろうか、と。

もしそうだとするならば、何故僕は運命の相手ではない彼女にこんなにも胸を高鳴らせているのだろうか!

頭を抱えて思い悩んでいると、そんな僕を見ていた彼女は笑った。
吹雪さんて変な人、と。
その笑顔を見た瞬間、やっぱり彼女は運命の相手に違いない、そう思い直したのは言うまでもない。

それからというものの、僕はひたすら彼女に熱烈なアプローチを繰り広げた。きっと彼女は僕が運命の相手だと何故だか忘れていて、こうしていればいつか彼女は僕の想いの力で思い出してくれるのかもしれない!信じて疑わなかった。何度目かの食事という名のデートを重ねた後、僕が誘うばかりだったのに突然はじめて彼女からのお誘いを受けた。しかも、吹雪さんにお話したいことがあるの、と指先をもぞもぞさせながら言うものだから、僕は有頂天になった。きっと彼女は気付いてくれたのだ!と、そう思ったのだ。

彼女が選んだお店は駅前のホテルのカフェだった。落ち着いた雰囲気が漂っており、彼女からの告白を受け入れるのにぴったりな場所だと思った。彼女は僕と目を合わせるのが気恥しいのか、すこし俯気加減でやはり指先をせわしなく動かしていた。そんな仕草も愛らしいなあと思いながら僕は珈琲を口に運んだ。それから彼女は動かしていた指先をきゅっと握りしめ、意を決したように僕に向き直る。

「…わたし、運命なんて信じていなかったんです」

僕はにこやかに微笑みながら彼女の言葉の続きを待ち望んでいた。

「でも、旦那に出会って考えが変わったんです」

首を少し傾け、頬をほんのり赤くしながら、彼女は満面の笑みでこちらを見つめていた。とても可愛らしい。いや、しかし、今着目すべきはその点ではない。

「…旦那?」
「あ、つい先日結婚したんです」

まるでトンカチで脳天をぶん殴られたような衝撃が走った。なんだって??じゃあ今日は僕の想いに応えてくれるための食事ではないのかい?予想もしない方向に向かっていく展開に思考回路が置いてけぼりだ。
口を半開きに放心している僕に気付いていないのか彼女は気遣うこともせずに、僕にとってはとても残酷な言葉を畳み掛けた。

彼女がこのカフェで1人でランチをしているときに、混雑のせいで店員に相席をお願いされたらしい。そして彼女と相席になったその人こそが今の旦那だと。その日のランチにこの店を選ばなかったら?お店が混雑していなかったら?友人ともし来ていたら?
旦那とは出会うことは無かっただろう。だから、運命なんだと。

「実は、吹雪さんがあんまり運命運命言うからうんざりしていたんですけど、運命って本当にあったんですね」

幸せに満ち満ちた彼女の笑みが、僕の心臓にトドメを指すのには十分であった。こうして彼女は運命の相手を手に入れた。そして皮肉なことに、僕の運命は打ち破れたのだ。
家に帰ったら手当り次第に童話の本を破こう、そうしよう。

20161231
あとがき
元ネタはサマーと過ごした500日という映画です。あの映画なかなか心にきます。可哀想で。
来年もよろしくお願いします。
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